ドラマスペシャル「陰陽師」 2015.09.13


よ〜くご存じで。
晴明!急々如律令。
私が陰陽師だという事をお忘れか?
(安倍晴明)都は鬼の棲み家だ。
(藤原兼家)たたりじゃあ!!
(源博雅)代々伝わる橘林の笛です。
(青音)博雅様の笛の音には心引かれまして。
(蘆屋道満)いよいよ藤原が滅びる時が来た。
晴明!我が友にまで累が及ぶ恐れがあれば防がねばなりませぬ。
み…水…。
あっ…。
あっ…あ…。
その頃国の至るところで天変地異やはやり病が相次ぎ身分の上下を問わず人々に不安と恐怖が広がっていた
村上天皇の御世都では内裏が焼け落ち朝廷を始め時の権力者藤原氏をも震撼させた
これは恐ろしいたたりに違いないと多くの人々が恐れおののいた
今からさかのぼる事千年余り前の事である
(藤原師輔)お上かよう見事に再建がなりましてござりまする。
(村上天皇)全て師輔の尽力じゃな。
(師輔)せがれ伊尹兼通が陣頭に立ち誠を尽くしたまでの事。
(藤原道長)恐れながら…我が父兼家も再建に携わりましてございます。
(伊尹)これ道長僭越であろう。
(兼通)弟兼家は兄上と私のよき手足となりましてございます。
(兼家)手足…!
(村上天皇)よきせがれどもじゃ。
(師輔)ありがたきお言葉にござりまする。
さっお上。
(兼家)兄上方は私の事を一体なんと…。
たたりじゃ…。
たたりじゃあ!!
(伊尹)黙れ兼家!ここは内裏ぞ!
(笛)
(笛)
(笛)やめろ晴明。
しかし笛が吹けるというのはうらやましい限りだな。
教えてもよいぞ。
はははははっ…。
その笛で都のおなごの心をとろけさせているのだろう博雅。
笛はそのような事に使う道具ではない。
ものは使いようと言うではないか。
物事を素直に見ぬのが晴明の悪いところだ。
それは痛い。
はははははっ…。
そうだ晴明。
近々内裏で紫宸殿再建の宴が催される。
様々な歌舞音曲雑技が披露され私も雅楽寮の伶人として笛を吹く。
私は内裏に入る事はかなわぬ。
よいよい。
私の連れをとがめる者はおるまい。
しかし…。
何も紫宸殿清涼殿に上がるわけではない。
庭の回廊の片隅だ。
人で溢れかえるようなところに行くというのはどうも疲れてかなわん。
人に交わり顔と名を広めようとは思わんのか?ああ思わんのだ。
それもお前のよくないところだ。
屋敷に閉じこもって酒を飲むか蝶や花と戯れてばかり。
現成真姿。
宴には来いよ。
いいな。

(蘆屋道満)オンギャクギャクと七段国中段国の荒式けいごう様を四方ばらんと…。
ウンウンダラリヤアビラウンケンちりちり微塵やソワカ!
(夢虫)生駒山から湧いた光は都に届き…。
(茅草)都のいずこかに消えました。
精進を積んだ技の数々をとくとご覧くださいませ。
はっ!
(笛)
(雅楽)
(雷鳴)
(物が落ちてくる音)晴明帝を!
(兼通)帝こちらへ。
あちらへお逃げください!
(兼通)何!?やああっ!うわあっ!悪霊じゃ!父上兄上こちらへ!悪霊だ!
(道長)ち…父上!
(青い貴人)我が屋敷はどこぞ。
いずこ…。
いずこじゃ…!これは…。
ここは誰の屋敷じゃ?我が屋敷はいずこぞ。
天地玄妙心月澄明千妖萬邪!東海の神名は阿明西海の神名は祝良。
南海の神名は巨乗北海の神名は愚強。
四海の大神百鬼を退け凶災を祓う。
急々如律令。
おっここではなさそうじゃ。
悪霊か?いやいにしえより今日までさまよい続けている御仁だ。
この都では珍しい事ではない。

