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2015-09-15 大友克洋監督/映画『AKIRA』がアニメ界に与えた影響とは

■あらすじ『1998年、関東地区に新型爆弾が使用され、第三次世界大戦が勃発。それから31年経った2019年。東京湾上に構築されたネオ東京は、翌年にオリンピックを控え、かつての繁栄を取り戻しつつあった。そんなある夜、金田をリーダーとする暴走族グループが、敵対する組織:クラウンと派手な争いを繰り広げていると、奇妙な小男と遭遇。金田の仲間の鉄雄が小男に接触する直前、突然バイクが大破し、鉄雄は重傷を負った。しかしアーミーの軍用ヘリが現れ、鉄雄を連れ去ってしまう。テロ活動を行っていたゲリラ兵のケイたちとともにラボへ潜入する金田。だが、既に鉄雄は凄まじい超能力を身につけ始めていた…。軍の大佐が恐れるAKIRAとは何者なのか?驚異的なサイキックパワーを手に入れた鉄雄の運命は?原作者の大友克洋が自ら監督を務め、リアルな人物像や圧倒的な映像表現で海外の観客にも衝撃を与えたハイ・クオリティ・アニメーション超大作!』
漫画家・アニメーション監督として活躍中の大友克洋の作品を特集した「鬼才・大友克洋の世界」が、昨日9月14日からWOWOWシネマにてオンエアされている。この特集で放送されるのは、大友氏が原作や監督を務めた計4本の劇場版アニメだ。
まず総監督として参加したオムニバス作品『MEMORIES』、そして長編監督に挑んだSF作品『AKIRA』『スチームボーイ』、さらにテレビ初登場となる短編オムニバス『SHORT PEACE』がラインナップに並んでいる。放送スケジュールは以下の通り。
・9月17日(木)23:00〜「SHORT PEACE」
というわけで本日は、大友克洋監督が手掛けた初の劇場用長編アニメーション『AKIRA』について取り上げてみたい。この映画は日本のアニメ史を語る上でも外すことの出来ないエポックメイキングな作品であり、海外では押井守監督の『攻殻機動隊』と並んで「ジャパニメーションの代表格」と評される機会も多い有名タイトルだ。
何しろ、総製作費が10億円、総作画セル枚数が15万枚、総カット数が2200カットという当時としては破格の規模で作られており、現在でもこのクラスの大作アニメは(ジブリを除けば)滅多にない。映画のスケール的にも技術的にも、間違いなくアニメーションの歴史における重要なターニングポイントと言えるだろう。
しかし、今でこそ高い完成度が賞賛されている本作だが、劇場で公開された時点ではまだ修正すべき箇所が残っている状態で、大友監督としては不本意な出来栄えだったらしい。僕は地元の映画館で観たんだけど、最初のシーンからいきなり絵がガタついていたので「あれ?」と思ったのを覚えている。
当時、『AKIRA』を作るために日本中から優秀なアニメーターが集められ、「他のアニメに支障が出る」とまで言われたらしいが、それでも大友監督の要求レベルが高すぎて、ついていける人間は限られていたという。困難だったのは作画だけでなく、原作の「緻密に描き込まれた多数のビル」を描かねばならない美術担当者も相当に苦労したらしい(以下、美術監督の水谷利春氏のコメントから抜粋↓)。
「普通なら、ガラスの光った感じで誤魔化してしまうようなビルの窓一つでも、照明とか、机の上に乗っている小物まで克明に描いてあるんです。しかも、普段は中景からロングっていうのはボカして見せるんですけど、大友さんの場合、手前に大きなビルがあって、その後ろに何千階という高層ビル群がある。そういう奥行きを出すのが難しかったですね。手前のビルの窓を3ミリぐらいで描くと、遠くの方は0.5ミリぐらい、さらにその奥にビルがあると、もうどうしていいのか……」 (『AKIRA』劇場用パンフレットより)
このように、作画や美術スタッフたちは今までのアニメとは全く違う『AKIRA』の製作に苦労しまくり、スケジュールがどんどん遅れていったそうだ。さらに、出来上がった画を撮影するのも大変で、『AKIRA』は重ねるセルの枚数が多く、通常の3倍にもなったという。当然、ゴミやホコリを取るのに余計に時間がかかり、しかもマルチ・プレーンやモーション・コントロール、オプチカル合成など、手間のかかる作業が山のようにあったため、撮影ミスや作画ミスが多発したらしい。
