過酷な生活からの脱出。
シリア難民などがヨーロッパに押し寄せています。
各国の対応を変えたのは渡航途中に起きた幼い男の子の悲劇でした。
次々と受け入れを表明しEUだけでも16万人。
支援の手が差し伸べられた一方で。
今や立ち入ることすら難しいシリア。
危険な状態に置かれたままの人たちがいます。
こんばんは。
これでわかった!世界のいまです。
今夜のゲストは気象予報士の井田寛子さんです。
先週から多くの人が、ヨーロッパに移動する様子を見て気になっています。
1時間目そちらを見ていきます。
2時間目は伝統衣装の復権発信源は女子大生。
こちらの2項目です。
見えない難民というのはなんですか。
きょうの先生を呼んでみましょう。
国際部の太デスクです。
太さんは覚えていらっしゃいますか。
2回目です。
本物の先生なんです。
授業を始めましょう。
見えない難民と書かれています。
どういうことでしょうか。
まず、こちらを見てください。
シリアからドイツやイギリスなどを目指して海や陸からヨーロッパにたどりついた人は34万人に上っています。
ことし急激にこの人数が増えています。
先週、EUヨーロッパ連合は今直面する最大の課題だとして、難民を新たに16万人受け入れる方針を示しました。
しかしヨーロッパにたどりついて救われているのはごく一部の人たちです。
ほかにもいるんですね。
こちらで説明していきたいと思います。
この上にいるのが今説明した難民としてヨーロッパまでたどりついた人たちです。
34万人です。
ハンガリーやギリシャに入った人たちですね。
ところがこの下には10倍以上およそ375万人の人たちがいるんです。
この人たちはシリアを出ても、ヨーロッパにたどりつけていない人たちです。
そんなにいるんですか。
これらの人たちはシリアで政府軍と反政府勢力、それにISの三つどもえの内戦になり、この混乱から周辺国に避難している難民です。
トルコやヨルダンなどですね。
こうした人たちからもヨーロッパに向かう人が相次いでいるんですが例えばゴムボートなど粗末な船で海を渡ろうとして、命を落としてしまう、またトラックの荷台に詰め込まれて移動中に死亡する。
命を守るために国外に避難した人たちが、その避難先で命を落としてしまうという悲惨な出来事が起きているんです。
VTRにもあった波打ち際で遺体で見つかった男の子も移動中だったんですね。
お二人は内戦前のシリアに行かれたことはありますか。
ないです。
シリアというのは4000年もの歴史がある最古の都市がありまして東西文明の十字路として繁栄を極めました。
緑が多く肥沃な土地がある中東の中でも豊かな国だったんです。
こちらをご覧ください。
内戦前のシリアの映像です。
治安もよく古代遺跡の観光資源もあり日本人にも人気の高い所でした。
中東ツアーでは定番の観光地だったんです。
中東の社会文化の中心といわれるほど活気のある国だったんです。
映像を見ると平和だなというイメージです。
きれいな祖国を追われてヨーロッパに行こうとしてもたどりつけていない375万人、この人たちは今、どういう状況にいるのか、何とかしてヨーロッパに渡ろうとする難民が集まる隣国トルコの街がありまして取材しました。
トルコ西部の港町イズミールです。
街角にシリアから来た難民の人たちが集まっていました。
そこへヨーロッパへの密航を仲介する業者の車が現れました。
ギリシャへ渡るボートが出る海岸まで案内するのだといいます。
先にヨーロッパに渡った息子を追って海を渡る決心をしたアブー・アクラムさんです。
業者に手数料を支払うため、広場で野宿をして生活費を切り詰めています。
しかし。
日本円で10万円余りを支払った業者と連絡が取れなくなってしまいました。
密航を仲介する業者の1人から難民が支払う費用などの実態を聞くことができました。
街で家族連れと出会いました。
イブラヒム・ハリルさん。
子どもたちと一緒にヨーロッパを目指していますが、この街に来るまでに所持金が尽きてしまったといいます。
食事にすら困っているイブラヒムさんが渡航費用を捻出するために出した答えは、自分の体を金に換えることでした。
シリアへ戻ることもできず、追い詰められた難民たちは身も心も削りながら密航に最後の望みをつないでいます。
