余録:「特議院」「公議院」「審議院」……

毎日新聞 2015年09月17日 01時19分(最終更新 09月17日 01時19分)

 「特議院」「公議院」「審議院」……今の憲法で2院制議会にすると決まった時、衆議院でない方の呼び名に困ったという。結果は賢者が選ばれた昔の朝廷の官職を思わせる「参議院」となった▲なかには時代錯誤(じだいさくご)という批判もあったが、当時の金森徳次郎(かなもり・とくじろう)憲法担当相は賢明な知恵を出し合って議会の働きを達成するのを表すには良い名前だと答えた。なるほど特議や公議、審議ではどこが衆議院と違うかが分からない。その金森は参議院の役割をこう説明した▲「参議院は一種の抑制機関である、而(しか)してこれに慎重練熟(しんちょうれんじゅく)の要素を盛り込む工夫をしたならば……多数党の一時的なる勢力が弊害を起こすと云(い)うようなことを防止する力を持つ」。その入念な審議を通して国民世論も次第にまとまり、国論も安定すると説いたのである▲だがその後の参議院は、与党多数なら「衆院のカーボンコピー」と無用視され、与野党ねじれ状況だと「決められない政治」の元凶(げんきょう)視されてしまう。そして安全保障関連法案の参院審議大詰めは、国論の集約どころか、法案への世論の大逆風の中で迎えることになった▲参院の初心からすれば、世論と議会多数派の隔たりがあまりに大きい時こそ参院の「慎重練熟」の出番だろう。しかし先の説明の69年後の現実は違った。与党による参院委採決に対しては、野党が閣僚らの問責決議案などを連発して抵抗する法案成立の瀬戸際(せとぎわ)となる▲説明の食い違いや新しい疑問が続出した審議を振り返れば、はなから世論の理解を得ようとしたのかも疑われる安保法案である。泉下(せんか)の憲法担当相も参院が国論分裂の舞台となったのは悲しかろう。

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