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慶応大学教授で歴史社会学者の小熊英二氏が監督した映画、『首相官邸の前で』の先行上映・トークイベントが、2015年9月2日、渋谷アップリンクにて行われた。トークイベントには、2015年6月より毎週国会前で抗議デモを行ってきた「SEALDs」のメンバー・奥田愛基さんと梅田美奈さんも登壇した。
2012年東京・首相官邸前。反原発をかかげた、20万人の人たちが集まり、当時の野田政権による原発政策を批判した。しかし、この運動の全貌は、報道されることも、世界に知られることもなかった。
「歴史家として、社会学者として、この運動を記録し後世に伝えたい」――
運動の存在自体がなかったことにされそうな事態に危機感を覚えた小熊氏は、みずからこの映画の企画・製作・監督を行うべく立ち上がった。そこに、撮影・編集を担ったフリーランス・石崎俊一氏を加え、たった2名で映画は作られた。
デモの映像は、ネット上に散らばった、デモ参加者の自主撮影映像をかき集め、撮影者の賛同と協力を得た上で構成された。また、反原発連合の関係者数名の個別インタビューも繋ぎ合わされ、3.11以降の市民運動の変化が克明に描き出されている。映画を観た参加者からは、「日本人の変化に希望を見出した」との声も聞かれた。
小熊監督は、「この映画を観た海外の人からも、『これを観て日本のこと好きになった』と言ってもらえた」と手応えを感じ、「日本の中でも、外でも、ぜひ観てもらいたい」と意気込んだ。『首相官邸の前で』は、2015年9月19日より、渋谷アップリンクなど全国で公開される。
今回のトークイベントの中で、小熊監督は、製作にかけた思いを語った。また、安保法案反対デモの全国的な広がりが注目される中で、ひときわ取り沙汰されることの多い「SEALDs」のメンバー・奥田愛基さんと梅田美奈さんに対して、監督みずからインタビューを行った。
- 記事目次
- SEALDsの登場前にも、デモはあったし、政治に興味を持った若者も存在していた
- 固定したフレームでしか報道できない既存メディア
- 機動隊と衝突した60年安保と、非暴力徹底の「SEALDs」―背景には社会の変化
- 「これで終わり、じゃない」―勝ち負けと論ずる前に、デモをする意味を考える
- 出演 小熊英二氏(本作監督)、SEALDs(奥田愛基氏、梅田美奈氏)
- 日時 2015年9月2日(水) 21:55~
- 場所 渋谷アップリンク(東京都渋谷区)
- 詳細 『首相官邸の前で』|アップリンク
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SEALDsの登場前にも、デモはあったし、政治に興味を持った若者も存在していた
2011年3月11日の東日本大震災時、奥田さんは卒業式を目前に控えた高校3年生、梅田さんは大学2年生であった。当時のことを振り返り、奥田さんは、「原発のことも、放射能のこともよく分からなかった」と言いながらも、友達に誘われるままに反原発デモへ参加した。梅田さんは、震災で動揺して大変な思いをしている家族から、「デモに行くな」と言われながらも、こっそりと官邸前や新宿のデモに通い続けた。
しかし結局、2012年12月26日に政権交代が起こり、第二次安倍内閣が成立すると、一気に再稼働の流れとなった。反原発を訴え続けてきた人たちの訴えは、何もなかったかのような政府の振る舞いに、奥田さんは「唖然とした」と言う。脱力した奥田さんは、デモからしばらく離れていた。
そして、その後も安倍政権の暴走は止まらず、ついに2013年、特定秘密保護法が強行採決されると、奥田さんは生まれて初めて、自分の口から「デモやらない?」と友人に声をかけた。そして2014年、「SEALDs」の前身である「SASPL / 特定秘密保護法に反対する学生有志の会」が結成された。
固定したフレームでしか報道できない既存メディア
メディアでは若者と言えば「政治的無関心」の代名詞であった。そこへ「SASPL」が登場すると、メディアは「ついに若者も立ち上がった!」と騒ぎ出した。若者がそのように報じられるようになったことに関して、奥田さんは「若者が変わったんじゃなくて、社会が変わった。政治に参加する若者は、前からずっといたんだから」と、冷めた様子で語った。
メディアが反原発のデモや若者の政治参加を報じなかった理由を、小熊監督は、「マスメディアは固定したフレームでものを見るから、フレームに当てはまらないものはほとんど扱わない」と分析する。
例えば、反原発デモに際しては、「放射能」と言えば「お母さん」ばかりが注目され、「デモ」と言えば60年安保のときの「機動隊との衝突」のような「サ・デモの絵」が欲しがられた。若者の「非暴力デモ」は、「報じる価値がない」、あるいは、「一時的なもの」として顧みられなかった。
「SEALDs」の登場以降、「安保反対デモ=学生」というイメージが定着していることにも、奥田さんたちは違和感を覚える。実際デモに参加してみれば分かる通り、各地で行われているデモには、10代の若者から80代の年配の方まで、実に様々な世代が集まっている。