子どもたちの涙が語っています。
子どもにしたらお父さんが腎臓を売ってまでと思ってしまいますよね。
人の弱みにつけ込んでだますなんて。
ゴムボートを借りるだけでも15万円ですか。
シリアの人にとってはどのくらいの金額ですか。
シリアの公務員の平均的な月給は、大体3万円から4万円ほどと言われています。
この密航業者が困っている難民の足元を見ていることはよく分かると思います。
詐欺も多いと言っていましたね。
それ以外に方法はないんでしょうか。
ヨーソロー。
千里子、井田さんそこは俺が説明しよう。
難民の中には、体力に自信のない子どもや老人もいるんだ。
比較的安全に渡ろうとすると密航業者に、頼らざるをえないんだ。
ヨーロッパの捜査当局によると困った難民につけ込む業者は3万人にも上るらしい。
難民たちでひともうけしてやるぜ。
金を払わない難民は船には乗せない。
いざというときの救命胴衣も浮き輪も別料金だ。
だけど、借金してでもEUに行きたい難民は、いっぱいいるんだヨーソロー。
弱い者いじめする業者たちよ。
俺は海の男として許さないからな。
これは許せないですね。
悪徳業者が3万人とは、多すぎないですか。
お金を払った人たちだけがヨーロッパにたどりついたということですか。
結果的にそういう状況です。
実際にヨーロッパまでたどりつけた人たちの姿を見てください。
もちろん見た目の差はありますが、比較的、身なりはちゃんとした格好の人が多いんです。
英語を話し、教育を受けてきたことがうかがえ、弁護士や医師などの仕事をしていたと話している人もいます。
全員が裕福なわけではありません。
そうした家では親戚から何とかお金をかき集めて若い男性が家族の期待を一身に背負って1人で先行してヨーロッパに向かうケースもあります。
結局、資金を用意できる人だけがヨーロッパにたどりついているというのが現状なんです。
情報は、スマートフォンなどで。
そうですね。
こちらをもう一度見てください。
シリアから脱出した難民は上と下の部分を合わせて409万人、このうちヨーロッパにたどりついたのは上の部分の34万人。
上と下を分ける主な理由は結局、資金があるかないかです。
お金で、ここに線があるわけですね。
一斉にヨーロッパに移動し始めたのはなぜ今なんですか。
難民たちにとって、4年という歳月が非常に重いものになっています。
難民たちはこれまでの避難から、生活を考える段階に入っているんです。
2011年のアラブの春をきっかけに政権による市民への弾圧、そして武力衝突に様変わりしていった中で住民たちは一時的な避難のつもりで着のみ着のままで周辺国に脱出したのです。
当時、私が難民キャンプを取材したときには多くの人たちがすぐに自宅に戻るつもりだと話していて混乱はすぐに収まると期待していたんです。
さらに去年アメリカなどが軍事作戦を開始しました。
シリアの問題解決に向けて動きだしたことで、その期待はさらに高まっていったのです。
しかし空爆が始まって1年たってもISは勢力を維持しアサド政権と反政府勢力による内戦の終結の見通しは全く立っていないんです。
紛争が続いている中でたくさんの人たちがシリアの国外に避難しました。
周辺国を見てもこのように難民キャンプがたくさんあります。
当初は皆さん、すぐに戻れるつもりだったはずなんですが、これだけの年月がたって今どのような思いでいるのか、隣国レバノンの難民キャンプを取材しました。
シリア難民のほとんどは、まだ周辺国の難民キャンプで苦しい生活を余儀なくされています。
レバノン東部の難民キャンプです。
70あるテントにおよそ90家族600人の人たちが身を寄せ合って暮らしています。
ヒララ・ハムドさんです。
3年前までシリア北部のラッカで夫と10人の子どもと暮らしていました。
しかし、内戦は激しさを増していきました。
ヒララさんは病気で動けない夫を残し子どもたちと難民キャンプにたどりつきました。
その後、ラッカはISが制圧。
ISの恐怖支配が続く今、帰る希望はますます小さくなっています。
頼みの綱だった国連の支援金も去年の半分以下に減り、僅かな米や油などしか買えません。
心臓病を患い、知り合いから借金して何とか薬を買いましたが心も体もボロボロだといいます。
