新たな安全保障関連法案を審議している参院特別委員会が中央公聴会を開いた。ふだんの公聴会でも多い大学教授にまじって、異色ともいえる2人の公述人が野党推薦で発言した。

 1人は、「憲法の番人」とも呼ばれる最高裁の元判事、浜田邦夫さん。もう1人は、国会周辺で反対デモを続ける学生団体「SEALDs(シールズ)」メンバーの奥田愛基(あき)さん。

 浜田さんは法案を「違憲」と指摘。「非常に危機感がある。本来は憲法9条の改正手続きをへるべきものを内閣の閣議決定で急に変えるのは、法解釈の安定性で問題がある」。奥田さんは「憲法とは国民の権利。それを無視することは国民を無視するのと同義」と語った。

 衆参で200時間もの審議を重ねた結果、政権の説明の矛盾がさらに鮮明になっている。安倍首相自身が集団的自衛権行使の具体例として説明してきた二つの事例さえ揺らいでいる。

 中東ホルムズ海峡での戦時の機雷掃海について、首相は「現在の国際情勢に照らせば、現実の問題として発生することを具体的に想定しているものではない」。日本人の母子を乗せた米艦の防護も、中谷防衛相は「邦人が乗っているかは絶対的なものではない」と述べた。

 何のために集団的自衛権の行使が必要なのか。政権の説明の根底がふらついている。

 こうした事例について浜田さんは「政府答弁が変わって、いずれも該当しないとなって、それでも強行採決するというのは納得いかない」と指摘した。

 浜田さん、奥田さんの発言の背後には、政府の説明に不信と不安をもつ幅広い民意があるとみるべきだ。

 ところが自民、公明両党はきょうの地方公聴会が終われば、直ちに採決する構えだ。国民の代表である公述人の意見を、審議に生かすつもりは最初からなかったと言わざるを得ない。

 公聴会をめぐっては、第1次安倍内閣だった07年、河野洋平衆院議長が「国民の意見を聴いてすぐ採決するのでは、何のために聴いたのか、ということになる」と与野党に提起したが、見直しにはつながらなかった。

 公聴会は本来、民意を国会へとつなぐ回路であるべきだ。与党推薦であれ、野党推薦であれ、公述人の意見に真摯(しんし)に耳を傾け、今後の審議に生かすことこそ国会の責務のはずだ。

 首相自身、おとといの国会答弁で「確かにまだ支持が広がっていない」と認めた。そんな状態で採決に踏み込むようなら、国会の存在意義が問われる。