クローズアップ現代「天津爆発事故 中国社会の深い闇」 2015.09.16


先月、中国・天津で起きた化学薬品倉庫の爆発事故。
あれから1か月。
事故の真相はいまだに明らかになっていません。
厳重な警備態勢が敷かれる天津。
中国政府の情報統制は続いています。

こうした中、NHKは事故を起こした倉庫会社の内情を知る人物に接触。
大量の危険な化学薬品がずさんに管理されていた実態を語りました。

さらに、事故の背景には安全性を軽視し利益ばかりを求める企業の体質があることも明らかになってきました。

多くの犠牲者を出した爆発事故。
中国社会の深い闇に迫ります。

こんばんは。
「クローズアップ現代」です。
先月、中国・天津で起きた大規模な爆発事故。
中国政府の発表では死者は165人けがをした人は700人以上とされています。
しかし、インターネット上では犠牲者はもっと多いのではないかといった声が上がりそれを当局が否定するなどさまざまな憶測が飛び交っています。
また、1か月がたった今も事故の原因は明らかにされず真相は闇の中です。
首都・北京の近くにある天津。
天津港の周辺は中国が国を挙げて急速に開発を進めてきた工業地帯です。
貨物の取り扱い量は、世界4位。
一大物流拠点です。
事故は、その天津港で起きました。
爆発現場の1キロ圏内にはマンションや高速道路、駅など。
また、同じ天津市には日本企業も800社進出していて爆風で被害が出るなどさまざまな影響を受けました。
世界中から企業や投資が集まる場所で起きたにもかかわらず事故についての十分な情報が出ないという異例の事態。
厳しい情報統制が続く中取材を進めると中国社会が抱えるさまざまな矛盾が見えてきました。

爆発事故から1か月近くがたった天津です。
爆風で大きくゆがんだコンテナが次々と運び出されていました。
爆発現場からおよそ500メートルの所には検問所。
周辺を武装警察が巡回するなど厳重な警戒が続けられていました。
住民の中には防毒マスクをつけている人もいて事故の影響はいまだ色濃く残っています。

先月12日に起きた爆発事故。
最初、出火から始まりその後突然、大規模な爆発が少なくとも2回起きました。
中国政府の発表によると160人以上が亡くなり負傷者は700人を超えました。
爆発の衝撃で、事故現場には直径100メートルに及ぶ巨大な穴が出来ていました。
現場から600メートルの所にある駅も崩落。
爆発は、市民の暮らしのすぐそばで起きたのです。
事故が起きたのは民間の倉庫会社瑞海国際物流公司。
中国メディアによるとおよそ40種類、3000トンの化学薬品を保管していました。
現場には、爆薬の原料となる硝酸アンモニウムそして水に触れると爆発につながる炭化カルシウムも置かれていました。

事故の原因は発表されていませんが最初の火災を消火しようと水をかけたことが大爆発につながったという見方が出ています。
政府が発表している犠牲者の大半が消防隊員でした。

国が管理する港で起きた大惨事。
市民たちの間では倉庫会社だけでなく政府の監督責任を問う声が高まりました。

ネット上でも政府を批判する意見が拡散していきました。
中国政府はこうした世論を封じ込めようと情報統制に乗り出します。

死者はもっと多いなど政府発表と異なる情報をネット上に投稿した市民を次々と摘発したのです。

さらに事故を検証した番組を突如、配信停止にするなど統制を強めていきました。
事故現場周辺の住民は当局の厳しい監視を感じているといいます。
そのうちの一人に接触できました。

男性は被害の実態について口外しないよう圧力を受けているといいます。

先週、事故現場の近くに1枚の建設計画が張り出されていました。
爆発の跡地にエコパークという公園を造ろうというのです。
政府は、ことし11月から工事を始め自然と触れ合う憩いの場にするとしています。
多くの犠牲者を出したにもかかわらずいまだ真相が明らかにならない今回の事故。
取材を進めると今の中国社会を象徴するさまざまな問題が浮かび上がってきました。
事故を起こした瑞海国際物流公司に化学薬品の搬入を行っていた業者が匿名を条件に取材に応じました。

さらに命に関わる重要な情報もずさんに扱われていた実態が見えてきました。
中国での化学薬品の輸出入に携わる会社です。

中国で化学薬品を扱う場合提出が義務づけられているシートです。
化学薬品がどのような性質なのか火災が起きたときはどうするのか詳しく記入。
消防とも共有することになっています。
しかし、今回は情報が生かされず誤った消火方法を取ったことで多くの犠牲者が出たことに衝撃を受けています。

こうしたずさんな管理の背景には安全を軽視する企業体質があると指摘されています。
危険化学物質を取り扱う日系企業の代表です。

この会社では薬品の種類ごとに温度や湿度を設定した倉庫を使用するなど安全管理を徹底するために多額のコストをかけています。
しかし、瑞海のような会社はその支出を抑えた分格安の料金で売り上げを急速に伸ばしていたと見ています。