胸が痛いです。
3年間こういったキャンプ生活をされていて残してきた旦那さんのことも気になるでしょう。
1人で子どもを守るのは大変だと思います。
不安だらけだと思います。
今の難民キャンプ、こちらのレバノンでした。
難民の半数近くが避難しているのが、北側にあるトルコです。
ここにもたくさんのキャンプがあります。
しかし先月、トルコがアメリカの対IS作戦に加わったことで避難先のトルコ国内でISによるテロの危険が高まり安全な避難場所ではなくなるおそれが出てきたんです。
さらにトルコがシリア国内に、安全地帯を作りましてトルコに避難した難民をシリアに移そうという計画が現実味を帯びてきました。
安全地帯とはいっても、自宅に戻ったり暮らしを取り戻せるわけではないんですね。
そうです。
避難先のトルコでは生活のために仕事をしたくても許されない。
そうすると避難している場所にはもういられないと考えるわけです。
そして多くの難民が、厳しい寒さが訪れる冬を前に、今ヨーロッパへの移動を決断しているというわけです。
確かにこの辺りは、砂漠がほとんどです。
夏はすごく暑く冬はものすごく寒いというところです。
冬は氷点下に下がる日もあるでしょうし雪が積もる日もあると思います。
厳しい冬の前に移動してしまおうということですね。
難民キャンプは確かに大変ですが国外に出られた人たちというのは、まだいいのです。
国内に残されて、出られない人たちというのが本当に苦しい生活を今、送っているんです。
もっとひどい人たちがいるんですか。
シリアというのは、危ない地域で報道の人間もなかなか入れませんが支援にあたっている国連機関は、僅かなスタッフを現地に送って支援にあたっています。
今回、中がどのようになっているのか現地の職員に話を聞くことができました。
並んでいるのは、その職員が送ってくれた数々の写真です。
今のシリアの現実が写っていました。
シリアでは、首都ダマスカスの近郊ですら戦闘地域になり、たくさんの市民が家を失いました。
UNHCR国連難民高等弁務官事務所はダマスカスに事務所を置き支援を続けています。
フィラスさんたちは、紛争で家を失った市民にシェルター、住む場所を提供しています。
しかし、その弱者への支援はなかなか行き渡らないといいます。
内戦がずっと続くとどんどん資金も足りなくなるのは当たり前ですし、助ける方法はないんでしょうか。
この人たち、国から出られずに戦闘で住む家が破壊され、まさに路頭に迷っている人たちなんです。
各地で戦闘が続く今のシリアでは、こうした人たちの実態がつかみにくいのが現状です。
危険すぎて、中に入れない支援もいけないんですね。
国連機関はこの人たちをInternallyDisplacedPerson、IDP、日本語で言いますと国内避難民と呼びまして難民と区別しています。
国を出た人は難民で、国の中にいる人は国内避難民ということで違うんですか。
ちょっとこちらを見てください。
難民を定義している難民条約という国際条約があります。
難民とは、人種、宗教、国籍、政治的信条などの理由で迫害を受けるおそれがあるために祖国を逃れた人と決めています。
そして各国に保護を義務づけています。
しかし国内避難民については難民条約のような保護の規定がなく、保護の責任はその国の政府とされています。
ここでは、シリア政府です。
しかもシリア政府は、支援物資が敵対する勢力の手に渡りかねないとして外国からの支援を制限しているため現実的には国際社会の支援が難しい状況となっています。
国内にいる国内避難民の方のほうが厳しい環境なのに、支援も受けられないというのは理不尽ですね。
この人たちこそがまさに今、見えない難民なんです。
つまり、この下に避難を余儀なくされて苦しんでいる人たちが大勢いるんです。
この最も悲惨な状況に置かれ、最も助けが必要な人たちが、実質的に孤絶している難民ということであえて、孤絶難民と呼びたいと思います。
ニュースで見ている人たちは、こちらの一角なんですね。
この孤絶難民は760万人いるとみられています。
そんなにいるんですか。
孤絶した状態でも、国内にいなければいけない、お金がないなどいろんな理由があるわけですね。