(茅草)右大臣家の使いが参ります。
(夢虫)晴明様。

(くしゃみ)
(雑色)安倍晴明か。
いかにも。
(雑色)右大臣藤原師輔様のお召しだ。
(師輔)安倍晴明か?はっ。
そなたの事は雅楽寮の源博雅殿に聞いた。
昨日は内裏に現れた悪霊を見事に鎮めたが陰陽道を致すのか?いささか。
陰陽頭賀茂保憲を存じておるか?保憲殿の父亡き賀茂忠行様にお教え頂きました。
このところ都の内外はおろか内裏においても変事が絶えぬ。
これはたたりか?さて…。
(師輔)いまだに菅原道真公の怨霊がたたっていると口にする者もいる。
道真公のたたりではございませぬ。
おお。
右大臣家におかせられましては十年余り前北野の地に道真公をまつる社殿を建てられ先年はその社殿の増築もなされました。
もはや道真公の怨霊は鎮まったものと存じます。
だがこうも病天変地異がやまぬというのは…。
いったんは鎮まった他の怨魂が目を覚ましたのかもしれません。
怨魂?陰陽頭賀茂保憲とよしみがあると言うならばちょうどよい。
晴明には陰陽寮に入ってもらいたい。
わたくしが…?大内裏陰陽寮に上がるとならば陰陽師の誉れであろう。
はあ…。
帝も「昨日悪霊を鎮めた者をぜひに」と仰せられている。
はっ。
《蘆屋道満殿》
(道満)安倍晴明…。
帝の住まう内裏の中心には紫宸殿があり清涼殿など様々な殿舎があった
内裏を囲むように大内裏の建物が並び中務省の一画に陰陽寮はあった
およそ二百年前に設けられた陰陽寮は星や月太陽の運行による暦を定め帝に関わる祭祀や行動に災いが及ばないように進言していた
同時に病や悪霊祓いの務めも果たしていた
おお…来たな。
保憲殿以後よしなに。
晴明陰陽寮に入るそうだな。
断る理由も見つかりませんので。
いやあ…晴明が来てくれて助かる。
雑多な事が多くていささかうんざりしていたのだ。
それを私に押しつけるつもりですか?ははははっ…。
(茅草)源博雅様がお急ぎのご様子で。
そのようだな。
あ…あ…青音というそうだ。
…え?先日内裏で舞を披露した白拍子だ。
ああ…それが?会いたいのだ。
舞でも習うつもりか?晴明!ははっまあ落ち着け落ち着け。
あのように涼やかなそれでいてたおやかな女を見た事がない。
ほほう…。
晴明はおなごに心動かす事はないのか?なんのいつも動かされているよ。
あの白拍子をお主の式神どもと同じにするな。
はははっ…。
もう一度なんとしてでも会いたいのだが晴明の法力で住まいを突き止めてくれ。
出来ませぬな。
何?住まいがわかれば私も訪ねる。
よいっ!一人で探す!ははっ…。

(笛)
(笛)青音殿!
(青音)美しい調べに引き寄せられたようでございます。
私は源博雅という者。
そなたの住まいはいずこに?どけどけ!
(怒声)道を開けよ!
(怒声)兼家様。
我は左京大夫兼家ぞ。
道を開けよ!
(怒声)構わん!押し出せ!動けませぬ!牛を放して蹴散らせよ!お諦めを!
(怒声)
(ため息)なんとした?青音の住まいがわかった。
左女牛小路の持仏堂だ。
よかったじゃないか。
博雅。
持仏堂まで行ってみたが青音目当ての者たちが大挙して押し寄せ近づけぬ。
構う事はあるまい。
大江家和気家を始め藤原右大臣家の縁に繋がりある方々ばかりで…。
それを押しのけて近づくのはいささか…。
源の姓を賜ってるが当代の帝を叔父御に持つ博雅ではないか。
臆する事などありますまい。
遠慮はせんが我を忘れて押しかける様はなんとも浅ましゅう見えて…。
ほほう…。
なんだ?おなごに恋い焦がれれば浅ましくなるのは世の常だ。
私に浅ましくなれと?男とおなごの間には妄執というものがつきまとうものだ。
それを恐れる事はない。
躊躇い悩み妄執の渦に身を投げ出せばよいではないか。
からかっているのか?ははははっ…。
晴明!浅ましいからと諦めきれますかな?我は藤原義定である。
何とぞ青音殿のもとに通う事を…。
(大江元房)我は…。
邪魔を致すな大江元房!先日内裏で見たそなたの舞は実に実に見事で…。
出て行け!それ以来そなたの顔が脳裏から離れぬ。
何とぞ何とぞ…。
おのれ!何をする!おやめください。
かようなわたくしにもったいないお申し出ありがたい事にございます。
青音殿に心を動かさぬ者などいますまい。
なれどどなたかのお申し出をお受けしどなたかを拒むなど恐れ多い事にございます。
いや構わぬ。
お決めくだされ!ここから船岡山に行く途中に首塚がございます。
うんある。
二十数年前盗賊となり果てた藤原純友の残党が五人捕らえられ死罪に処せられた。
首が埋められた印に墓石が五つございます。
一人一人その首塚に行って行った証しに墓石に手向けられたいくつもの小石の一つを持ち帰って頂きたいのです。
で…?一番最初に持ち帰ったお方のお申し出を受けたく存じます。
たやすい事。
(動物の鳴き声)
(草木のざわめき)
(物音)うわあっ!
(動物の鳴き声)ああ…ああっ…!
(斬る音)
(義定)うっ…ああ!
(物音)うっ…。
ああーっ!うわーっ!ひっ!わあっ…あ…ああっ!あっ…!やあーっ!うわーっ!ぎゃあーっ!うわ…ああ…!あ…ああ!
(刺す音)
(卜部覇矢手)今宵は二人だけだ。
他の者どもはここに来る前におびえて引き返した。