スタジオには、中国の政治や社会問題に詳しい、神田外語大学教授の興梠一郎さんです。
よろしくお願いします。
よろしくお願いします。
まだ事故から1か月、事故原因もはっきりしない中で、もう公園を造る計画があると、驚いたんですが、情報統制というのは、かなり厳しいようですね。
そうですね。
毎回そうなんですが、まず中国における報道っていうのは、ジャーナリズムっていうのは、要するに事実の報道であったり、検証ってことではないんですね。
これはやはり、宣伝の一部ですから、政権側の政策であるとか、そういったものを浸透させるというのが、一番の役割ですから、今回もこういった事故が起きたときには、初期段階では、いろんな天津とは関係ない外のメディアがかなりこう、突っ走って、スクープをやるんですね。
途中からはですね、中央のメディアに統一しなさいと、もうそういったいろんな声が出てこなくなるんですね。
筋書きどおりに、その筋書きどおりに、落としどころを見つけて、幕引きを図るという、そういうプロセスが毎回、繰り返されるということですね。
記憶に新しいところですと、4年前に高速鉄道が事故を起こして、事故車両の一部が地中に埋められるっていうことがありましたよね。
あれは、やはり、中国っていうのはネット社会に入って、民衆がいろんな所で情報を発信し始めているわけですね。
今回も早い段階で、それを抑えました。
そういった情報が、非公式なものがどんどん出てくるってなりますと、収拾がつかなくなるっていう感じがありますので、あれ以来、やはりよけい統制を厳しくしていこうということになっていると思います。
何を恐れてるんですか?
やはり、これ一つには、社会不安がどんどん広がっていって、抗議行動につながったり、あとは政権のイメージが非常に悪くなる。
こういったものがありますね。
リスクがどんどん大きくなって、海外に流れていったりしますと、また、これ、投資環境にもはね返ってくるとか、そういった国際的なイメージも。
でも国民からしたら、正しい情報が出てきたほうが安心できるし、政府の批判も収まるというふうに考えられませんか?
正しい情報をどんどん突き詰めて追及していきますと、どこかで誰かの利権とか、利害関係がぶつかっていく可能性もあるわけです。
それはやはり避けたいっていうのも、本能的にあるわけですよね。
ですから、やはり事実を追及していく、ある程度、ここでストップっていうのは、必ずそういうパターンになります。
そして、タイミングとしても、抗日戦争勝利70年の軍事パレードがあったりということがありましたね。
そうですね、それも非常に大きな問題で、いわゆる大事なイベントだったわけですよね。
非常に前向きに明るくいこうと、このイベントを成功させようと、そういったときには、大事な会議の前もそうなんですけど、事件は起きてはいけないんですよ、起きてはいけないものなんです。
空は青くなければいけないものなんです。
ですから、そこで、こういった大事件が起きて、事故が起きて、世界中にこう、それがさらされるというのは、それは嫌だったわけですよね。
そしてもう一つ、取材で明らかになったのは、安全意識の欠如、ちょっとこちらをご覧いただけますでしょうか。
ことし、中国で起きた化学関連施設での爆発事故なんですが、分かっているだけでも17件。
これ、なんでこんなことになってるんですか?
一つには、いろんな企業を誘致するときに、あまりハードルが高いと、企業が来ないっていうのがある。
ですから罰金を低くしたり、安くしたり、許認可を早くやったり、そういったことをやるわけですね。
そういった結果、やはりコスト、こういったものを重視して、民衆のいわゆる安全性、民衆のための安全性という、そういったものをやはり、あまり重視しないんですね。
これがいろんなところで起きてるパターン。
安全意識よりも、利益優先?
そうですね。
これが今までの開発の問題点なんですね。
こちらにですね、今回の事故の背景にあるものをちょっと出してみたんですが、こちらが、この事故を起こした会社ですね。
その幹部は、元国有石油会社の幹部であったり、元地元公安局長の息子であったりと。
これは民間企業?
見かけは民間企業ですけれども、中国の初期段階の報道によると、これは実は、見せかけの民間企業ではないかという説もあるんですね。
ここの幹部を見たら分かりますように、ある国有石油会社とつながっていると、今でも関連があるんじゃないかといわれてる。
この倉庫は、誰が使ってたんだという疑惑も実はある。
あとは公安局長の一族が関わっていたということですね。
これは公安局が実は消防隊も、港の消防隊も管理してるんですよ。
だから、検査に入れなかったんじゃないか。
その結果、ここにこういったものが置かれてるってことを、消防員が知らずに放水してしまったんではないか。
つまりこういった利権の構図が、そういったリスクを生んだ。
もう一つは、天津市という、ここの港を開発して、天津全体を活性化しようと、そういった共通の利益のもとに、石油業界と、こういったいわゆる行政ですね、これが一緒になって、安全管理というものをおざなりにしたと。
また利権と、そういった安全性の欠如という一つの構図ですよね。
さあ、次なんですが、今回の事故で大きな被害を受けた日系企業について見ていきます。
十分な情報がない中、この事態、どう対処したんでしょうか。

