社説
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来年の国勢調査/現実味増す「居住人口ゼロ」

 「自治体消滅」は自然衰退などではなく、人為によって成されるのだ、と端なくも証明することになるのではないか。
 5年に1度の国勢調査が来年実施される。基準日の10月1日まで既に1年を切った。事故の影響が収束する気配を見せない福島第1原発の周辺町村では「居住人口ゼロ」が刻々と現実味を増しつつある。
 福島県の浪江、双葉、大熊、富岡、楢葉、葛尾、飯舘の7町村では、今なお全住民が避難を余儀なくされている。
 これら町村で避難指示が解かれるのは相当先になるだろう。仮に国勢調査までに解除されたとしても、住民が即座に戻って来る保証はどこにもない。
 一足早く、ことし4月に避難指示が解除された田村市の都路地区ですら、帰還を果たした住民は8月末時点でようやく117人だった。解除から5カ月を経ても対象住民354人の約3割にとどまっている。
 避難指示の解除後も除染や住宅再建の困難は続く。ふるさとへの帰還を願っていた避難住民の心境も時間の経過とともに変化している。
 現状はいかんともし難い。とりわけ、自治体の主要財源である地方交付税の取り扱いはどうなるのか。
 行政サービスを維持するのに必要な普通交付税の配分額は、国勢調査の結果を基礎数値にして算出される。「居住人口ゼロ」であれば、その自治体に財政需要はないと見なされ、普通交付税は配分されない。
 実際には、原発事故で住民が全国へ広範囲に避難している町村の財政需要は「ない」どころか、増大傾向にあるにもかかわらずだ。
 広範囲に住民が散らばって暮らしていれば、行政効率が悪くなるのは当然だ。普通交付税の削減は小さな自治体にとって死活問題に直結する。小規模な自治体が国勢調査に血眼になるのは、こうした事情による。
 沖縄県南端の島々で構成する竹富町は、居住民を確保しようと船で離島を巡り、キャンプ生活を送る人たちに調査票を配布しているという。
 過去には三宅島の噴火で全島避難した東京都三宅村が、2000年調査で住民不存在となった。このときは特例で普通交付税を維持する措置が取られた。
 総務省は「三宅村の例に倣い、原発周辺にある被災町村の交付税は維持する」と説明するが、半面、「震災復興特別交付金はしっかり配分している」と念を押す。この物言いが引っ掛かるのだ。
 震災復興特別交付金の交付は早晩、終了する。口約束だけで、「住民不存在」の長期化を覚悟しなければならない原発被災自治体の安心が得られるとは到底思えない。
 普通交付税が削減されるかもしれないという不安は災後、人口減少に拍車の掛かる東日本大震災の被災自治体に広がっている。包括的に被災自治体の普通交付税を担保する特別法の整備が求められるゆえんである。


2014年10月15日水曜日

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