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 「本土では、沖縄の米軍基地は普天間だけ、と誤解している人たちが大勢いるというが、沖縄でも基地問題を正しく理解している人は多くない」──。

 SEALDs RYUKYUのメンバー、名桜大学3年の玉城愛さんは、このように問題提起した。

 2015年8月15日に船出した学生団体「SEALDs RYUKYU(シールズ琉球)」の1回目のサロン(勉強会)が、1週間後の8月22日、宜野湾市内で行われた。今や、安保法案反対運動の大きな牽引力となった、関東の学生を中心にしたSEALDs。その沖縄バージョンという位置づけのSEALDs RYUKYUでは、安保法案に反対していくとともに、沖縄の米軍基地問題にも取り組んでいる。

 ゲスト講師の沖縄国際大学教授、佐藤学氏は、自民党が2012年と2014年の総選挙で、今の憲法の3大原則を実質的にやめる「改憲草案」を掲げて大勝している点を重視。両選挙で自民党に票を投じた有権者は、「現行憲法の尊重より、株価の吊り上げを選んだ」と指摘した。

 この日は、東証の平均株価が終値で600円近く下がり、「中国バブル」の崩壊論が一気に台頭した8月21日の翌日。安倍政権の支持率と株価には連動してきた面がある以上、このまま株価が下がり続ければ、安倍政権が退陣に追い込まれる公算は大きい──。が、近いうちに安倍晋三首相が、アベノミクスへの具体的なテコ入れを行い、そこに中国景気の底割れ回避などの追い風が吹けば、株価がもう一度、上昇基調に乗る可能性も出てくる。そうなれば、リベラル勢力が「安保法制=違憲」の訴えだけで安倍政権を倒すことはかなり難しくなる、との見方もある。

 佐藤氏は、安倍政権(=アベノミクス)の支持層を、「経済が良くならなくても(=国民全体の暮らしは良くならなくても)『株価』さえ上がれば、それでOKとする人たち」と評し、こうした拝金主義の広がりが、今の日本が抱える大きな問題のひとつだと訴えた。

 米軍基地の問題については、「県外の大学生たちは、沖縄が抱える米軍基地がらみの問題の理解が、至って表層的だ」と語り、沖縄の基地問題が、日本全体の問題として受け止められる時代は、そう簡単には到来しないとした。その上で、学生たちに対し、「社会問題に取り組む若者を増やすには、取り組んでいる姿勢を魅力的に見せるのがポイント」との助言を送った。

  • 趣旨・SEALDs RYUKYU説明/安保法制についてのステートメント説明
  • レクチャー 佐藤学氏(沖縄国際大学教授、政治学)
  • トークセッション
  • 日時 2015年8月22日(土)19:00〜
  • 場所 CAFE UNIZON(沖縄県宜野湾市)
  • 主催 SEALDs RYUKYU(自由と民主主義のための学生緊急行動 琉球・沖縄)(詳細、Facebook)
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「災害復旧に汗する自衛隊員」のイメージが変わる

 序盤では、SEALDs RYUKYUの中心メンバーで、国際基督教大学4年の元山仁士郎さんがマイクを握り、これまでの学習で得てきた知識を基にしながら、「安全保障関連法案」をめぐる問題の基本的な部分をさらった。

 「戦後憲法の下では、これまで、集団的自衛権の行使は認められてこなかったが、安倍政権は、昨年(2014年)の7月1日に、閣議決定で集団的自衛権の行使容認をするための、憲法解釈の変更を決定してしまった」

 集団的自衛権の行使容認は、順当な手続きを踏んだ国民投票で、多数の賛同を得た上で行うのが筋、と元山さん。「(安倍政権は)憲法を、およそ守っていない。立憲主義に背いている」と批判し、圧倒的多数の憲法学者が、集団的自衛権の行使を可能にする安保法案を違憲視していることを強調した。

 「安倍政権を選挙で選んだのは、国民ではないか」との、巷間聞かれる安保法案賛成派からの声には、昨年末の衆院選では、自民党がアベノミクスという争点の陰に安保法制を隠したことが響いた、と反論した。

 「安保法制を新しくすることに関する記述は、自民党の公約パンフレットの終わりの方に、ほんの少しあっただけ。あの選挙で、自民党に投票した人の多くは、安保法案を通してほしいから1票を投じたわけではないと思う」

 そして元山さんは、自身と同世代の日本人に「自衛隊」という就職先があることにも言及。奨学金の返済に困る若者らを対象にした「経済的徴兵制」が始まることを危惧し、「東日本大震災後の被災地で、復旧活動に汗を流す自衛隊員の姿をテレビで見てカッコいいと思った。でも、このまま安保法案が通ったら、自衛隊員のイメージは、あの時のものとは乖離していくと思う」と話した。