ただ、大友監督が凄いのは、出来上がった映画を見て「いかん!直さなければ!」と実際に直してしまうところなのだ。”修正”と言ってもカットを増やしたり削除したりといった大掛かりなものではなく、「セル位置のズレによる画面のガタつき」や「色の塗り間違い」など、非常に細かい部分が多かったらしい。なので恐らく普通の人には気付かないレベルなのだろうが、自分の作品に徹底したこだわりを持つ大友氏は、それらの細かいミスを修正することで、さらに完璧な作品に仕上げることを望んだのである。
つまり、現在ブルーレイやDVDで観ることができる『AKIRA』は完成時の姿ではなく、わざわざ1億円の追加費用を投じて、劇場公開された後に更に200カット以上のリテイクを加えた「国際映画祭参加版」と呼ばれる修正バージョンなのだ。
これだけの費用と手間暇をかけて、大友克洋が『AKIRA』で目指したものはなんだったのか?シンプルに答えるなら、「リアリティを追求したアニメーション」ってことになるのだろう。しかし単に「実写的なアニメを作る」というだけでなく、画面に映る光景があたかもカメラのレンズを通して見ているかのような、まさに「現実世界をそのままアニメで再現」しようとしていた感じが見受けられて興味深い(以下、大友克洋のインタビューから抜粋↓)。
当時のチャレンジとして、レイアウトを取る際、レンズとフレームを意識したというのがあります。望遠にするか広角にするか。カメラのレンズを決めるということは、映画の表現に大きな違いが出ます。ただ人が立っているだけのカットも、背景がきちんと写る広角と、背景をぼかして見えなくする望遠では、カットそのものの意味が変わってくる。レンズを変えるだけで演出の意図が違ってきます。 (「アキラ・アーカイヴ」より)
このような望遠・広角レンズの概念やカメラアングルという考え方は、『AKIRA』製作当時はあまり一般化していなかったが、今では当たり前にように使われている。間違いなく『AKIRA』の前と後では、アニメの制作スタイルそのものに大きな変化が生じているのだ。
もちろん、『AKIRA』以外にもリアリティを追求したアニメは存在する。だが、『AKIRA』の凄さは「2コマ打ち」でなめらかな動きにこだわったり、「リップシンクロ」で声優のセリフとキャラの口の動きを完璧にマッチさせたり、他のアニメではやらないようなことを積極的にやっていたことだ。
その効果は直ちに「ディテール」として画面に反映され、過剰な密度感が観る者に圧倒的なインパクトを与えたのである。80年代は「ディテール」にこだわったアニメが多数製作されたが、『AKIRA』の場合は「動き」も「セリフ」も「背景」も「音楽」も、ありとあらゆるものが過剰だった点で一線を画していたのだ。
元々、原作の『AKIRA』は漫画雑誌『週刊ヤングマガジン』に連載され、そのディテールの凄まじさに多くの読者が度肝を抜かれた衝撃作である。その原作者が自ら手掛けたアニメーションなのだから、作品のクオリティーにこだわるのは当然と言えよう。そしてそのこだわりのパワーこそが、世界に通用する作品を生み出す原動力でもあったのだ。
そんな『AKIRA』は、当然観客だけでなく、現場のアニメーターにも多大な影響を与えた。あまりにもカッコいい『AKIRA』の作画を見て、「俺もやってみたい!」とマネする人が続出したのである。中でも、特に多くの模倣を生み出したのが以下のシーンだろう。↓
主人公の金田とジョーカーが互いにバイクで急接近し、交差した瞬間、金田は巧みなテクニックでバイクを「ズザザザザー!」と豪快にスライドさせながら停止させるこの場面。予告編で何度も流された有名なカットで、金田のクローズアップから一気に後退していく様子が大胆かつ丁寧な作画で描かれている。
路面を削るタイヤが煙を上げ、金田がバイクと自分の体重のバランスを取り、足を地面にこすらせている様子。そして超伝導バイクの未来感をアピールするため、前輪部分にスパークが走る様子など、一瞬の中に詰め込まれた情報量の多さで観る者全てを圧倒した。実に見事なカットである。
原画をアニメーターの植田均が描き、作画監督補佐の森本晃司が修正原画を描いたこのシーンは多くのアニメーターに衝撃を与え、同時にパクリが多発したという。では具体的にどんな風にパクられたのか?それらのアニメを以下にまとめてみたので参照していただきたい。シチュエーションはバラバラで、キャラクターも当然違うわけだが、どう見ても『AKIRA』のこのシーンをパクッたとしか思えないカットがいくつも存在しているのである。
というわけで、大友克洋が作り出した超大作アニメーション『AKIRA』は、非常に多くのクリエイターたちに影響を与えていたことがお分かりいただけたと思う。日本だけでなく、海外のアニメーターまで本作を参考に作画していることからも、「実に偉大なアニメである」と言うしかないだろう。天晴だ!