待て〜！
江戸時代武家屋敷周辺の治安を守っていたのは武士ではなく同心でもなかった。
普通の町民である。
私は彼らの活動を記録しようと江戸時代へタイムワープをした
え〜アブソリュートポジションＮ３２５Ｗ２２１Ｅ８３５Ｓ５３９ポジション確認。
アブソリュートタイムＢ０３７０７７２年８１時１１分９３秒。
西暦変換しますと１７７２年２月２５日１５時３８分４７秒。
無事タイムワープ成功しました。
コードナンバー３８９２５７これから記録を開始します。
沢嶋雄一。
彼はタイムスクープ社より派遣されたジャーナリストである。
あらゆる時代にタイムワープしながら時空を超えて名も無き人々を記録していくタイムスクープハンターである。
武家屋敷が並ぶ通り。
一軒の小さな小屋がある。
防犯のために設置された見張り番所である。
今回の取材対象は辻番。
武家屋敷を中心とした町の治安を守るいわば江戸の警備員である
この時代の人々にとって私は時空を超えた存在となります。
彼らにとって私は宇宙人のような存在です。
彼らに接触するには細心の注意が必要です。
私自身の介在によってこの歴史が変わる事もありえるからです。
彼らに取材を許してもらうためには特殊な交渉術を用います。
それは極秘事項となっておりお見せする事はできませんが今回も無事密着取材する事に成功しました。
取材初日の深夜辻番たちに緊張が走った。
旗本屋敷が並ぶ通りで殺人事件が発生。
犯人が近くに現れたとの情報が番所に飛び込んできた
辻斬り？何ですか？
辻番たちはすぐに現場へ急行する。
犯人が近くに潜んでいるかもしれない
念のためろうそくを消し慎重に捜索を開始した。
…とその時だった！物陰から覆面をした男が飛び出てきた。
刀を振り回し斬りかかってくる
あっ！いてえ…。
先ほど犯人と思われる人物を確保しようとしたんですがいきなり斬りかかってきまして辻番の方が１人けがをしたもようですね。
犯人はどこへ行ったんでしょうか？
突然の襲撃に辻番たちはなすすべもなかった。
犯人を取り逃がした。
しかも辻番の一人が重傷を追う事態。
現場は騒然となった
立ち上がれるか？駄目だ！こちら沢嶋。
本部コントロールブースどうぞ。
（古橋ミナミ）はい古橋です。
先ほどこちらの辻番の方が犯人を確保しようとしたんですけど取り逃がしてしまいまして現場は今騒然としてます。
大丈夫ですか？おけがはありませんか？はい。
私は大丈夫なんですが辻番の方が１人けがをしたもようでして…。
それでですね取り逃がした犯人なんですがその犯人と思われる人物が辻斬りの犯人ではないかとこちらの方がおっしゃってたんですがその辻斬りの実態について補足データをお願いします。
「辻斬り」ですね。
了解しました。
ただちにアップします。
「辻斬り」とは武士が町なかで人を無差別に斬りつける行為で現代で言うところの通り魔殺人と言ってもいいかもしれません。
その目的は刀の斬れ味を試すためや自分の腕を磨くためなどで中には単なる憂さ晴らしというのもありました。
江戸時代の初め辻斬りは頻発し社会問題となりました。
沢嶋さん本当に危険ですのであまり無理な取材はなさらないようにお願いします。
了解しました。
ありがとうございます。
ここ数日武家屋敷周辺では辻斬りという無差別殺人事件が連続で起きていた。
警戒を強めていたやさきの出来事だった
ああ。
ちょいとな。
ああ…そいつは気の毒に。
大けがを負った辻番の一人は現場復帰は絶望的となる。
人員不足で悩んでいる時に更なる欠員が出る事態
辻番たちは不安を隠しきれない
必死に欠員補充を頼み込んでいるのが佐吉。
この辻番のリーダーである。
彼は頻繁に発生する辻斬りに大きな不安を抱いていた。
辻番たちは皆武士の身分ではない。
刀や武器の扱いにも慣れていない。
ただの町人だからである
きっかけも何も…世話になった。
それだけよ。
うえ〜ってなもんですよ。
小さな大名や旗本は家来が少ないため共同で辻番を設置した。
そうした辻番では経費を圧縮するため給料が安くて済む無職の町人を起用する事になったのだ。
２日後の朝。
辻番に人材を派遣する請負人がやって来た
欠員補充のため早速新人を採用したという
その人物とは…？
ああいやあの…こちらこそ。
分からない事があったら何でも聞けばいいよ。
頼んだよ。
じゃあ行きましょうか。
あまりに年老いた新人に一同はあぜんとして声も出ない。