事故が起きる前の天津港です。
世界4位の貨物取り扱い量を誇り天津市には、800を超える日系企業が集まっていました。
爆発現場から2キロにある大型の商業施設は爆風で大きな被害を受けました。
半径5キロ以内にある18社を取材したところそのうち15社が被害を受け一時、営業や操業の停止に追い込まれました。
さらに日系企業は、今回の事故でこれまでにない問題に直面することになりました。

JETRO貿易投資相談課です。

海外の日系企業に情報提供などの支援を行うJETROには相談が相次ぎました。
中国政府が情報を統制する中化学物質によって従業員の健康に影響が出るのではないかという不安を抱いていたのです。

爆発現場から4キロにある日系の電気機器部品メーカーの工場です。

爆風で工場の天井パネルが落ち配線が断絶したため操業ができなくなりました。

1週間後、ようやく操業再開のメドが立ちました。
しかし、雨が降ったことで住民の間に不安が広がりました。
爆発で大気中に放出された化学物質が雨と反応して有毒ガスに変わり健康被害が出るといううわさがネット上に拡散したのです。
港のそばで大量の魚が死んでいるのが見つかったことから水質汚染の懸念も出てきました。
こうした情報について政府は否定するだけで十分な説明を行わなかったため住民たちは不安を募らせていったといいます。
この企業では、ようやく操業再開にこぎ着けたものの200人いる中国人従業員たちの1割以上が出勤してこないこともありました。

日本の本社でもこの事態への対応に追われていました。

現地から日々届けられる情報が足りないという切実な訴え。
さまざまな臆測も広がっていました。
不安を取り除くために化学薬品を取り扱うほかの企業に対応策を相談するなど自分たちで情報を集めなければなりませんでした。
現地に対しては役所や国有銀行などの営業状態を確認するように指示。
公的機関が通常に業務を行っていれば安心情報の一つになるのではないかと考えたのです。

事故から1か月。
天津の工場ではようやく従業員の不安も落ち着き生産ラインも回復してきました。
今回直面した、十分な情報が得られないという中国リスク。
それを踏まえたうえで、今後も企業活動を続けていくしかないと考えています。

公的機関が、営業しているかどうかを調べる、日系企業も工夫しますね。
やはり非常に優れた感覚で、要するに地場の感覚ですよね。
普通の中国人の人が知っている感覚ですけども、そういったものを吸い上げて、リスクをマネジメントすると、そこから逃げるんではなくて、リスクというものにどう対応するかっていうこと、非常に現地の感覚で情報収集されて、対応されてるなっていう感じがしました。
ある種、そういう、したたかさが必要になる?
そうですね、柔軟性としたたかさ、現地のルールはどうなっているか。
そういったものをやはり、吸収して対応しているという感じがします。
一方で、中国側に今度、視線を移してみますと、今、経済の減速も指摘されてますよね。
こういった今までの対応のままで、いっていいということなんですか。
いや、それは限界にきていると思いますね。
経済的には、世界第2位の経済大国ってなってるわけですよね。
しかし、政治システムと社会の管理システムが、相当なギャップがあるわけですよ。
これはもう、政府の責任なんです。
民衆ももうネット社会に入って、情報社会化してますよね。
そこをやっぱり、埋めていかないといけないわけですね。
ですから、経済はグローバル化していってる、で、中国の株価が変動すると、大きなインパクトを与える、そういった自覚を持って、こういったリスクが発生したときに、世界中に影響を与えるんだっていう、そういった意識を、やはり政府は持って、政治、社会の管理方法を改革していく、世界基準にしていくっていうことが非常に重要なポイントになると思います。
もう中国といえば、GDP世界2位という大国ですから、大国としてのふるまいが今後、必要になってくる?
大国として、力を誇示するんではなくて、システムを近代化して、より政治と経済のですね、ギャップを埋めていって、民衆を中心に据えた、そういった民主的な社会をつくっていかないと、繰り返し繰り返し、こういうリスクが起きて、外国の企業も、やはり中国に対する不安というのも高まっていくということです。
今夜は神田外語大学の興梠一郎さんとお伝えしました。
2015/09/16(水) 01:00〜01:26
NHK総合1・神戸
クローズアップ現代「天津爆発事故 中国社会の深い闇」[字][再]

中国の天津で起きた大規模な爆発から1か月。現場では何が起きていたのか。日系企業はリスクにどう向き合おうとしているのか。中国社会の矛盾を象徴する事故の深層に迫る。

詳細情報
番組内容
【ゲスト】神田外語大学教授…興梠一郎,【キャスター】高井正智
出演者
【ゲスト】神田外語大学教授…興梠一郎,【キャスター】高井正智

ジャンル :
ニュース/報道 – 特集・ドキュメント
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事

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