アスリートの魂「無心で蹴りぬく ラグビー日本代表 五郎丸歩」 2015.09.17


世界一美しい鳥ケツァールは今日もこの豊かな森のどこかに。
出るぞ出るぞ出るぞ出た!そう!押せ押せ押せ…!福岡にあるラグビースクール。
ボールをつかんで前へ前へ。
3歳からトライする楽しさを学んでいます。
26年前ここに小さな男の子が加わりました。
中学までに骨折する事8回。
それでもラグビーをやめる事はありませんでした。
その少年が今日本を背負って世界を相手に戦っています。
ラグビー日本代表不動のエースです。
ごろちゃ〜ん!ごろちゃ〜ん!サイン下さい!最大の武器は成功率80%を超えるプレースキック。
ゴールから50メートル近く離れた場所からでも…。
角度のない難しい位置からでも…。
正確にゴールを射ぬきます。
(実況)いや〜見事!そのキックがワールドカップに挑む日本の命運を握っています。
精密なキックを支えるのはルーティンという独特の動き。
シュッ!今回初めてその正確無比なキックの秘密に迫りました。
これがもうほとんど…しかしワールドカップを直前に控え突然の変調。
重圧をはねのけようと無心でボールを蹴り続けた五郎丸選手。
更なる進化を求めて。
ワールドカップに向けた戦いの日々に密着しました。
日本代表は宮崎でワールドカップに向けた合宿をスタート。
世界の強豪に当たり負けしない強じんな体を作り上げるところから始めていました。
チームの副キャプテンを務める五郎丸選手。
身長185センチ体重100キロ。
(雄たけび)日本代表の試合で決めた得点は653。
歴代最多記録です。
五郎丸選手にとって初めてとなる今回のワールドカップ。
練習に力が入ります。
五郎丸選手だけが行う特別メニューがあります。
プレースキックの練習です。
蹴るのはこの8か所。
これまでの経験から試合で蹴る事が多い場所を選んでいます。
1回成功すれば次の場所へ移動。
一日の練習を8本で終える事も珍しくありません。
自分的にはそんなに…日本代表を率いるエディー・ジョーンズヘッドコーチ。
(取材者)お疲れさまです。
はいこんにちは。
こんにちは。
元気?かつて南アフリカ代表を世界一に導いた名将です。
今回のワールドカップでベスト8進出を目標に掲げました。
1987年に始まったラグビーワールドカップ。
日本代表はこれまで24戦して僅か1勝。
立ちはだかったのは強豪国の圧倒的なパワーとスピードでした。
(歓声)日本代表は勝利への活路を見いだせず低迷を続けてきました。
合宿初日。
エディーヘッドコーチは選手にチームの方針を伝えました。
目指すのは連続攻撃や素早い判断力など日本の強みを生かして勝利をもぎ取る戦い方。
その最大の切り札となるのが五郎丸選手のキックです。
アウェーでのルーマニア戦。
この試合体格で勝る相手の守りを崩せず日本はトライを奪う事ができませんでした。
前半14分。
相手の反則を受けて得たペナルティーキックのチャンス。
難しい角度から決めて先制ゴール。
3点を奪いました。
この日計6本のキックを全て成功し18得点をあげた五郎丸選手。
チームの全得点をあげる活躍で日本を勝利に導きました。
去年の代表戦でのキック成功率は81%。
前回のワールドカップでの全選手の平均成功率はおよそ70%。
世界一流のキッカーと比べても群を抜く高い成功率です。
キックの高い成功率を支えるのは蹴る前に行うこの独特の動きです。
ボールを2度回してセット。
ゴールの位置を確かめながら後ろへ3歩。
左へ2歩。
右手でボールを押し出すイメージを作り両手を合わせて力を体の中心に集めます。
五郎丸選手がルーティンと呼ぶ一連の動きです。
ルーティンに出会ったのは大学時代。
憧れの選手から指導を受けた事がきっかけでした。
両手を軽く合わせて前に出す特徴的なポーズ。
元イングランド代表の名キッカーウィルキンソン選手のルーティンです。
五郎丸選手はウィルキンソン選手をまねるようにキックの前に手を合わせるようになりました。
しかし歩数や間合いはバラバラ。