(悲鳴)
(悲鳴)
(兼通)いとこの義定殿は頭を割られた骸となり大江元房殿は片腕を切られひと刺し。
本院の安通殿は鴨川に浮かび他に桃園の朝輔殿富小路厚敏殿日野正孝殿が行方知れず。
父上この五日の間にこのような惨劇!なんと思し召されますか?これ全て藤原の縁に繋がる家の子弟にございます。
左京大夫藤原兼家様のご子息です。
ほう…道長様が。
(道長)安倍晴明か。
左様。
…して道長様にはどのような?そなた我を?内裏の悪霊を祓ったという安倍晴明に折り入って頼みがある。
こちらは?父にござる。
これは左京大夫様…。
このような姿になり果てて浅ましや…情けなや…。
何者かに呪いをかけられたものであろうか?左京大夫様には呪詛をかけられるお心当たりは?ない。
我が藤原家を恨み呪いをかけたい者は数多いようが我一人が呪われる覚えはない。
晴明殿。
さて…。
(兼家)ああ…。
腹が減った…喉が渇く…。
ひもじや〜ひもじや〜…。
いつこのような事に?
(道長の声)内裏で宴が行われた二日のちの事じゃった。
(兼家の声)夜中目覚めればなんとも薄気味の悪い爺がおった。
内裏で舞うた白拍子に懸想なされましたな。
うん。
…うん。
うん…うんうん…。
青音というおなごに会うてみる気はありませんか?おお〜!ぜひにも会いたい。
ご案内致します。
小石を持ち帰ったお方の申し出を受けたく存じます。
(兼家の声)首塚の石を持ち帰れば意のままになると言い出してな…。
…で参られた。
行くには行ったが…。
(犬の鳴き声)うわっ…ああ…!なんじゃ?今のは…。
はあ。
それにしても面倒じゃのう。
これでよいか。
悲しい事。
え?これは偽りの石。
あなた様の誠意とはこのようなものでありましたか。
いやあの…。
青音殿…。
青音…ああっああ〜!
(兼家)ああああ…。
(兼家の声)いきなり何者かに放り出された。
すると翌朝目覚めてみれば胸から下がないではないか…。
その後藤原の一族の子弟が相次いで死に行方知れずも数人。
その事と何か関わりがあるのではないかと晴明殿の存念をお聞きしたく…。
(兼家)道長!そんな事はどうでもよい!陰陽師の技をもって我の胴体を探し出してもらいたい。
この姿ではどこにも行けぬ…。
お察し致します。
ああ〜…ひもじや〜…。
ひもじ…。
おお〜!ほほほほっ…。
おお〜!道長これは…ははははっ…!
(兼家)酒じゃな。
酒じゃ。
(道長)いくら食べても飲んでもたまる腹がなくひもじさが消えぬようで…。
それに朝夕はことのほか熱い熱いと申すのです。
朝と夕に…?左様。
おそらくあれは呪詛だ。
あれほどの法術をなす者といえば蘆屋道満殿。
何者だ?朝廷が陰陽道ばかり用いる事に前々から恨みを募らせている修験道を専らとする人物よ。
で…兼家殿の胴体を探すと請け合ったのか?ああ。
だが慌てる事もあるまい。
死ぬ事はないのか?命を狙ったものなら蘆屋道満殿をもってすればすぐにでも殺せた。
そうしなかったとすれば他に何かはかりごとがあるのかもしれん。
はかりごととは…。
おい。
博雅兼家様の事他言は無用に。
私は日の出よりこのような日暮れが好きだなあ。

