高さ70メートル。
ここは巨木が支配する熱帯の森。
1億年の歴史を持つ東南アジアのジャングルです。
森に暮らす住人たちは個性的なものばかり。
高い木から次々と川に飛び込むサル。
宙を舞うトカゲ。
そして巨大な類人猿。
意外にもその住みかは木の上です。
巨木の森に住む世にも奇妙な生き物たちの姿に迫ります。
どこまでも続く緑の海。
世界で3番目に大きな島東南アジアのボルネオ島です。
70メートルにもなる巨木が立ち並びます。
20階建ての高層ビル群に匹敵する高さ。
地球上で最も高い熱帯雨林です。
森は1億年の歴史を持つといわれ貴重な生き物たちの進化の舞台となってきました。
動物たちは巨木の森で生きていくためさまざまに工夫しています。
森の中を飛び交うものがいます。
正体はトカゲ。
その名もトビトカゲです。
体長は10センチほど。
主食はアリなどの昆虫です。
突然翼が飛び出しました。
これは長く発達した肋骨が皮膜でつながったもの。
巨木の森。
隣の木に移動するのにいちいち地面に下りていたのでは効率がよくありません。
そこで翼で滑空するという驚きの方法が進化したのです。
トカゲだけではありません。
現れたのはヘビ。
やはり肋骨を広げています。
反動をつけて…大ジャンプ。
こちらの動物も実に変わっています。
名前はヒヨケザル。
サルの仲間ではなくほかに似た種類がいない珍しい哺乳類です。
手と足の間には皮膚が伸びて出来た膜があります。
この膜を広げ100メートル以上も飛ぶ事ができます。
樹上生活に適応し独自の進化を遂げた不思議な生き物たちが暮らす巨木の森。
そんな住人たちのよりどころとなっている木があります。
たくさんの実をつけたイチジクです。
素早い身のこなしでやって来たのはテナガザルです。
果物を求め森の中を移動して暮らしています。
見慣れない動物が現れました。
ビントロングです。
ジャコウネコの仲間で大きいものは頭から尾の先まで2メートル近くあります。
枝に巻きつける事のできる尾を巧みに使い好物のイチジクを頬張ります。
リスや鳥もやって来ました。
多くの動物がイチジクに頼っているのには理由があります。
普通木は決まった季節にしか実がなりません。
しかしイチジクは季節に関係なく実をつけるのです。
その秘密はイチジク特有の受粉方法にあります。
実の表面が盛り上がってきました。
出てきたのはイチジクコバチ。
体長は1ミリほど。
実の中で羽化し出てきたのです。
次から次へと飛び立っていきます。
コバチが目指すのは新しいイチジクの実。
実には入り口があり中に入る事ができます。
実はイチジクはこの実の中に花があります。
コバチは花を目指して中に入ろうとしているのです。
でも入り口は非常に狭く簡単には入れません。
頭でこじあけて入りますが羽は抜け落ちてしまいます。
ようやく中に入ると白く見える粒々が一つ一つの花です。
コバチはこの花に産卵します。
その時生まれた実から持ってきた花粉をめしべにつけ受粉が成立します。
コバチの寿命は僅か数日。
イチジクは受粉のチャンスを逃さぬよう森のどこかで必ず実をつけているのです。
多くの命を育む樹上の世界。
ここにはまた意外な生き物が暮らしています。
(鳴き声)オランウータンです。
大型類人猿の中で唯一アジアに生息しボルネオ島とスマトラ島に住んでいます。
横に大きく張り出した突起は強いオスだけに発達する独特のものです。
オスの体重は実に80キロに達します。
それにもかかわらず生活は専ら木の上。
オランウータンは世界最大の樹上生物なのです。
その重い体重を利用し木をしならせて森を移動します。
体の作りは木の上の生活に特化しています。
腕は離れた枝をつかむため極端に長く脚の長さの倍もあります。
脚は大きく開き自在に枝をつかむ事ができます。
その暮らしぶりもまたかなり変わっています。
大型類人猿の中でオランウータンだけが群れを作らず単独で生活しています。
食べ物はほぼ完全な植物食。
木の葉や実など樹上で手に入るものだけを食べています。
夕方になると周りにある枝を折り始めました。
こうして毎日違う場所にベッドを作り眠りにつきます。
食事も寝る場所も木の上というオランウータン。
全てが異色の類人猿なのです。
決して豊かとは言えないボルネオの森。
生き物たちはさまざまな工夫を凝らして生きています。
食虫植物のウツボカズラです。
世界で最も多くの種類がボルネオ島に分布しています。
特徴は捕虫器と呼ばれるつぼ状の器官。
葉の先が膨らんで出来たものです。
アリがやって来ました。
入り口を夢中になってなめています。
甘い蜜が出ているためです。
捕虫器を満たしているのは消化液。
ウツボカズラは落ちた虫を養分に成長するのです。
そんなウツボカズラの中で極め付きとも言える種類があります。
ここは島の最高峰キナバル山の中腹。
世界最大のウツボカズラオオウツボカズラです。
捕虫器の大きさは40センチにもなります。
リスのような生き物がやって来ました。
名前はヤマツパイ。
ボルネオ島にしか住んでいない珍しい哺乳類です。
蓋からしみ出る甘い蜜をなめ始めました。
ツパイは蜜をなめるのに無我夢中。
しかしその下には消化液の入った捕虫器が待ち構えています。
…と突然のおしっこ。
オオウツボカズラは蜜でツパイを引き寄せそのおしっこやフンを養分として成長しているのです。
不足しがちな栄養や食べ物を求める挑戦は植物だけではありません。
