A2Z 山田詠美
October 25 [Thu], 2007, 23:34
| A2Z (講談社文庫) | |
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文芸編集者・夏美は、年下の郵便局員・成生(なるお)と恋に落ちた。同業者の夫・一浩は、恋人の存在を打ち明ける。恋と結婚、仕事への情熱。あるべき男女関係をぶち壊しているように思われるかもしれないが、今の私たちには、これが形――。AからZまでの26文字にこめられた、大人の恋のすべて。
たった二十六文字で、関係のすべてを描ける言語がある。それを思うと気が楽になる。人と関わりながら、時折、私は呆然とする。この瞬間,私が感じていること、私が置かれている空間、私を包むもの、それらを交錯させたたったひとつの点を何と呼ぶべきであるのか。(略)慌てて、私は、手遅れにならない内に相応しい言葉を捜し出そうとする。何のために?確認するために。確認して安心を得るために。私が、今、感じているこの思い。それは、たった二十六文字で表記出来る程度のものなのだと、ただ溜息をついてしまいたい。
山田詠美『A2Z』冒頭より思わず溜息をもらしてしまう、美しい言葉の組み合わせ。詠美さんの文章はいつも恍惚の溜息を誘う。
2000年にこの本が刊行されたとき、私は高校生で、待ちに待った詠美さんの新作長編を買い家に持ち帰ると、一晩中舐めるように読み貪ったものだ。この書き出しをたっぷり時間をかけて味わったことを今でも憶えている。
大人の恋愛小説と背表紙に打っているが、これはよくある大人の恋愛ものでは、ない。大人になりきれない、大人たちのための小説だ。
26文字の英単語がクロスワードのようにちりばめられている。それぞれいくつもの関係が交錯する。この作品では「恋って陳腐なんだ」と照れることを暴露している。普通、恋愛小説の登場人物達はお洒落で気障な台詞をなんの照れもなく言ってのけるものだ。しかしながら、『A2Z』の人物達は「おれ、すごく格好悪い」「主人公のつもりになっちゃうんだぜ。柄でもないのにさ。」と自覚的だ。決して深刻ぶったり大仰な台詞は吐かない。単純であって複雑でない、けれどやっぱり単純でもない人生を生きている。
文芸編集者の夏美は年下の郵便局員・成生と恋に落ちる。同業者の夫・一浩には若い恋人がいる。二つの男女関係の中で揺れ動く夏美。でも恋だけじゃない、デザートは別腹だというように、仕事への情熱も忘れない。
一見すると、不倫小説のようだが、不倫だなんて言われたくはない。そしてただの恋愛小説のように見せて、実は夫婦の物語なのだ。「夫婦もいいけど恋もいいよね、でもやっぱり夫婦」という小説。不倫小説の場合、大抵深刻な純愛ものか、肉体のつながりがメインの情欲ものになりがちだ。『A2Z』はそのどちらでもない世界を描いている。彼らは決して深刻ぶらないが、目の前にある関係に対して真剣だ。
夫婦小説という見方をすれば、連想して思い出すのが、河野多恵子の『秘事』。これもほんと、傑作。おすすめです。
ところでこの作品は出版界の世界を描いた業界小説としても楽しめる。刊行当時「こんな小説が読みたかった!」と多くの編集者の共感の声があったそうだ。さらにファンとしては嬉しいことに、『A2Z』には『ぼくは勉強ができない』の時田秀美の偉大な母、時田仁子さんが夏美の職場の先輩として登場する。思わずにやりとしてしまうこと請け合いだ。
恋には賞味期限がある。夏美と成生の関係もいつしか終わりを迎え、その時々の感情の化石をラベリングして来た単語も最後の文字となる。
最後の章の書き出しは、こう冒頭を受け、終止符へとつながっていく。
読み終わったあと、恋の死のやるせなさに、そしてそれを考える醍醐味に、やっぱり溜息をついてしまうのだった。
TB:とみきち読書日記さん
"やぎっちょ"のベストブックde幸せ読書!!さん
床花さん
文芸編集者の夏美は年下の郵便局員・成生と恋に落ちる。同業者の夫・一浩には若い恋人がいる。二つの男女関係の中で揺れ動く夏美。でも恋だけじゃない、デザートは別腹だというように、仕事への情熱も忘れない。
一見すると、不倫小説のようだが、不倫だなんて言われたくはない。そしてただの恋愛小説のように見せて、実は夫婦の物語なのだ。「夫婦もいいけど恋もいいよね、でもやっぱり夫婦」という小説。不倫小説の場合、大抵深刻な純愛ものか、肉体のつながりがメインの情欲ものになりがちだ。『A2Z』はそのどちらでもない世界を描いている。彼らは決して深刻ぶらないが、目の前にある関係に対して真剣だ。
夫婦小説という見方をすれば、連想して思い出すのが、河野多恵子の『秘事』。これもほんと、傑作。おすすめです。
ところでこの作品は出版界の世界を描いた業界小説としても楽しめる。刊行当時「こんな小説が読みたかった!」と多くの編集者の共感の声があったそうだ。さらにファンとしては嬉しいことに、『A2Z』には『ぼくは勉強ができない』の時田秀美の偉大な母、時田仁子さんが夏美の職場の先輩として登場する。思わずにやりとしてしまうこと請け合いだ。
恋には賞味期限がある。夏美と成生の関係もいつしか終わりを迎え、その時々の感情の化石をラベリングして来た単語も最後の文字となる。
最後の章の書き出しは、こう冒頭を受け、終止符へとつながっていく。
たった二十六文字で、関係のすべてを描ける言語のことを思い、気を楽にしたことがあった。けれど、今、そのことにあまり意味はないように感じる。
読み終わったあと、恋の死のやるせなさに、そしてそれを考える醍醐味に、やっぱり溜息をついてしまうのだった。
TB:とみきち読書日記さん
"やぎっちょ"のベストブックde幸せ読書!!さん
床花さん
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