(笛)実は晴明…俺は青音に会うた。
ほほう。
探しあぐねた夕暮れふと笛を吹いたら目の前に現れた。
外のお方…遠慮せずにお入りなされい。
誰に言っている?あっ!青音殿…ですな。
はい。
あなた様は安倍晴明様。
内裏での舞拝見しました。
いやしかしどうしてこちらに?笛の音に誘われて参りました。
ああ…そりゃあ左様で。
笛がお好きかな?なぜか博雅様の笛の音には心引かれまして。
元々の持ち主がいたと聞いているが定かでなく祖父…いや曽祖父…とにかく代々伝わる橘林の笛です。
橘林…?橘の林で橘林です。
しかし青音殿の舞は見事でしたな。
嬉しい事。
舞はどなたに?見よう見まねでございます。
いや私にはわかる。
青音殿は生来の持って生まれた舞の妙手なのですよ。
数多のおのこが目の色を変える青音殿が我ら二人に酒をついでくださるとは。
この有り様を見たら都の高貴な方々から大いにねたまれるぞ。
うん。
青音殿もいかが?いえわたくしは。
青音殿の普段の暮らしぶりというのはどのようなものでしょうか?なんとも味気ない日々でございます。
左様で。
今日まで都に住まいますがどこへ出かけるという事もなく風光明媚と噂に聞くところもありますがいまだに足を向けた事はなく…。
それは惜しい。
一人では億劫な事でございます。
ああいや…なんならお供しますが…。
青音殿はどちらへ参られたい?さあ…どのようなところがございましょうか?左様…どうだ?晴明。
東山。
清水の坂を上れば都は一望のもとにございます。
叡山に足を延ばせば琵琶湖が望める。
都の北には鷹が峰。
春は桜秋には紅葉が山を焦がすように燃え盛りさらにその奥に足を踏み入れれば鞍馬。
それに連なる高尾の峰々。
その山間を清冽な流れが縫うように走り水の音に鳥の声が重なってそれはそれは幽玄な…。
青音殿?なんとも美しい光景が目に浮かびます。
ぜひとも三人打ち揃うて参りましょう。
はい。
はあ〜酔うた酔うた。
ああ酔うたついでに白拍子の舞を舞う。
博雅様笛を所望しまする。

(笛)
(笛)
(笛)ここにいると安らぐのはなぜでしょう?いつにても参られよ。
私はそろそろお暇を。
お送りします。
ああ…夜分に女一人は物騒だからな。
青音殿一度その…そなたのもとに伺ってもよろしいか?すでに心にかなうお人がおいでか?いいえ。
ならば…。
私はここで…。
しかし持仏堂はまだ…。
ここでよろしいのです。
これが置いてありました。
お忘れ物か…。
(覇矢手)青音様が晴明らに近づいています。
(道満)晴明に近づいたのは無垢な青音よ。
この体に潜む鬼はわしがいつでも操れる。

