「マッドマックス 怒りのデス・ロード」より
(C)2015 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED6月20日(土)に公開されるやいなや映画ファンの話題をさらった「マッドマックス 怒りのデス・ロード」。その大ヒット映画のコンセプトアートアンドデザインを務めた日本人クリエイター・前田真宏さんに特別単独インタビュー。「マッドマックス」ファンならずとも見逃せない逸話の数々を3回に分けてお届けします。最終回となる今回は、あの作品との関係性についても話は及んで――。
■第3回「画の力がシンプルさを凌駕した『マッドマックス 怒りのデス・ロード』」
――フュリオサの元デザインに関しては、ジョーとは逆に髪の毛があったんですよね。
前田:アニメの場合、キャラクターの認識にシルエットと色が重要なので、髪の毛の果たす役割が大きいんです。被り物とかゴーグルを外した時、髪の毛がバサッとなったらカッコいいじゃないですか。ミラーさんにもそう説明して、赤毛の女性にすることに決めたんです。最初は和風なものも提案してて、マゲを結ってたり、ボルトとナットのかんざしみたいなものも考えてました。あと、髪の毛そのものは長いんだけど、編み込んでみたらどうかとか。ただ、坊主頭の案もあるにはありましたよ。幼い頃に盗賊にさらわれた彼女は、シタデル(ジョーの砦)に貢物として連れてこられたんだけど、いつか大人になったらジョーの妻にされてしまうから、そこから逃げ出してウォーボーイズに紛れて育つっていう話を考えてたんです。その段階でのイメージボードとしては、ウォーボーイズと揃えているので髪の毛を剃ってました。
――映画に流用されたデザインは、フュリオサとジョー以外にもあるんですか?
前田:シタデルの内部ですかね。風力・太陽光発電とそれを利用した水耕農場とか、エアードーム、あとトレッド・ミルと呼ばれるウォーボーイズたちが使う人力エレベーター等々です。絵コンテやイメージボードをつくっていたので、そこからウォーボーイズの雰囲気なんかをピックアップしてもらってました。今回、本当に美術部がいい仕事してますよ。シフトノブやダッシュボードのデコとか、そういうちょっとしたところにもミラーさんと話していたこと、彼らの精神世界が反映されていてすごく感心しました。「サンダードーム」でやりきれなかったことをうまくやっていて、今回は抜かりなくやってますよね。
――「サンダードーム」って、「マッドマックス」ファンの間では評価の分かれる作品ですけど、ジョージ・ミラーとしても不完全燃焼な部分があったんですかね。
前田:じゃないですかねぇ。後半の子供たちのくだりが要らないっていう人もいるけど、僕はけっこう好きなんですよ。結局、ティナ・ターナーというスターをフィーチャーするため、どこか不自然なシナリオ構成になってるというか。お金がたくさん入ってきて、いろいろとリッチなこともできてるんですけど、どこか未消化な感じはあって。今回、その辺をガッツリやろうっていう思惑はあったんじゃないですかね。
――ジョーの息子、コーパス・コロッサスとリクタス・エレクタスのチビデカコンビも、「サンダードーム」のマスター・ブラスターの焼き直しっぽいですしね。
前田:そうそう。「サンダードーム」って、やりたいことはわかるんだけど、少しカリカチュアがすぎたというか、デザインがすぎたというか…。それが理由なのかわかりませんが、ミラーさんは何度も“オーセンティック”という言葉を口にしてました。つまり見るからにデザインされたようなものは出したくないと。フュリオサの義手にしても、コリンさんはきれいすぎると抵抗感を示してました。すごく高度なものに見えると言うんですね。それで一生懸命、バイクの部品とかニッパーとかプライヤーを組み合わせて、いろんな試作品をつくってました。
――では最後に、実際に完成された映画をご覧になった時のご感想をうかがえれば。
前田:本当によくつくったなぁ、と。ストーリーの全貌は知ってたワケですけど、あれがこうなったのかと感動しました。セリフも少ないし、言ってしまえば行って帰るだけの単純な話じゃないですか。正直、最初にプロットを見た時は、これで大丈夫なのかと疑いの気持ちもあったくらいで。この間、その話をミラーさんにしたら、「周りを説得するのにどれだけ苦労したと思ってんだ!」とおっしゃってましたけど、画の力がシンプルさを凌駕してたワケです。映画としての力で、周りの雑音を黙らせてしまった。あと、こんなにハードな撮影をしたらミラーさんが死んじゃう!とも思いましたよ。砂漠でほぼ半年、それでアクションを毎日撮ってたって…。もうお爺ちゃんなんだから、いい加減にして!(笑)
――変な話、ジョージ・ルーカスみたいに他の人に任せるという手もあったワケですもんね。
前田:そうですよね、「ベイブ」はそうだったんだし。でも、きっとそれだけ思い入れがあったんでしょう。その思い入れの熱さが現場スタッフを動かしてたし、若手のいいスタッフが集まってつくられていったんだなと。そこにいちばん感動しましたね。
なお、月刊ニュータイプ10月号の別冊付録「movie Newtype」には、前田真宏さんと「ベイマックス」でコンセプトデザインを務めたコヤマシゲトさんによる“マックス対談”後編を掲載。WebNewtypeで期間限定掲載をしている前編とあわせてご覧ください。【取材・文=ガイガン山崎/撮影=木藤富士夫】
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