若者ばかりに焦点を当て報じる今のマスメディアの報じ方に関して、小熊監督は、「日本社会の高齢化が進むように、新聞の読者層も高齢化している」と言い、「新聞社は、『安保反対を学生が立ち上げる』というわかりやすい報じ方をしないと、高齢の読者が理解できないと考えている」と、論を展開した。奥田さんは、「映画でこうやって、長く観てみると、デモの実態がよく分かる」と、『首相官邸の前で』を観る意義について語った。
機動隊と衝突した60年安保と、非暴力徹底の「SEALDs」―背景には社会の変化
小熊監督と「SEALDs」の二人のトークは、「2015年安保抗議行動」と、「60年安保闘争」の違いについても及んだ。
「SEALDs」も主催者の一部として行われた、2015年8月30日の国会前大規模抗議行動では、延べ12万人もの人が集まり、歴史的瞬間になったとも言われるが、その中でも特筆すべきは、集まった人たちが一切暴徒化しなかったことだ。これは、機動隊との衝突の中で東京大学学生・樺美智子さんが死亡した1960年の安保闘争とは好対照をなす。
このような変化について、小熊監督は、「一つには、自治体や大学を基盤に展開された60年安保のときのように、血気盛んな男子学生ばかりが集まっているのではなく、色んな世代の人たちが集まっているから」と分析した。
しかし、抗議行動が暴徒化しない、より大きな要因として小熊監督が指摘するのは、「高度成長期に向かいつつあった60年代と、『失われた20年』の延長で貧しさから抜け出せない現代」という社会的な文脈の違いだ。
小熊監督によれば、「どんどん豊かになっていく社会にあって、60年代の学生たちは、『就職したら一生会社勤めになるのだから、今暴れとこう』と考えていた」。それに対して今の学生たちは、「奨学金の借金を背負う人がいたり、10年前と比べても学生がどんどん貧しくなったりしている。そんな中で、『この安定した社会を壊すために非日常的な革命をやってしまえ!』というようなメンタリティにはならない」のだという。
小熊監督の分析を受けて、奥田さんは、「『非日常的な革命を!』というようなメンタリティには、到底なれない」と答えた。90年代前半に生まれた奥田さんは、「生まれた瞬間からバブル崩壊の世の中に生きてきて、逆に絶望しきっていた」と言う。そして、「絶望しきったからこそ『希望』がほしい。だから、できることやろうか、という気持ちでデモをやる」と語った。梅田さんも、「どうせ変わらないっしょ、ではなくて、どうせ変わらないなら、どうせならやろうよ、と思って立ち上がった」と、淡々と述べた。
60年代のときとは違い、『革命』を叫ばない奥田さんたちは、『非暴力』で抗議行動を行うことを非常に大切にしている。奥田さんは、「一回の抗議行動で、世界が『バン!』と変わるとか、そんなことはあり得なくて、今日来たら来週もまた来る、ってことを続けなければならない」とし、「デモ参加者もそれを分かっているから、暴徒化しない。今日逮捕されてしまったら、来週来られなくなるじゃないですか」と、参加者の民度の高さを喜んだ。
「これで終わり、じゃない」―勝ち負けと論ずる前に、デモをする意味を考える
トークショーが質疑応答へ移ると、参加者から「今回の安保法案が可決されてしまえば、デモをしてきた人たちは『負け組』になると思うが、そうしたらその後どう頑張り続けるのですか」と質問が出た。
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これを受けた奥田さんは、「勝ち負けは確かに大事だが、『何に』勝って、『何に』負けたのか、それを見極める必要がある」と切り出した。奥田さんは、「例えば、安倍政権が原発を再稼働したことで、反原発デモをしていた人たちは、『負けた』のかもしれない」とした上で、「けれど、それまでデモなんてあり得なかった鹿児島で、何千人って人が集まったのだから、そういう意味では社会を変えた。逆に、社会を変えられなかった保守系の人たちや、電力会社の人たちが『負けた』のかもしれない」と、デモが政治に与える影響の大きさについて語った。
今回の安保法案反対デモに対して、「60年安保のときも、『戦争に巻き込まれる』とか、言われていたようなことは結局なかったじゃないか」と論じる声があるが、小熊監督は、「60年安保闘争がなければ、間違いなくベトナムに派兵していただろう」と見る。
政治家の考えを変えることだけが運動の成果ではない。首相は決して、「抗議行動が大きいので政策を変えました」などと言わないが、社会は確実に変わってきているし、それこそがデモの『成果』と言えるのだ。
梅田さんは、「廃案にならなかった、とか嘆いたり、8月30日のことをいつまでも『いい思い出だったね』と言っている暇はない」と言い、「大事なのは、全てがひっくり返らないと何もなかったことになる、とは思わないこと」と、これからもずっと、戦い続けていく姿勢を見せた。
自分を取り巻く社会の変化を捉え直す手段として、また、盛り上がりを見せてきた抗議運動の影響力の意味を考えなおすきっかけとして、この映画は歴史に残る一本になるかもしれない。この秋、注目すべき作品だ。
(城石裕幸・城石愛麻)
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