(保憲)またしても藤原に縁のある者が四人行方知れずだ。
その四人が四人とも白拍子の青音を我が物にするためにひそかに持仏堂に押しかけていたそうだ。
こうも立て続けに藤原家にゆかりの者が…。
これは偶然か?それとも持仏堂の白拍子に関わりのあるものか…。
やっとおいでくださいましたね。
お忘れ物を届けに参った。
きっと届けてくださるとお待ちしておりました。
わざと置いていかれたか。
はい。
それはまた何ゆえ?さあさあ中に。
ああいやここで。
お酒もございます。
酒は飲まぬと…。
晴明様のために求めたのです。
なんなら今宵ここで一夜をお明かしなさいまし。
青音殿にはよしみを求めて訪れる男が引きも切らぬと聞いている。
残念ながらいまだ心にかなうお方はありませぬ。
私はかないますか?晴明様なら必ずや私の味方になってくださるはずだと。
味方とは…?お屋敷に伺った先夜晴明様の人となりを目の当たりに致しました。
ほう…。
心に穢れもなく欲に溺れずお屋敷はなんとも爽やかな息吹に満ち去りがたい心地よさがありました。
それは何より。
そのようなお方なら心の内に潜む悲しみもおわかりなのでは…と。
うん?さあ。
(足音)これはなんという…。
晴明どうしてお前がここに?青音殿がお忘れ物をなされてな。
わざわざお届けに。
しかし今手を取っておられたが。
いやあれは…。
お前には聞いておらん!博雅様は何か思い違いをしておられます。
待て博雅!博雅!私が青音に思いを寄せている事を知りながらお前は一人でこそこそと!忘れ物を届けるのにわざわざ知らせる事もあるまい。
お前は青音を奪い取るつもりだな。
(笑い声)笑い事か!そうだ。
(笑い声)
(覇矢手)晴明は陰陽道の者。
近づいてはなりませぬ。
あのお方のそばにいると心穏やかになります。
内裏に仕える陰陽師ならいずれ我らに仇なす事にもなります。
源博雅にしても先代の帝の孫。
藤原一門に繋がる男にございます。
でもあの笛…。
え?あの笛の音を聴くと何かぬくもりにくるまれるようで。
覇矢手。
はっ。
わからないのです。
私は何者なのでしょう?
(保憲)不吉な雲行きだな。
はい。
晴明を陰陽寮に呼べ。
はっ。
おお…これはこれは。
いつにても伺ってよいとおっしゃいましたので。
それはよいのですが私は出かけなければなりません。
それをおやめ頂けませんか?うーん…困りましたな。
今宵はぜひともお話をしたく…。
私は出かけますがお待ち頂く分には構いませんので。
(すすり泣き)私は誰からも顧みられないさだめのようです。
いや…。
それでいつも一人。
青音殿…。
陰陽寮には今宵は行けぬと。
うわっ!あっ…。
うわあーっ!
(斬る音)ああーっ!何ゆえ白拍子なのか私は何者なのか…。
寄る辺のない身の上はなんとも心細いものでございます。
はい。
晴明様なら私という者の身の上をおわかりではないかと。
さて困りましたな…。
お助けを。
冷たい手じゃ。
そなた…。
ここへは何しに参られた?それは…。
それは…!
(風の音)
(保憲)鴨川に一つ西坊城小路に一つ万里小路にも一つ…。
なんともむごい…。
昨夜のうちに藤原にゆかりある者がさらに三人も。
あの黒雲はやはり不吉の兆しであったな。
ここにもか…。
鬼の仕業か悪霊か…。
このような災いを見通し防ぐのが陰陽寮の務めではないのか?申し訳ございません。
晴明。
ああ…。
晴明お前は何をしていた?ああそれが…。
なんのための陰陽師か!何者か!?私を源博雅と知っての事か?青音様に近づくな。
何?お主は…?青音様をお守りする者。
よいな?青音様に近づくな。
この次は笛を持つ手を切り落とす。
いや…笛を吹く息の根を止める。
吾是天帝使者駆使陰陽之術何鬼不走何病不癒呪詛神速疾顕現。
吾是天帝使者駆使陰陽之術…。
吾是天帝使者駆使陰陽之術何鬼不走何病不癒呪詛神速疾顕現。
吾是天帝使者駆使陰陽之術何鬼不走何病不癒呪詛神速疾顕現。
吾是天帝使者駆使陰陽之術何鬼不走何病不癒呪詛神速疾顕現。
急々如律令。
蘆屋道満殿であろう。
ふっ…。
安倍晴明青音には関わるな。
青音の背後にはお主が…。
邪魔さえせねばお主を苦しめる事はせぬ。
狙いはなんだ?青音には様々な怨霊の魂魄がすみついているようだ。
ほう…見えたか。
凄まじい怨魂だ。
(道満)それはそうだ。
藤原氏のはかりごとによって非業の最期を遂げた長屋王の怨霊ゆえな。
だがそれは二百年以上も前の事では。
怨霊に時の垣根がない事はお主も知っていようが。
お主がよみがえらせたのか?このところの藤原一族のおごりたかぶりは許しがたい。
いにしえより犯してきた罪の数々を思い出させねばならぬ。
長屋王への卑怯なる仕打ちをな。
(道満)藤原氏興隆の祖である藤原不比等が死んだあと天武天皇を祖父に持つ長屋王は右大臣に就き帝の縁戚の頭となって政を担った。
それが藤原には疎ましかったのだ。
不比等の四人のせがれどもは長屋王が呪詛を用いて国を傾けようとしているなどと吹聴して軍勢を差し向け長屋王とその妻子は悲憤のうちに自害して果てた。
だがその後藤原の四兄弟が病にかかって相次いで死ぬとたたりにおびえた聖武帝は己の不徳を認められ長屋王と妻子の骨を生駒山にまつられたと聞く。
ふっ…。
たたりを恐れただけで悔いたわけではない。
たたった怨霊はやがて封じられたはずだ。
そう思いたいのは藤原の者のみよ。
藤原の者どもは政敵の追い落としを繰り返し懲りるという事を知らぬ。
青音という女は何者なのだ?怨魂よ。
青音はただの手先か?
(道満)己が何をしているのか何をしようとしているのかも知らぬ。
わしと手を組め安倍晴明。
わしの法力をもってすれば藤原の一族を滅ぼすのもたやすい。
そこにお主の陰陽術が加われば盤石よ。
藤原氏が滅びれば朝廷が立ちゆかぬ。
ふっ…。
藤原を潰せば脇に追いやられて息を詰めていたいくつもの公家が一つにまとまって新たに朝廷を支える。
新たに…。
まさかお主が帝になろうと?それもよいな。
愚かな。
はははっ…。
いにしえより国の民には越えてはならぬ分というものがある。
朝廷が今日まで永らえたのは帝を唯一無二の極天の星と仰いだゆえ。
その則を犯せば国が乱れる。
はっはっはっ…。
このわしが政などという面倒な事を望むと思うか?それこそ愚かだ。
ならば…。
影でよいのだ。
(道満)表に出ず背後から帝を操り内裏を意のままに動かす。
晴明お主朝廷の陰陽師のままでよいのか?それを卑屈と思うた事はない。
欲はないのか?ありませぬ。
馬鹿な…。
ならば仕方ないが…わしの大望を阻むな。
道満殿。
(道満)わしの前に立ちはだかればこの卜部覇矢手がお主の首をはねる。
(道満)幼き孤児の頃より手元に置いてきたこの覇矢手はことのほかあるじ思いでな。
その上ふた親を殺した藤原の者どもに腹の底から恨みを抱く誠に見上げた若者よ。
一つ聞きたい。
兼家様を首一つで生かしたのはなぜだ?あのうつけには使い道がある。
使い道とは?うああっ…!あるじ思いそれだけではあるまい。