幕府は６０歳以上の高齢者を辻番として雇用する事を禁止したが実際は守られなかった。
少しでも経費を削減しようとしたのである。
辻番たちに動揺が広がる
翌朝６８歳の新人八兵衛が出勤してきた。
新人の指導を任されたのは玄三
新人の八兵衛はまずは比較的安全な昼間の勤務となった。
早速玄三は新人研修を始めた。
当初は辻斬りの防止が目的であった辻番も時がたつにつれて職務が多岐にわたるようになる。
ゴミの不法投棄の監視や酔っ払いの世話またこうした大八車の不法駐車も取り締まった
ここを曲がって佐藤様の屋敷一帯が西の端になりやす。
更に…
遺体の処理も彼らの仕事だった
この石でござんすか？
遺体がちょうど地区と地区の境にある場合遺体の足の位置でどちらが管轄するかを判断した。
足がかかる地区の辻番が遺体の処理を行う。
このように辻番の職務には細かい規定が設けられていた。
また番所においても決まり事がいくつかありどんなに寒くとも昼夜を問わず戸を開け放っておくのが原則であった。
更に辻番勤務の者には博打副業などを厳しく禁じている
じいさん。
かまいませんよ。
留守番を任される事になった八兵衛。
果たして１人で乗り切れるのか。
番所にカメラを置かせてもらいその一部始終を映像に記録する事にした。
その時…
お侍さん。
お侍さん落とし物ですよ。
一体何が起きたのか
通りを行く侍が番所の目の前で何かを吐き出したらしい
ゴミの不法投棄にあたるとして八兵衛が注意を促す。
だが…
辻番の分際で。
いやいや。
これな捨てたんじゃねえんだよ。
さようで。
この老人！侍に向かって！
明らかに高齢者だとばかにしての行為に違いなかった。
激怒する侍にどうする事もできない八兵衛。
更に…
よろよろと番所に近づく怪しい男
新参でございまして…。
新参？
酔っ払いである。
やはり辻番が高齢者だと知って絡んできた
おめえら下々とは身分が違うがな。
おお〜っと。
危のうございますよ。
年寄りの辻番を風刺した川柳である。
江戸時代の後期には辻番は給料の安い高齢者ばかりとなり隠居の場と揶揄されるようにまでなった
おもどりなさい。
どうでした？
酔っ払いを番所に上げ寝かせてしまった八兵衛。
その勝手な行動に玄三は困惑の色を隠せない
ほれ！ほれ！どこでもてめえの好きな所に行きな！じいさん…。
ではお先に。
ごめんください。
八兵衛の長い一日が終わった。
だが辻番たちは不安を拭い去る事ができない
そういうのは辻番としちゃあどういうもんなんでえ。
いざという時に…余計なじいさんしょい込んだってわけかい。
本人の気持ちもあるよ。
じいさんの身を案じてるからっていうんで…
先日の辻斬りの実行犯がまだ捕まっていないからだ。
警備はこれまで以上に強化する必要がある。
いつまた危険な状況に直面するか分からない
九つでござ〜い！
辻番のリーダー佐吉は安全を考え八兵衛に自ら辞めてくれるよう説得を試みる事にした
…がその時だった！
てえへんだ！どうした？
再び辻斬りが起きてしまった。
番所に一気に緊張が走る
合点！緊急事態です。
今辻斬りが発生したとの情報がもたらされました。
番所は緊迫した状況になってます。
事件は隣の武家屋敷で夜明け前に発生。
こちらの方向に逃げ込んだとの知らせだった。
恐らく連続殺人事件を犯す辻斬りの犯人に違いない。
付近一帯に厳戒態勢が敷かれる事になった。
犯人は辻番のさすまたにより左腕に深い傷を負っているという。
夜通しで働いてきた３人も残る事にして全員で通行人の監視にあたる。
…とその時である
おい！
左腕を押さえた侍。
一同に緊張が走る。
そして…
ちょいとごめんなすって。
向こう角の辻番にごぜえやす。
笠で顔を隠しこちらを全く向こうとしない。
怪しさが募る。
しびれを切らした長治がついに…。
明らかにさすまたとは異なる傷。
完全な空振り
申し訳ございません。
・お前さま！よくもしゃあしゃあと！しかも何事でございます。
この者たちが勝手に…。
言い訳は要りませぬ！早く！だてに年を重ねちゃおりません。
その後も番所での監視が続けられた
早朝からの緊張の連続で徹夜勤務を続ける彼らにも疲労の色が見えだし始めた
するとただ一人目を開けていた八兵衛が何かに気付き目を凝らす
こぎれいな身なりの武士が通り過ぎる。
その時…
八兵衛がとっぴな行動に出た。
自ら地面に銭を落とし武士に声をかける
いや〜いけませんなあ…。