(実況)フックして…僅かにポストの右。
キックの成功率も70%ほどでした。
五郎丸選手のルーティンを大きく変えたのが日本代表のメンタルコーチ荒木香織さんです。
3年前エディーヘッドコーチが呼び寄せました。
荒木さんが五郎丸選手に勧めたのがルーティンの動作一つ一つを毎日記録する事です。
これがその記録です。
ルーティンの動作を6つに分けそれぞれの動作が正確にこなせているかを10点満点で評価します。
ルーティンの動きに集中する事でキックの成功率を高めるねらいです。
例えば試合中の方が多いと思うんですけど…一つ一つの動きに意識を集中する事でキックの成功率は飛躍的に上昇しました。
ルーティンによって生み出されるキックがどれほど正確なのか。
五郎丸選手の体にモーションキャプチャーをつけハイスピードカメラでその動きを解析しました。
協力してもらったのはかつて日本代表の技術スタッフを務めた…実験でもいつもと同じルーティンでキックを蹴ってもらいます。
同じ場所から蹴った4本のキックの動きを比較しました。
ハイスピードカメラが捉えた五郎丸選手のキック。
1本目と2本目のキックを重ねてみました。
ボールを蹴るまでの動作がぴたりと重なっています。
軸足を前に踏み出してからボールを蹴るまでの時間は4本とも1.1秒。
全て同じタイミングで蹴りだされていました。
瀬尾教授は一連の動作のある部分に注目しました。
ボールを蹴る足の膝から下の角度の変化です。
これは五郎丸選手の右膝の角度の変化を表したグラフです。
ボールを蹴る直前右足を振り上げ一気に振りぬきます。
4本のキックの右膝の角度の変化を重ねてみました。
するとキック直前の0.25秒間全て同じ変化を見せていました。
右足からボールに伝わるエネルギーの方向と大きさが常に一定になっているのです。
ルーティンによって機械のように同じ動きを再現できる能力。
それが五郎丸選手のキックの秘密です。
訓練されてる。
おはようございます。
(拍手)五郎丸選手の母校佐賀工業高校です。
練習が休みのこの日後輩の指導に訪れました。
招いたのは高校時代の恩師小城博総監督です。
強くないとこには応援したくねえからね。
握手してもらえ。
頑張れって。
はい次。
(小城)ほらこれ大きいやろ。
プレースキックの指導を行った五郎丸選手。
そこで後輩たちに伝えたのは目の前の事に集中する事の大切さでした。
分かる?だからある程度…五郎丸選手の信念。
その原点は高校時代ある試合での大きな失敗でした。
2年生の時に出場した全国大会の準々決勝。
前半23分のこのプレー。
五郎丸選手は相手がキックしたボールを落としてしまいます。
このミスがきっかけでトライを奪われてしまいました。
そのままチームは惨敗。
早くボールをつなぎたいという焦りから目の前のプレーに集中できなかった事が原因でした。
ほかの誰の責任でもない。
この試合のあと小城さんは五郎丸選手と1か月半ひたすらボールをキャッチする練習を続けました。
その狙いは練習の段階から目の前のプレーに集中する事。
五郎丸選手は雨の日も雪の日も毎日2時間ひたすら同じ練習を繰り返しました。
あの人はしごいてできる人じゃない。
五郎丸選手はメンタルコーチの荒木さんとルーティンの改良に取り組んでいました。
さっき…8。
一連の動きの中でこれまで唯一定まっていなかったキックまでの助走の歩数を決める事にしたのです。
12345678。
荒木さんと相談し助走の歩数は一番キックの感触がいい8歩にする事にしました。
気持ちいい?気持ちいいっす。
もっともっともっともっと下さいって。
もっと下さい。
改良のきっかけとなったのはエディーヘッドコーチのひと言。
キックの成功率を更に上げるよう求めてきたのです。
ところが今回の改良はなぜか成功率の向上に結び付いていきません。
うわ〜。
心配した荒木さんが練習後五郎丸選手のもとに駆け寄りました。
さりげなく改良したキックの感触を聞き出します。
今「うま〜」言うたな。
今「うま〜」って言ったよな。
