注目の女性テック起業家を新VP of Productに迎え、GitHubはどう変わるのか?
2015/09/16公開
GitHubの新VP of Productに就任したKakul Srivastavaさん
GitHubの新VP of Productにこのほど、ビジネスアプリ開発のTomfooleryを起業したことなどで知られる女性テック起業家Kakul Srivastavaさんが就任した。
Srivastavaさんはこれまで、Adobe Photoshop関連のソフトウエアやFlickr、Yahoo!メッセンジャー、Yahoo!メールなどの技術開発に携わってきた女性エンジニア。2014年にYahoo! Inc.に買収されたTomfooleryのCEO、最近までは10億ドル企業WeWorkのCPOも務めていた人物だ。
同時に彼女は2人の子供を持つ母親であり、暴力廃絶を推進する非営利団体の共同代表としての顔も持つ。
SrivastavaさんがGitHubに加わることになった経緯、今後GitHubで実現したいこと、さらには女性がこの業界でキャリアを築くことについて、注目の新VP of Productに話を聞いた。
VP of Productが担う3つの役割
—— まずは就任に至った経緯について伺えますか。なぜ、今回のオファーを受けることにしたのでしょうか?
私は昔からのGitHubのファンです。GitHubは長年にわたり業界を変革してきた企業であり、3つの重要なトレンドの中心にいます。
一つは、時間と距離、企業の枠をも超えて、開発者がより協力し合って作業ができるソフトウエア開発方法。
一つは、全世界で1000万人以上の開発者と2600万のリポジトリをつなぐソーシャルネットワーク。
もう一つは、開発者用ツールの新しいエコシステム。現在13000以上のアプリケーションがGitHubとつながる形で開発者向けサービスを提供していますが、このことは、開発者が自分たちにとって適切なワークフローを作成するための新しい方法ができたことを意味しています。
Srivastavaさんはビジネスアプリ開発のTomfooleryを起業、Yahoo!にバイアウトするなどの実績を持つ
Flickrのようなソーシャルアプリケーション、Yahoo!に買収されたTomfooleryのような共同作業のための新しいやり方の開発を主としてきました。
そのため、GitHubは私にとって非常になじむように思える。まるで我が家に帰ってきたような心地なんです。
—— 「我が家」に帰った今、VP of Productというポジションでどのようなお仕事をされるおつもりですか?
製品管理のバイスプレジデントとしての私の役割は、大きく分けて3つあります。
第一に、優秀な製品管理チームとともに製品戦略を主導すること。すなわち、業界のトレンドと顧客ニーズ、技術革新をいかにすり合わせて、最高の製品とサービスをユーザーに提供できるかを検討するということです。
次に、デザインチームの管理もします。会社にデザイン文化を築く後押しをして、自社製品が高いレベルの品質と洗練性、使いやすさをもって設計されるよう支援します。
そして最後に、ユーザー調査の取り組みも管理します。全てのチームがユーザーニーズにきちんと耳を傾け、タイミングよく製品や技術的判断に反映できるよう支援するのです。
追求できる重要なプロジェクトはいくつかありますが、短期的な目標は以下の領域になるでしょう。
まず、デベロッパーファーストの徹底。GitHubにとってのコアはあくまでGitHubを使ってコードを書く開発者たちだと考えていますから、GitHubが今後も間違いなく開発者にとって最高の体験となるよう、努めていきます。
次に、蓄積されたネットワーク情報に基づいた改善・改良です。1000万人の開発者ネットワークから得た共同作業に関する多くの洞察から、GitHubをよりよいモノにしていくということです。
さらに、GitHubを良きビジネスパートナーにすることにも注力していきます。先ほども申し上げた通りGitHubは開発者にとって重要なものでありますが、同時にGitHub上でビジネスを構築する人が増えている。企業がGitHubと協力し、ともに成長することも簡単ににしていきたいと考えています。
—— GitHubは今後、どのように変わっていきますか?
今後も絶対に変わらないだろうことは、GitHubがこれまで通り開発者と、彼らのユーザー体験を最も大切にしていくということです。私たちは常にユーザーのことを大切に考えており、私たち自身が使いたいと思えるものでない限り、シップ(出荷)することはありません。
逆に変えたいと思っているのは、ユーザーにサービスをいかに早く届けられるかです。先述した3つの領域でそれを成し遂げたいと思っています。
テック業界で働く女性として心掛けてきたこと
—— ご自身のキャリアを築く上で、テック業界で働く女性として心掛けてきたことは何でしょうか?
私がこの業界に来たのは、革新的な技術と革新的なビジネスが交差するところにいたいと思ったからです。その中で私が常に重視してきたのは、自分が最高と思える人と一緒に働くこと、そして顧客に私が開発に携わった製品を気に入ってもらうようにすることです。
確かにテック業界は女性にとってキツいかもしれません。女性が心地よく働くために業界としてやらなければならないことがまだまだあるでしょう。
私がこれまでうまくやってこれたのは、幸運にも私は自分の仕事を好きでいられたから、そして私を支えてくれるたくさんの男女とつながりを持つことができたからです。
家族の協力があることも助けになりましたた。私の夫、Jon Metzierは日本企業と仕事をすることが多く、出張することもあるので、お互いに歩み寄りが必要でした。2人がお互いに仕事面でサポートし合うのと同時に、家庭を健全であるように心掛けることも、忘れてはいけない重要な要素だと思います。
—— 2人のお子さんがいらっしゃるということですが、GitHubは母親にとって働きやすい環境でしょうか? GitHubのワークフローはご自身の働き方に影響を与えましたか?
GitHubにおける母親としての体験は非常にポジティブなものです。
働いて2週目に保育施設でちょっとした問題が起き、5歳の娘を職場に連れてこなければならなくなったのですが、皆が温かく迎えてくれました。会社には育児室が完備されていて、おもちゃ、塗り絵にお遊戯と、娘を飽きさせることはありませんでした。
私自身は職務上、会社で多くの時間を過ごすことになるのですが、GitHubは全社員に柔軟な勤務を選択できるよう取り組んでいますので、地理や時間帯の境界を超えての恊働が可能になっています。
—— それでは最後に、日本にいるエンジニアや製品クリエイターにメッセージをお願いします。
誰もが簡単にソフトウエアを開発し、世界を変えるモノづくりにかかわれるようにすることが、私たちの望みです。そこに母親が入っていくのが非常に難しいことは、もちろん承知しています。
でも日本の全ての働く女性に知っていただきたいのは、私たちが尽力しているのはまさに、そうした障壁を乗り越えて、全ての人がソフトウエア開発にかかわれるようにするための、プロダクトとコミュニティを作る取り組みだということです。
日本にこんなにも熱烈なファンがいることは、GitHubにとってとても幸運なことだと思っています。その愛を勝ち取る製品を作り続けることが、今後も私たちの最優先事項です。
取材・文/鈴木陸夫(編集部)
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