シリアでは国とり合戦のように、各地で戦闘が続いています。
街の支配状況が次々に変わるため、どこが安全か分からないで避難できないという人がいます。
またISが民衆と共存し支持を得ていると宣伝するために強制的にとめられている人や、家族を人質に取られて動けないという人もいます。
私が、混乱が始まってからシリアの中に取材に入ったときに、住宅が半分壊れて電気も水もない状況で暮らしている家族を見かけました。
自分が生まれた土地から離れたくないと残る人や病人や老人がいて動けないという人も大勢います。
以上、シリアの難民の3つの層について説明をしてきました。
シリアの全人口およそ2200万人なんですが算数の得意な千里子さん、全部足すと何でしょうか。
1174。
そのとおりです。
シリア国民の2人に1人が避難を余儀なくされているという状況です。
日本として何かできることはあるんでしょうか。
日本は難民の認定に時間がかかるなど事実上、難民にとって厳しいルールとなっています。
ヨーロッパやアメリカのようにすぐに受け入れ表明というわけにはいきません。
しかし難民を支援しているUNHCRには、およそ80人の日本人がいますしNGOとして周辺国の支援に参加している日本人も大勢います。
こうした形で支援を一層強化していくことはできると思います。
日本が難民を受け入れるかどうかの議論、将来きっと起きてくるでしょうから、今助けを求めるこの声なき声にしっかりと耳を傾けるときだと思います。
ここに目を向けていくということですね。
太さん、ありがとうございました。
すべての事実を受け止めていくということは大変ですね。
見えない難民が、目の前に見えると何かしなければと思います。
2時間目にまいります。
こちらのVTRをご覧ください。
きょう初日を迎えた大相撲九月場所です。
着物や浴衣を着ている人が多いですね。
きょうは和装デーなんです。
着物を着ていると親方と写真を撮れたりするそうです。
こういった特典を設けて多くの人に足を運んでもらうということです。
伝統衣装を楽しむ国は、ほかにもあるんです。
こちらの国です。
タイといえば、こうした伝統衣装を思い浮かべますがそれは主に観光向け。
ふだんの生活の中で身に着ける人はほとんどいません。
タイの伝統衣装は、シルクや麻の巻きスカート、肩掛けの装いなどが特徴です。
その美しさは、この数十年、生活が西洋化するにつれて人々に見向きされなくなっていきました。
こうした中、伝統衣装の魅力をアピールしている人がいます。
大学生のムサモント・チャンシリさんです。
ムサモントさんは、友達に伝統衣装を気軽に楽しんでもらおうと衣装を貸し出して、着付けも手伝います。
そのまま街に出かけます。
映画館でも。
そして、カフェでも、ずっとこの衣装です。
街の人たちの評判も上々です。
フェイスブックでも魅力を発信しフォロワーが急増しています。
活動は次第に広がりを見せています。
多くのメディアが伝統衣装の持つ美しさを改めて気付かせたとムサモントさんを大きく取り上げました。
今では多くの若者が共鳴し伝統衣装を着て街に出るようになっています。
ムサモントさんは生活が豊かになるにつれて伝統文化を大事にしたいと思う若者が増えていると感じています。
着物も、日本のいい伝統ですから着る機会が増えるといいですね。
2015/09/13(日) 18:10〜18:42
NHK総合1・神戸
これでわかった!世界のいま▽シリアから出国もできず…救い届かぬ避難民の現状は?[字]
シリア出国もできず…救い届かぬ避難民はいま。シリア難民が大勢欧州に到達する一方で国内には避難続ける人々も。その声なき声は?そして国際社会の対応は?
詳細情報
番組内容
【ゲスト】井田寛子,【キャスター】坂下千里子,井上裕貴
出演者
【ゲスト】井田寛子,【キャスター】坂下千里子,井上裕貴
ジャンル :
ニュース/報道 – 定時・総合
ニュース/報道 – 海外・国際
ニュース/報道 – 解説
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
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