(悲鳴)なんだ?ああ…あれ!あああ…!かかか…兼家!
(兼通)おのれ兼家…妖かしとなったるか!?
(兼家)ひもじや〜。
く…来るな!
(兼家)ひもじや〜。
私を斬るのですか?悪霊にとりつかれおって!ひもじやひもじ…。
あーっはっはっはっ…!
(兼通)ん〜ああっ!兼家…。
(兼家)父上…。
私をこのような浅ましき姿にしたのはどなたの呪詛でありましょうや。
知らぬ!疎まれ続けた私などいてもいなくてもどうという事もない男ですから。
何をひがむ!父上は何ゆえ兄たちのように私を重く用いてくださいませぬ。
そ…それはな…。
(すすり泣き)そのほう兼家の異形の事を知っておるのか?兼家様から消えた胴体を探し出してもらいたいと頼まれております。
はあ…。
あの姿のままでは藤原家としてはかなわぬ。
怨霊にとりつかれているというならばそのほうに祓いのけてもらいたいのじゃ。
怨霊は一人兼家様をたたっているのではございませぬ。
ん…?今日藤原右大臣家ははるかいにしえのまがまがしき所業により非業の最期を遂げた方々の怨魂によって網をかけられているものと存じます。
怨魂?はっ。
誰のたたりか?ああそれは…。
(師輔)藤原広嗣か?いや…。
橘奈良麻呂…。
もしかして井上内親王!?あっ早良親王か?いいえ…。
道真公ではないとそのほう以前申したではないか。
長屋王の怨霊かと存じます。
長屋王?二百年以上前の。
はあっ…!いやしかし長屋王一族の骨を集めて…。
おおそうじゃ生駒の山に丁重に葬りまつったはず!その怨霊を今によみがえらせた者がおります。
誰が…余計な事を!そのほう怨霊を打ち祓え!お言葉ではございますが…。
んんっ!?陰陽寮の者は帝の臣にございます。
ゆえに帝の命のない祈祷降伏をお受けするのははばかられます。
我が娘は帝の后ぞ。
これはもう帝はすなわち藤原。
藤原の帝も同じ事じゃ!明日生駒山に参ります。
長屋王の一族が葬られた祠へか。
晴明は乗り気ではないな。
いにしえよりの藤原氏の横暴の数々はご存じでしょう。
ああ。
長屋王を始めはかりごとで殺された数多の方々の恨みを晴らして差し上げたい思いもこの片隅にはありまして。
おい…。
藤原氏の所業を抑えられなかった朝廷にも責められるべきものがあるのです。
ですが陰陽寮に務める身とすれば帝を危うくする事は出来ませぬ。
それに源博雅様の祖先をたどれば恨みを受ける藤原一門。
我が友にまで累が及ぶ恐れがあれば防がねばなりませぬ。
話とはなんだ?博雅もう青音には近づかぬ方がよい。
ほほう…。
それは何ゆえだ?お主のためだ。
己のためではないのか?近づかぬ方がよい。
「諦めるな妄執の渦に身を任せよ」と言ったのは誰だ。
言う事を聞け!いよいよ藤原が滅びる時が来た。
兼家にとりついた悪霊祓いは晴明に申しつけた。
(兼通)それでは悠長すぎます。
一刻の猶予もなりませぬ。
このところ夜の都を首が飛ぶという噂が流れております。
幸いまだ兼家の首とは知られておりませぬ。
今のうちに兼家を除くべきかと。
なれど…。
病で死んだ事にして葬ればよいではありませぬか。
我らの密談を知ったら兼家が討って出る恐れもございます。
父上ご決断を。
(ため息)おお…酒か。
(師輔)誰が気を利かせたものか。
おつぎ致しましょうか。
(師輔)うむ。
どこかで見た顔だな…。
兼家様から酒をお届けするようにと申しつかって参りました。
何!?兼家がこの集まりを知っておるのか?よ〜くご存じで。

