(テーマ音楽)山口県の日本海側に連なる阿武火山群。
そこは珍しい地形の宝庫です。
50余りの小さな火山が世界でもここでしか見られない地形まで生み出しました。
そして火山地形が育む豊かな生き物の世界。
地中から噴き出す冷気は真夏の森に不思議な生態系を出現させています。
火山が織り成す多様な自然とそこに暮らす生き物たちの営みを見つめます。
山口県萩。
阿武火山群のただ中にある歴史の町です。
その沖には平らな島が転々と浮かんでいます。
どれも直径500メートルから2キロほどの小さな島です。
島の断崖に露出した岩…噴き出したマグマの通り道が見えています。
これらの小さな島々は実は一つ一つが火山。
21万年前から6万年前に陸上で噴火。
その後海面が高くなり島となりました。
ユニークなのはその形。
平らな台地でとても火山には見えません。
粘りけのある安山岩のマグマは普通ドームの形に盛り上がります。
ところがここではなぜか平らに広がり冷え固まりました。
このような火山地形は世界中で萩の周辺でしか見られません。
こちらは1万年前に噴火した阿武火山群で一番新しい笠山。
手前の溶岩台地は森で覆われています。
そしてその上には丸い丘。
「スコリア」という軽石の一種が降り積もって出来たものです。
丘の頂には直径僅か30メートルの火口が残っています。
このゴツゴツとした岩が…笠山の台地を覆う溶岩の塊。
その上にヤブツバキが森をつくっています。
ツバキは水はけの良い火山性の土壌を好むのです。
この森にはおよそ2万5,000本のヤブツバキが生えています。
ツバキの実を求めてヤマガラがやって来ました。
ツバキの落ち葉の下には非常に珍しい生き物が潜んでいます。
殻の直径が僅か4ミリほどの小さなカタツムリ。
ここ笠山を中心に阿武火山群でしか見つかっていません。
厚く堅いツバキの落ち葉を食べふんをして大地に栄養を戻し森の再生にも一役買っています。
ツバキの森の中にそこだけ木が生えていないくぼ地がありました。
くぼ地の斜面には溶岩の塊が積み重なっています。
数時間後。
なんと池になりました。
溶岩の隙間を通じておよそ100メートル離れた海とつながっていて海水が出入りしているのです。
水の中には海の貝ホソウミニナがいました。
ハゼの仲間が現れました。
これも海の魚です。
池のほとりには塩水を好む植物シバナが生えています。
こちらも海岸の植物。
森の中に海の生き物が集う不思議な場所です。
真夏の萩は日中の気温が30℃を超す猛暑が続きます。
そのころ森の中では奇妙な現象が起きていました。
太陽が真上からさし込む正午過ぎなのに朝もやのようなものが立ちこめているのです。
その秘密はこれ。
溶岩の隙間から冷たい空気が流れ出し森の水蒸気が冷やされて細かい水滴になり漂っています。
冬の間溶岩の奥に蓄えられていた冷たい空気が夏に流れ出してきたのです。
冷気の温度は真夏でも15〜20℃ほどしかありません。
風穴のそばに生えているのは…主に寒い地方のシダの仲間です。
阿武火山群は対馬暖流の影響で暖かい地方の植物が多いのですが風穴の周りだけは例外。
こちらはやはり寒い地方のシダ…ガがしきりに羽ばたいていますがうまく飛べません。
このカギバアオシャクは主に暖かい所に住む種類。
迷い込んだのでしょう。
飛び上がるためには冷えた体温を上げなければなりません。
風穴の冷気は森の中に不思議な環境をつくっています。
田んぼが広がる盆地。
周りの低い丘は一つ一つが小さな火山です。
50余りある阿武火山群の中でとりわけ大きな噴火をしたのがこの伊良尾山。
およそ40万年前の大噴火で周囲に変化に富んだ地形が生まれました。
これは伊良尾山の湧き水を集めた滝。
溶岩は水を蓄えろ過する天然のダムです。
水はおよそ14℃。
年中水温の一定な水を流し続けています。
集まった水は田万川となります。
この川は伊良尾山から噴出した溶岩流に沿って流れています。
そのため流域の至る所で噴火の痕跡を見る事ができます。
溶岩を削って流れる川。
河原は石畳を敷き詰めたようです。
これは溶岩が冷えて固まる時収縮して柱のような割れ目が入ったもので…断面は6角形です。
柱状節理の隙間に川の水が流れ込んでいます。
水の中にはアカハライモリがいました。
流れのない所を好むためこうした場所は格好の住みかとなっています。
こちらの割れ目の水の中には…。
まだ若い群れのようです。
流れが弱い所を好む若いカワムツは流れが強く天敵も多い本流を避けこうした隠れがで暮らす事ができます。
火山が生み出す豊かな水の環境に支えられ多くの生き物が暮らしています。
平らな台地をつくった溶岩は海岸では広い岩礁となっています。
これは岩礁に残された溶岩の流れた跡。
岩礁は潮の満ち干の度に海になったり陸になったりします。
潮が引くと溶岩の流れた跡にたくさんの潮だまりが出来ます。
そこは生き物たちの小宇宙。
潮だまりに特有の魚…溶岩についた海藻を食べます。
こちらはアメフラシ。
やはり海藻を食べています。
凹凸の多い溶岩は海藻が付着しやすく住みやすい環境なのです。
ここは岩礁に近い森の中。
溶岩の間に開いた穴。
アカテガニの隠れがです。
堅い溶岩が天敵の襲撃や強い日ざしによる乾燥から守ってくれます。
今宵は満月。
アカテガニは一年中でこの時期だけ大潮の晩を狙って卵を海に放ちます。
満潮が近づいた夜の11時過ぎ。
溶岩の穴から出てきました。
海岸には既に多くの仲間が到着しています。
おなかには無数の卵の固まり。
潮位が最も高くなる時を狙ってカニたちは卵を放つのです。
海に入ります。
卵を放つ瞬間です。
海に放たれた卵の殻はすぐに割れ中から2ミリほどの子供が飛び出します。
まだ泳げない子供たちはこれから引き潮に乗って沖に運ばれ漂いながら成長していきます。
長い年月にわたって多様な火山活動を繰り返してきた阿武火山群。
世界に類のないユニークな火山地形を生み出しました。
その大地の営みはまた多くの生き物たちに豊かな環境を与えてきたのです。
修学旅行生や観光客でにぎわう京都駅。
2015/09/13(日) 07:45〜08:00
NHK総合1・神戸
さわやか自然百景「山口 阿武火山群」[字]
山口・萩の周囲にあるのが阿武(あぶ)火山群。わずか20キロ弱の狭い範囲に50以上の火山が集中する。世界唯一の安山岩の溶岩台地、柱状節理など多様な地形が見られる。
詳細情報
番組内容
山口県・萩の周囲にあるのが阿武(あぶ)火山群。わずか20キロ弱の狭い範囲に50以上の火山が集中する。世界唯一の安山岩の溶岩台地をはじめ、峡谷、海食崖、柱状節理、溶岩島など多様な地形が見られる。そうした地形は、貴重な生きものたちを育む。溶岩を通った地下水が作る落差70mの道永の滝は夏でも水温が14℃と冷たく、その下流の田万川には、アカハライモリなどが生息。多様な火山が育む豊かな生きものを見つめる。
出演者
【語り】中村慶子
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 自然・動物・環境
趣味/教育 – 旅・釣り・アウトドア
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz
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