ここは島の北部を流れるキナバタンガン川です。
姿を現したのはゾウ。
大陸のものに比べ体が小さくボルネオゾウと呼ばれています。
およそ30万年前に大陸からやって来てその後島で独自に進化してきました。
群れに生後ひとつきほどの赤ちゃんがいます。
まだ母親のおっぱいを飲んでいます。
大人のゾウは一日に100キロ以上の食べ物が必要といいます。
好物は軟らかい草。
日当たりのいい川岸にはそうした草が豊富にあります。
しかし川岸は狭く群れで食べればあっという間に無くなってしまいます。
新たな草を求めて常に移動し続けなくてはなりません。
草は川の両岸に生えています。
次々と川に入っていきます。
この子ゾウは川に入るのをためらっています。
(鳴き声)親に押され川に落ちました。
(鳴き声)必死に親にすがりつきます。
そんな子どもを横目に群れは一斉に対岸に向けて泳ぎ始めました。
水深は10メートル近くあります。
ゾウは対岸にある新鮮な草を求めこうした行動に出たのです。
群れの中にあの赤ちゃんがいました。
今にも溺れそうです。
沈む体を家族に支えられ懸命に泳いでいます。
ようやく岸が近づいてきました。
でもまだ安心はできません。
大人に押されひっくり返ってしまいました。
(鳴き声)こうして右往左往しているうちに大人に踏まれ命を落とす事もあるといいます。
ぬかるんでいてなかなか上れません。
その時です。
家族が優しく押し上げてくれました。
赤ちゃんにとって川渡りは命懸け。
しかしそれがこの島で生きるゾウの宿命なのです。
(鳴き声)川沿いの森を住みかにしている動物はほかにもいます。
なんとも奇妙な鼻の持ち主。
世界でもボルネオ島にしかいない島固有のサルです。
1匹のオスが複数のメスと子どもらを率いて暮らしています。
(鳴き声)その名のとおりオスは特徴的な鼻が目立ちます。
食べ物は木の葉や果物など。
特に川沿いの森に芽吹く若葉が好物です。
テングザルもまた新鮮な葉を求めて常に移動しながら暮らしています。
そしてここでもまた川がサルたちの行く手を遮ります。
(飛び込む音)なんと次々と飛び込んでいきます。
実は泳ぎはお手の物。
指の間には水かきまであるといいます。
(飛び込む音)子どもが1匹取り残されてしまいました。
まだ飛び込む事に慣れていないようです。
(鳴き声)声を聞きつけ一度対岸に渡った母親が戻ってきました。
(飛び込む音)川に飛び込む驚きの行動。
それは島で生きていくためにテングザルが身につけてきた独特の習性なのです。
食べ物を求めて興味深い行動をとる生き物たち。
それはオランウータンとて例外ではありません。
食べているのはなんと木の皮。
ボルネオ島では森は毎年必ず豊かな実りをつけてくれる訳ではありません。
中には数年に一度しか実を結ばない木もあります。
そんな森で生きていくためには背に腹は代えられません。
オランウータンはまた子育ての期間が長く独り立ちまで7年の歳月を要します。
数百種類の植物を食べ分けているというオランウータン。
子どもは母親が食べている物を横で見たり一緒に食べたりして何が食べられるか覚えていきます。
子どもが生きるすべを学べるのは母親だけ。
母親は7年という時間をかけて森で生きていく知恵を我が子に教えていくのです。
(鳴き声)8月。
オランウータンが待ちに待った時がやって来ました。
数年に一度しか実らないドリアンが大きな実をつけたのです。
栄養豊富で甘いドリアンはオランウータンの大好物。
実が熟すのを待っていたオスがやって来ました。
ドリアンの殻は非常に硬くこじあけるのは至難の業。
力が強いオランウータンならではです。
こうして数年に一度おなかいっぱい食べて脂肪を蓄え厳しい時期を乗り切ります。
親子もやって来ました。
子どもにとって初めて食べるドリアンの味。
忘れられない記憶になるに違いありません。
1億年の歴史を持つというボルネオ島の熱帯雨林。
そこには植物と動物とが共に進化してきた不思議な世界がありました。
2015/09/13(日) 23:30〜00:00
NHK総合1・神戸
ホットスポット・セレクション「巨木の森 樹上世界に生きる〜ボルネオ島〜」[SS][字]
東南アジアのボルネオ島には高さ70メートルの巨木が生い茂り、空飛ぶトカゲなど滑空生物の宝庫。さらに川へ飛び込むサルや川を渡るゾウなど知られざる動物の素顔に迫る。
詳細情報
番組内容
東南アジアのボルネオ島には高さ70メートルの巨木の森が生い茂り、空飛ぶトカゲやヘビ、謎のヒヨケザルなど珍獣の宝庫。さらに、食べ物を求めて動物たちは驚きの行動をとる。川へ飛び込むテングザルや赤ちゃんを助けながら群れで川を渡るゾウの家族。さらに単独で生活し、樹上に暮らす大型類人猿としては異色のオランウータンの知られざる素顔などスクープ映像が満載。島に生きる生きものたちの進化の宿命に迫る。
出演者
【語り】渡邉佐和子
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 自然・動物・環境
バラエティ – 旅バラエティ
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 3/2+LFEモード(3/2.1モード)
サンプリングレート : 48kHz
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