タイミングちょっと速くなるじゃないですか。
(荒木)焦る?焦るっていうか行動が早くなる。
リズムが。
あと近いから…自分のペースで蹴れへんから…。
「振りぬけていない」。
ルーティンを改良した部分ではなく蹴ったあとの感触に違和感を感じていました。
先月行われた強化試合。
五郎丸選手のキックに異変が起きていました。
後半2分ゴール正面からのキック。
いつもなら決めている位置です。
しっかりとルーティンを行いましたが決める事はできませんでした。
五郎丸選手は3年ぶりの途中交代。
日本代表も20対45で敗れました。
荒木さんは五郎丸選手がチョーキングという心理状態に陥っていると考えていました。
85%という高い目標。
目前に迫ったワールドカップ。
無心になるためのルーティンでも消せない大きなプレッシャーが押し寄せていました。
試合から3日後。
降りしきる雨の中五郎丸選手の姿がありました。
練習がいつもと大きく変わっていました。
過去のデータを振り返りキックの成功率が低く苦手意識が強い場所を1か所選びました。
左サイド22メートルライン付近。
後ろに3歩。
左に2歩。
そして助走は8歩。
ルーティンの動作を一つ一つ意識して蹴ります。
ゴールを決めても練習をやめません。
目の前のボールを蹴る事だけに集中していました。
ワールドカップ初戦まで1か月を切ったこの日。
日本代表は重要な一戦に臨みました。
対戦相手はワールドカップにも出場するウルグアイ。
フォワード陣のパワーが持ち味です。
日本の戦い方が通用するのか。
目標とするベスト8を狙うには勝たなくてはいけない試合です。
前半20分日本がキックのチャンスを得ました。
場所はゴール左サイド22メートルライン付近。
雨の中練習してきたあの場所です。
築き上げてきたルーティンをきちんとこなす。
その事だけを考えていました。
手を前で組む動き。
助走は8歩。
(拍手)無心で蹴り抜きました。
この試合五郎丸選手は6本のキックを全て成功。
チームを勝利に導きました。
(取材者)お疲れさまでした。
うっす。
そうですね。
(取材者)振りぬけないってやつは全然変わってないですか?
(取材者)ありがとうございました。
ありがとうございました。
五郎丸さん!五郎丸さん!試合後五郎丸選手は会場を離れる直前までサインを求めるファンに応じていました。
2日後。
合宿地宮崎で五郎丸選手は黙々とキックを蹴り続けていました。
一本一本の積み重ねがワールドカップでの勝利につながる。
そう信じています。
恩師の小城さんのもとに五郎丸選手からのメッセージが届きました。
書かれていたのは目の前に迫ったワールドカップへの決意。
ベスト8を目指すラグビー日本代表。
五郎丸選手が見据えるのは日本がまだ見ぬ世界。
2015/09/17(木) 01:30〜02:15
NHK総合1・神戸
アスリートの魂「無心で蹴りぬく ラグビー日本代表 五郎丸歩」[字]

ラグビー日本代表、五郎丸歩選手。武器は高い成功率を誇るプレースキック。今月のW杯でベスト8入りを目指す日本の命運を握る。より精度の高いキックを求める日々に密着。

詳細情報
番組内容
日本代表不動のフルバック、五郎丸歩選手。成功率80%を越えるプレースキックを支えるのは、彼自身が“ルーティン”と呼ぶ、ボールを置いてから蹴るまでの一連の動作。プレッシャーがかかる場面でも、集中力を研ぎ澄まして蹴ることができると言う。さらに高い成功率を目指し、今、ルーティンの見直しに取り組んでいる。果たして成功率アップにつながるのか。日本を背負う重圧と戦いながら、完璧なキックを追い求める姿に迫る。
出演者
【語り】萩原聖人

ジャンル :
スポーツ – その他の球技

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サンプリングレート : 48kHz

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