八兵衛さん八兵衛さんどうしたんだい？余計な世話じゃ！
八兵衛の勘違いか
相手は身分の高い家臣のようだ
そいつは勘弁して下せえ。
雇い主の責任問題に発展するかもしれない大失態。
必死に謝る。
しかし…
おめえら！
まさしくこの男こそ辻斬り犯だった
逃げる犯人！追いかける辻番たち！
ついに犯人を武家屋敷の裏に追い込む。
行き場を失った犯人。
ところがそこにはあの酔っ払いの男が
男を人質にとり空き家の中に。
扉にかんぬきを掛けられてしまう。
必死にこじあけようとする辻番たち
思い切りこれ…。
いいんですか？かまわねえからやっちまえよ！ううっ！くっそ〜！
次の瞬間…
（悲鳴）
男の悲鳴が…
えいっ！
５分後やっと扉が開いた。
その中には…男が倒れていた
何か乗せるもの！おい！大丈夫か？よし乗せろここに。
犯人に斬られたのか顔面血だらけだ
いくぞ！せ〜の！
八兵衛と嘉六が救急手当てのため急ぎ番所に運んでいく
分かりました！こっちだ！よし！気ぃつけろよ。
残った辻番たちで犯人の行方を追う
番所の映像。
けが人が運ばれてくるところだった
大丈夫か？おい！大丈夫か？呼んできます。
八兵衛はてきぱきと判断して手当てを進めていく。
そのころ犯人の捜索現場。
依然犯人の行方は分からない。
一体どこに潜んでいるのだろうか。
くまなく捜索が続けられる。
…とその時だった
（長治）おい！おい！
逃げ場を失った犯人は自らの命を絶ったらしい
だが…
それは犯人ではなかった！人質と犯人がすり替わっていたのだ。
八兵衛が危ない！
辻番たちが大急ぎで番所へ向かう。
そこには…！犯人と対決する八兵衛の姿が…！
危険が迫る！追い詰められる犯人！
そしてついに八兵衛に刀を振り上げる！その瞬間！
うわ〜っ！
八兵衛の見事な投げ技が決まった！鮮やかな手さばきで犯人の体を捕らえる
離せ！諦めろ！
通報を受け駆けつけた目付たちが犯人に縄をかけていく
離せ！
八兵衛は何事もなかったかのようにそこにたたずんでいた
江戸を震え上がらせた辻斬り犯の目的は自分の病を治すためという身勝手な理由だった。
無差別殺人を繰り返した辻斬り。
その辻斬りに真っ向から立ち向かった一人の老人八兵衛。
私は最後にどうしても聞いておきたい事があった
八兵衛さん。
ひとつ確かめ忘れたんですが…。
さあ…。
そうですか。
もしそうだったら…どうしなすった？じいさん。
ちょっと聞かれたもんで…。
済んだんですかい？ええ。
明日から夜番だそうで。
どうですかい？ちょいと１杯やっていきやせんかい？いいですな〜！まいりましょう！ではごめんなさいませ。
失礼します。
おう。
またな。
はい。
私の質問をはぐらかした八兵衛。
もしかしたら身分を捨てねばならないほどつらい事があったのかもしれない。
しかし今の彼は若い仲間から信頼されて一人の男として誇り高い様が魅力的だった。
辻番は時代が下ると高齢者が大半を占めるようになる。
だがそれは町が平穏になった証しであり名も無き辻番たちが必死で守り通した江戸の治安の行き着いた形である
以上コードナンバー３８９２５７アウトします。
2015/09/16(水) 01:30〜02:00
ＮＨＫ総合１・神戸
タイムスクープハンター セレクション「緊急警備！辻斬（つじぎ）りを阻止せよ」[字]
「タイムスクープハンター」のアンコール放送。時空ジャーナリストの沢嶋雄一（要潤）は、江戸時代の治安を守った辻番（つじばん）に密着取材。最も重要な任務は辻斬り阻止
詳細情報
番組内容
時空ジャーナリストの沢嶋雄一（要潤）は１７７２年にタイムワープをした。今回の取材対象は辻番（つじばん）。武家屋敷周辺の町の治安を守る、いわば江戸の警備員である。辻番の重要な任務は辻（つじ）斬りという無差別殺人事件を防ぐことにあった。ある日、新人の辻番が番所にやってくる。八兵衛の姿を見て、ほかの辻番に動揺が広がった。６８歳という高齢者。そんな時にまたもや辻斬り事件が発生する。
出演者
【出演】要潤，杏
ジャンル :
ドキュメンタリー／教養 – 歴史・紀行
ドラマ – 国内ドラマ
バラエティ – その他
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード（ステレオ）
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