TOPM-ON! MUSICみんなの映画部 活動13『幕が上がる』[前編]

みんなの映画部 活動13『幕が上がる』[前編]

みんなの映画部 活動13『幕が上がる』[前編]

みんなの映画部 活動13『幕が上がる』[前編]

Base Ball Bear/チャットモンチー

Base Ball Bearの小出祐介が部長となり、ミュージシャン仲間と映画を観てひたすら語り合うプライベート課外活動連載。今月は、演出家・平田オリザの小説を映画化した『幕が上がる』。平田オリザを敬愛する小出部長は、終映後、悩んでいた……。

TEXT BY 森 直人(映画評論家・ライター)


活動第13回[前編]
部員:小出祐介(Base Ball Bear)、福岡晃子(チャットモンチー)
今回観た作品:『幕が上がる

 


映画だけを観て最終的になんの話だと思った?

──今回はももいろクローバーZ主演の『幕が上がる』です。なにやら重々しい雰囲気が漂っておりますが(笑)、まずは小出部長に幕を上げていただこうと思います。

小出 う~ん……(しばし考えこむ)。

──早く上げてください(笑)。

小出 はい(笑)。じゃあ、まずですね、前評判としてこの映画を「新たな青春映画の金字塔」的な言い方で賞賛している声を聞いていたんですけど、ちょっと大げさかなぁと……。象徴的なのはラストでメンバーが歌いだすでしょ? これって原田知世さんの『時をかける少女』(1983年/監督:大林宣彦)と同じなんですけど、こういうのがやりたかったんだろうなと思ったんですよ。それでパンフレットをチラ見したら、やっぱり本広克行監督が「80年代の角川映画のような正統派アイドル映画を作りたい」と言ってる。……「そのまんまじゃねぇか!」と。

福岡 (笑)

小出 感想としては、映画はあくまで「アイドル映画」として原作とは違う方向でまとめたんだなと。いつもの本広節でやっちゃうのね、っていう感じですかね……。僕、平田オリザさんの原作が大好きなんですけども……(原作など平田オリザ関連書籍をカバンからごそごそ出しながら)。

C-20150321-MK-1846喫茶店でなにかの勧誘をするかごとく、バッグの中から資料をドサリ。

福岡 ちょっと何!? いっぱい持ってきてるけど!

小出 一応ね。参考資料。

福岡 すっごい付箋してる!

小出 逆に質問なんだけどさ、原作を読んでいないあっこからすると、コレってなんの話かわかった?

福岡 え?

小出 映画だけを観て最終的になんの話だと思った? まとめるなら。

福岡 う~ん、青春? 演劇部の高校生が迷いつつも、自分のやりたいことを見つけようとする話、みたいな。

小出 そうだよね。でもそれが「部活単位」だったじゃん。ももいろクローバーZが演じる5人全体の単位だったじゃん。原作は、主人公の高橋さおり(百田夏菜子)が「自分の表現を見つける」までの話なんですよ。彼女が自分で脚本を書くことになって、宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』に出会って、自分たちらしいラストシーンを見つけようと悩んで、いろんなものに影響を受けながら、イマジネーションのパズルを完成させていく。こうして到達する「創作におけるカタルシスの頂点」が、物語上の頂点と重なるんですね。でも映画は、原作の「How to 演劇」の部分は踏襲しているものの、ザックリと「部活の話」に替わっている。これって僕は本質に関わる改変だと思うんですよ。

──なるほど。一般の高校生がアーティストになる瞬間、みたいなところですよね。

小出 そうそう! ほら、僕らも歌詞を書いていて「これはいける!」って、「バチーン!」ってなるあの感じあるじゃん。あの感じを普通の女子高生が見つける話なんですよ。

福岡 へえ~。すごい細かいところにいっている話なんだ。

小出 言ってしまえば完成した作品がすべてだからさ、この部分ってただでさえニュアンスが伝えにくいし、表現しにくいことでしょ? それを表現しているし、「それごと作品にしている」から原作はすごいんだけど、正直、映像化するのは難しいと思っていて。だからこそ本質を外さずに、映画になったらえらいことになるなと期待していたんですよ。

 

ももクロちゃんがすごく楽しそうにやってるなぁって思った

──あっこちゃんは楽しんだんですよね。

福岡 うん、素直に良かった。だって、めっちゃ元気じゃん。ももクロちゃんが。「若いっていいな」って(笑)。私が高校生のときに観た『That's カンニング! 史上最大の作戦?』(1996年)の印象と重なったよ(笑)。

小出 安室奈美恵さん主演のね。

福岡 そう。まさに「アイドル映画」の良さ。でも同時に、演技っていう意味では「アイドルです」っていうレベルを本気で超えてるっていうか。ももクロちゃんがすごく楽しそうにやってるなぁって思った。

小出 それは確かにそうだよね。原作と比較しなければ良い映画なのかもしれない。でもね、映画単体としても気になることが多くて…。本広監督って自分の作品とのリンクをすごい出してくるでしょ?

──『踊る大捜査線』でおなじみになった小ネタ系ですね。

小出 そうです。まず冒頭、『ウィンタータイムマシン・ブルース』っていう台本が出てくるんだけど、本広監督は『サマータイムマシン・ブルース』という映画を前に撮ってるんですね。つまりセルフ・パロディ。先生役のムロツヨシさんも『サマータイムマシン・ブルース』に出ていた役者のひとりだし。

福岡 そうなんだ。

小出 『サマータイムマシン・ブルース』は劇団「ヨーロッパ企画」の演劇を映画化したものなんですよ。あと「カエル急便」ね。『踊る大捜査線』にも必ず出てくる架空の宅急便。それを今回も出しているんです。

福岡 えっ、どこに?

小出 だから知ってないと気付かないんだけど。駅の構内から宅急便のおじさんが出てくるところ。

──小出部長、本広監督の作品にしっかり詳しいね(笑)。

小出 ちゃんと観てはいますから(笑)。あと、突然出てくる(プロレスラーの)天龍源一郎にしろ……。

福岡 天龍!

小出 天龍もそうだし、その他の山ほどある小ネタもさ、ストーリーに一切絡んでこないでしょ? そのくせ、そこに妙に尺とかカットを割いててさ、「これ出したかっただけでしょ? この画撮りたかっただけでしょ?」って思っちゃうところが多すぎたんだよね。正直、「いる?」っていう。目先の笑いに走るたびに、本筋から大事なものがこぼれ落ちていってる感じがしたなぁ。

 

C-20150321-MK-1849
終映後、重い足取りで感想会を行う喫茶店へ向かうふたり。この日は雨は降らずとも、強風と極寒。取材時の悪天候率は8割をキープ中。

 

後編]へ続く