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 毎年9月にアップルが開く新製品発表会は、一企業の新製品発表としてはもっとも世界の注目を浴びるイベントかもしれない。アップルはいまや時価総額世界一を独走する企業。アップルを追っている記者は世界中におり、発表はネットで世界にライブ中継されている。実際の発表会の裏側はどうなっているのか。

 新しいiPhoneなどが発表されるメインの新製品発表会はたいてい毎年9月にある。アップルはイベントの1週間から10日ほど前にメールで世界の記者に招待状を送る。

 招待状にはおなじみのリンゴのマークがデザインの一部に使われていることが多く、何の発表かは書かれていないが、その時の発表のヒントになるような一言が添えられている。

 今回添えられていたのは、「シリ、ヒントをちょうだい」。「シリ」はアップルの音声認識のことで、今回は新しくなった「アップルTV」にシリが搭載されることをほのめかした一言だった。

 各国からどれだけの記者が呼ばれるかは、会場の広さによって毎回違う。ただ、どの国にどれだけの記者席が割り当てられるかは、その時のアップルの重要な市場がどこにあるのかを推し量る意味でも興味深い。アップルは招待している記者数自体を公表していないが、最近は中国メディアの数が非常に多くなっており、会場によっては50人近い席が中国の記者に割り当てられていると聞いたこともある。(日本のメディアは、見たところ10人から20人くらいだろうか)。アップルの売り上げの中で中国市場の重みはどんどん増しており、世界の売り上げの4分の1以上を占めていることを考えると、当然かもしれない。今年は約7千人が入るサンフランシスコ市内の会場で、近年では最大規模だった。

■右往左往する記者

 発表はたいてい現地時間の午前10時からだが、テレビは午前6時ごろから中継の準備を始め、7時ごろから記者が列を作り始める。8時に開場し、10時直前に会場のドアが開くまで、ドアの前に集まってひたすら待つ。会場は大きい上に暗いため、みななるべく前の方の席を確保しようと必死だ。

 しかし、すべてがおおざっぱな米国。どこに列を作るのか、テレビカメラが先に入るのか、記者はどこで待つのか、どんな順番なのか、きちんと整理する人も把握している人もおらず、いつも右往左往の混乱が起きる。

 今回も、会場整理をしている人に、「テレビカメラはこっち」「記者はあっち」と言われて列を作ったが、別の人がやってきて、ここでないから違う場所に移動しろと言う。しばらくするとまた別の人が、再び元の場所でいい、と言いに来るが、もうそこには数十人の列が出来ていて、後ろに並ばざるを得なくなる。2時間前から最前列に並んでいても直前に列の後ろに回されるなどということが、よく起きる。

 もっとも、こういうことはアップルに限ったことではない。何がどの列なのかだれもがわからないまま並び、違っていると言われて並び直し、また元に戻され……というのは米国では日常茶飯事だ。

 同業の米国の記者たちも必死なようでいて、細かいところはおおざっぱだ。日本でこの規模のイベントでこんな運営をしたら罵声が飛び、担当者がつるし上げにでもあいそうだが、米国の記者はみなぶつぶつ文句を言いながらもおとなしく並び直す。多少順番が狂ったり、後ろから横入りされたりしても、まあいいや、という人が多い。「こんなことで目くじら立ててどうする」という余裕を感じなくもない。

 今回も並ぶ場所を何度も移動し、ようやく「ここらしい」という入り口で1時間半待ったが、いざ開場となったら、別の入り口が先に開き、最後の最後に再び別の入り口に向かって走るはめになった。