(伊尹)父上!ああ…。
お父上!兄上!ああ…!毒を盛ったか!?おのれ!父と兄がお主を呼んだのは殺すため。
(兼通)黙れ…。
出すぎるお主を伊尹が恐れている。
師輔は伊尹がかわいい。
ああっ!父上も兄上も私をたばかりましたな。
(兼通)殺してくれん!
(師輔)血迷うたか兼通…!
(道満)親を憎め子を憎め兄弟同士憎み合え。
親兄弟で殺し合うて右大臣家は滅びゆく。
ノウマクサマンタ…。
(伊尹)父上大変です。
父上…。
(兼通)やあーっ!かか…兼通…!待て〜待て!殺せ。
殺さねば殺される。
ああ…。
(伊尹)父上!うっ…!うっ…。
々陽々辟除不祥一切諸厄出行遠退怨敵降伏魔群退散。
あっ…。
これは…。
兼通お主は私や父を殺そうとしたんだぞ。
まさか…。
おそらくあの女の呪いに惑わされたのであろう。
(荒い息遣い)女を射よ!あっ…。
々陽々辟除不祥一切諸厄出行遠退怨敵降伏魔群退散。
々陽々辟除不祥…。
一切諸厄出行遠退怨敵降伏魔群退散。
々陽々…。
天にどろ地にどろダキニやカクダヤコクウン。
(荼枳尼)天にどろ地にどろダキニやカクダヤコクウン。
(鈴)一切諸厄出行遠退怨敵降伏魔群退散。
(鈴)々陽々辟除不祥一切諸厄出行遠退…。
(鈴)ふんっ!
(鈴)
(鈴)魔群退散…急々如律令!おのれ晴明…!五方五帝元享利貞。
ははは…。
誰か女に油をかけよ!はっ!曲者じゃ!やあーっ!うわっ!うわっあっ…!うわわっ…!近づけば…殺す。
私に青音に近づくなと言っておきながらお主は!青音はおらぬ。
お前が現れるのを待っていた。
笛を聴かせてもらいたいのだ。
断る。
お主の笛なら必ず青音が現れる。

(笛)
(笛)青音殿。
お前の言うとおりだったな晴明。
うっ!うっ…。
う…うっ…。
青音殿!私を調伏しようと誰かが…。
博雅様晴明様を止めて!何?ううっ…あっ…!晴明!何をしている?々陽々辟除不祥一切諸厄…。
晴明様おやめなされ!おやめくだされ!博雅様お助けくだされ!私はこの男に亡き者にされます。
晴明!お慈悲をお慈悲を!私に笛を吹かせたのは青音を苦しめるためだったか!青音は人ではないのだ博雅。
それでもよい!ああ…博雅様晴明を止めて!晴明を討って!私を助けて!青音は藤原にゆかりある博雅様をもたたる怨霊の化身だ。
まさか…。
貴き方々の怨霊よ。
晴明を呪い殺しなされ。
天地玄妙陰陽之加持山弓甲鬼神呪詛返却一切除穢皆悉消滅降魔退散即効示現神通力。
うっ…うう…!晴明わしを阻むなと言うたに。
一切除穢皆悉消滅…。
オンバザラダト息滅チリヂリチリンとソワカチラチラソワカと切って放すと打ち詰めるウンバンジャクメツウムパッタパッタ。
はっ!
(風の音)うっ!うっ…。
天地玄妙陰陽之加持山弓甲鬼神呪詛返却一切除穢皆悉消滅…。
はーっ!はっ!晴明!やめろ…やめてくれ!う…うっ…。
博雅笛を!迷うな!
(道満)チラチラソワカと切って放すと打ち詰めるウンバンジャクメツウムパッタパッタ。
うっ…!
(道満)息滅チリヂリチリンとソワカチラチラソワカと切って放すと打ち詰めるウンバンジャクメツウムパッタパッタ。

