保存容量UP!フォルダごと選択して簡単送信できる専用ツールも!宅ふぁいる便ビジネスプラス(有料版)
宅ふぁいる便 > 宅ふぁいる便エンタメ【トップ】 > 早川さや香のプロフェッショナルの唯言(ゆいごん)

〜濃く熱く、ひたむきに生きる仕事人に聞くライビング・メッセージ!〜
第10回 矢野博丈氏(株式会社大創産業 代表取締役)

よく死ぬこと=よく生きることだと言います。
各界の一流仕事人の人生観・死生観にせまる連続インタビュー第10回目は、
100円SHOP「ザ・ダイソー」を全国チェーン化し、デフレ時代の寵児といわれる、
(株)大創産業・矢野博丈社長の"唯言"をお届けします。

《唯言人》矢野博丈氏の半生

◇1943年、広島県出身。学生時代はボクシング、山岳部で活躍。中央大学卒業後、学生結婚した妻の家業を継ぐも、多額の負債を背負いきれず遁走。転職を繰り返す。
◇1972年、雑貨をトラックで移動販売する「矢野商店」を創業。やがて商品価格を100円に均一化し、1977年に「大創産業」に社名を変更。火事、詐欺など、幾多の危機をしのぎ、品揃えと高品質で顧客を増やす。
◇1980年、東京営業所を皮切りに、広島から全国へ拠点をひろげていく。
◇1987年、トラック移動販売から、初の常設店舗となる「100円SHOPダイソー」1号店、91年には初の直営店となる高松店をオープン。バブル崩壊後の90年代から、デフレ時代の波に乗って急速に売上げを伸ばす。
◇2000年、年間優秀企業家賞を受賞。
◇2009年現在、店舗数は国内外合わせ3000店舗、年商は3000億円を突破している。
【ダイソー公式サイト】⇒http://www.daiso-sangyo.co.jp/


◆転職8回、夜逃げ1回、火事1回、詐欺1回――「なんでわしばっかり苛めるんじゃ」。運命の神が嫌いだった。

 学生時代から、「何か大きな仕事をしたい」と望み、アルバイトに励みました。能もないのに自信家じゃったんです。卒業後に、女房の実家の魚問屋で、フグ・ハマチ養殖の仕事を継ぎましたが、数百万円の借金を抱え、トラックで東京に夜逃げしました。それから百科事典のセールス、ちり紙交換、ボウリング場の管理、道路標識の取付、日雇い労働など、職を転々としました。

 移動商売を始めたのは三十歳頃です。鍋や荒物などの雑貨をトラックに積んで、神社の境内や公民館、スーパーの脇などで、リンゴ箱に商品を並べて夫婦で売り歩きました。そのうち子どもが増えると値札を付ける暇もなくなって、100円均一にしたんです。その後もいろいろな災難がありました。仲間の同業者は、第二次オイルショックなどインフレが来るたび、こんな仕事は儲からんと辞めていきましたよ。わしだって何度も辞めようと思いました。でも他に能力がない、何をやっても成功せんのだから、これをやるしかなかったんです。家族がかわいそうだから、せめて年商1億は行きたいと思っとったけど、年商何十億も目標にしとったら、倉庫や車を揃えたり、人員をたくさん雇ったりで潰れとったでしょうね。自分が能力も運もないことに気がついたら、ありがたいもんです。

序文

写真上)倉庫 "商談室"を標榜しつつ、大量の雑貨が積み上げられた倉庫状態。“ダイソー”らしい光景
写真下)応接通路の一角にある、簡易応接ブース。どんな企業のトップも要人も、ここに通される。

「いらっしゃいませえーー!!」
 東広島市の工業地域。一歩、社屋の玄関に入ったとたん、何十人…百人以上か…社員の大合唱に迎えられ、わたし(ハヤカワ)は、腰が抜けそうになった。巨大倉庫を改造した社屋は、各セクションごとにブースで仕切られた吹き抜け状態で、「部屋」らしい部屋が殆どない。

 訪れる客は全社員から注視され、歓待の挨拶を浴びる、と噂には聞いていたが…。あわあわと、米つきバッタのように頭を下げながら社屋を進むと、シュレッダーばさみなどの文具、本格工具から、折り畳み傘、土鍋セット、洗剤類など生活雑貨、CD、ゲームソフト、乾電池セット、そして法事マニュアル、東京二十三区地図、和英辞典といった書籍まで――。

 公私ともに日頃お世話になっているような商品が、そこかしこにうず高く陳列されている。「こんなものまで100円ですか!?」という、十数年前の感激こそ薄れ、全生活の1〜2%以上は、確実に“ダイソー”製品の恩恵に浴している気がする。

 この「1%」という数字、実は、いま日本の総輸入貨物量における“ダイソー”のシェアにあたるという。つまり国内に運びこまれる、全ての貨物コンテナを100個とするなら、そのうち1個が“ダイソー”のものである。莫大な…。ここに至るまでの七転八倒の過去を、矢野社長は、近年は語りたがらなかった。会社が巨大になっていく過程で、倒産の恐怖にかられ、昔を述懐する心境ではなくなっていたという。

 それを再びお聞かせくださいとお願いするとーー。100円ネクタイ、100円サンダルでせかせかとやってきた社長は、奇妙な駄洒落と、否定の言葉を連発した。
(以下、敬称略)


唯言その一
◆わしは運も能力もないけぇ、災難に遭っても、この仕事をやめられんかった。...(次ページへ)


前のページへ 1 2 3 4 5
バックナンバー
バックナンバー
早川さや香

早川さや香

富山県出身。東京学芸大学教育学部卒、コラムニスト。
著書に『Another Hero(小学館)』『一人前の仕事術(インデックスコミュニケーションズ)』など。

趣味の縁結びでは、20組以上の成婚を達成。最近、依頼が増えつつある結婚式司会業に備え、すこしお酒を自粛しボイストレーニングに励む日々。

→ブログやってます!

お買い物
おすすめ情報