(笛)ああっ…!笛を吹いたのは源博雅か!長屋王家に伝わる橘林の笛か。
晴明お主が勝ったのではない。
たかだか一管の笛に…。
ははははっ…。
息がない。
その体が残っている限りいつでも道満殿が怨霊を託せる。
ではどうするのだ!それは?奥深い山にある山橘の木に降り注いだ雨が幹を伝い葉の露となって滴り落ちた。
長屋王は屋敷の庭の橘の木をこよなく愛で給うたと聞いたゆえ。
博雅様笛を。
吹けばどうなる?青音が消えます。
私に消せと…?はい。
博雅様が吹いてくださらねば青音は安らかになれません。
触れてはなりません。
青音が浄土への道に迷います。

(笛)
(笛)
(笛)あっまた動きました。

(笛)
(笛)よい笛の音。
これで青音は元の姿に戻れます。

(笛)
(赤ん坊の泣き声)
(笛)晴明。
おそらく青音は長屋王のお后が身ごもられた娘御の化身だよ。
泰山府君頓生解脱三魂七魄速鎮御霊悉地成就。

(戸の開く音)卜部覇矢手か?青音様は?それを…俺にくれ。
都の美しいところへ青音を連れて行く事はかなわなかったな。
その代わり青音はおそらく美しく慈悲深い心に触れたはずだ。
晴明は青音の素性をなぜ知った?はははっ…。
私が陰陽師だという事をお忘れか?はははっ…。
ここの灰を掻き出してくだされ。
ここに?掻き出せ。
やはりここでした。
護身三元藤原兼家邪気退散身体復元五体健全。
急々如律令。
(兼家)おおー!これはー!おお…!おっおおっ…!ほほほほっ…。
父上!しかし晴明何ゆえ我の胴体が竈にあるとわかったのじゃ?朝夕はないはずの足が熱くなると申されました。
うん。
朝夕は竈で火を熾しますゆえ。
お〜なるほど!うんうんうんうん。
ん?あー…。
しみわたるのう。
こうして体が繋がったからにはもう父上や兄に臆するようなまねはせぬ。
はははははっ…!おめでとう存じます。
(家臣たち)おめでとう存じます。
道長今宵は祝宴じゃ。
はっ。
(兼家)晴明そのほうも参れよ。
はっ。
(兼家)友などを引き連れて参ってもよいぞ。

(子供たち)「子供がいるならのいとくれ」「もしもしあなたはどなたです?」「私は私は…」私も宴に行ってよいのか?よいさ。
笛など披露すれば祝儀になろう。
なるほど。
兼家様の娘御が博雅の笛に心揺さぶられるという事もあるぞ。
おい。
はははははっ…。
しかしこれで何もかも収まるのか。
いいや。
晴明?逢う魔が時か。
行き場を失うた数多の怨霊がさまよい出る時分よ。
おびえる事はない。
都は鬼の棲み家だ。
おい。
にぎやかでいい。
はははっ…。
青音…。
博雅。

(晴明の声)にぎやかにぎやか。
2015/09/13(日) 21:00〜23:10
ABCテレビ1
ドラマスペシャル「陰陽師」[字]

全世界600万部発行の夢枕獏の大ヒット小説「陰陽師」が再び映像化!
もののけが跋扈する平安の闇夜。摩訶不思議に挑む、安倍晴明(市川染五郎)、源博雅(堂本光一)。

詳細情報
◇番組内容
あの「陰陽師」がドラマスペシャルとして帰ってくる!
天才陰陽師・安倍晴明(市川染五郎)が陰陽道の術を駆使して怨霊を調伏!その相棒で笛の名手・源博雅(堂本光一)が恋した白拍子(山本美月)をめぐり、宮中に異変が!そのころ晴明のもとに体半分が何者かによって消されてしまった藤原兼家(川原和久)が助けを求めにくる。晴明は蘆屋道満(國村隼)による呪詛ではないかと思うのだが…。
◇出演者
市川染五郎、堂本光一、山本美月、國村隼
川原和久、和田正人、六平直政、志垣太郎、上杉祥三
雛形あきこ、和田聰宏、神保悟志、池畑慎之介
◇原作
夢枕獏『陰陽師』シリーズ(文藝春秋刊より)
◇脚本
金子成人
◇監督
山下智彦
◇スタッフ
【企画】古賀誠一(オスカープロモーション)
【ゼネラルプロデューサー】黒田徹也(テレビ朝日)
【プロデューサー】伊東仁(テレビ朝日)、近藤晋(オスカープロモーション)、岡田寧(オスカープロモーション)
◇おしらせ
☆番組HP
 http://www.tv-asahi.co.jp/onmyoji/

ジャンル :
ドラマ – 国内ドラマ
福祉 – 文字(字幕)

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
映像
音声 : 2/0モード(ステレオ)
日本語
サンプリングレート : 48kHz

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