「新安保法制」で米国が日本に求める、米兵戦死者の替わり

 続いてマイクを握った佐藤氏は、今回の安保闘争では、これまで日本人が憲法を、そして憲法や立憲主義を、意識的に見てこなかった実態が浮き彫りになったと強調した。

 「中谷元防衛相が、『憲法を法律(安保法案)に合わせる』といった発言をして、あとで撤回しているが、国民の多くも中谷氏と同じだったのではないか」

 米国では、憲法が非常に尊重されると言い継いだ佐藤氏は、「米国で、違憲の法律が存在し続けることはあり得ない。たとえ、大統領の決定でも、裁判所が違憲判決を下せば、取り消さざるを得ない」と力説。そういう憲法観を持つ米国が、日本に押しつけたのが日本国憲法である、との立場に立てば、「憲法9条があるから、集団的自衛権の行使は認められないという事実は、非常に重い」と強調し、安倍政権が行った憲法解釈の変更を「押しつけ解釈改憲だ」と皮肉ってみせた。

 そして佐藤氏は、米軍の軍事力の弱体化を根拠にした、自衛隊による支援必要論を、「今後も、米国の軍事力は世界最強」との見方で退けると、米国の本心を次のように語った。

 「米国は、他国のための戦争とも言える中東などでの戦闘で、自国の若い兵士らの命が奪われることが嫌なのだ。その部分を『日本に担ってほしい』というのが、(米国の側から見た)新安保法制(=日米同盟の強化)の内実である」

米軍にとって日本は「カネづる」

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 佐藤氏は、米国は、海兵隊の存在意義に、前々から疑問符を付けてきたと指摘する。これは、海兵隊は米軍にとってコストの押し上げ要因でしかないとの趣旨であり、「その海兵隊の基地を、日本が『日本国内に、日本のお金でつくってあげる』と言ったら、米国が拒むはずがない」と強調した。

 日本政府が、計17機を総額3600億円程度で購入するオスプレイ(新型輸送機)についても、「あれは、実用性の低さから、米陸軍が買わなかったもの」とし、世界の軍隊でオスプレイを買った事例はまだない、と強く訴えた。

 「日本は、米海兵隊による操縦法のレクチャー付きでオスプレイを買うのだ。それは米軍にとって、日本での新規ビジネスの誕生を意味する。米国は日本を『いいカネづる』と見ている」

 佐藤氏は、6月25日付の朝日新聞に、元駐日大使のマイケル・アマコスト氏が、「普天間という二流の米軍基地の問題が、この20年間、日米の大きな懸案事項になってきたことに驚いている」「自分は、海兵隊を沖縄に駐留させる必要性の、合理的な説明を(米政府から)聞いたことがない」と発言しているインタビュー記事が載ったことに触れ、「米国にしてみれば、日本政府が金を出してくれるから、沖縄に海兵隊を駐留させているだけの話なのだ」と語った。

若者の目を社会問題に向けるには──「圧倒的にカッコよくやる」

 佐藤氏は、安倍政権誕生への民意の反映では、選挙の争点にアベノミクスを打ち出して安保法制は隠されていた、とした元山さんとは別の認識を、このように語った。

 「自民党が、2012年と2014年の総選挙で、今の憲法の3大原則を実質的にやめる改憲草案を掲げて大勝している点は見落とせない。要するに、『自民党に票を投じた有権者は、現行憲法の尊重より、(アベノミクスが狙った)株価の吊り上げを選んだ』と総括されるべきではないか」

 佐藤氏は、安倍政権の誕生には、憲法よりも株価が大事との「民意」が反映されている、と言い切る。今回の安保法制での論争が沸き上がるまで、国民の大多数が立憲主義を知ろうともしなかった背景には、そういった事情が働いていると指摘し、安倍政権(=アベノミクス)の支持層を、「経済が良くならなくても『株価』さえ上がれば、それでOKとする人たちだ」と評した。

 佐藤氏と元山さん、そして名桜大学3年の玉城愛さんの3人による討議では、玉城さんが、「本土では、沖縄の米軍基地は普天間だけ、と誤解している人たちが大勢いるという話だが、沖縄の市民らの中でも、沖縄が抱える基地問題を正しく理解している人は多くないと思う」と問題提起した。

 佐藤氏は、県外に住む日本人が抱く沖縄の基地問題の見方について、「県外からの大学生たちと、私の大学の学生たちが交流する機会がよくあるが、先般、『沖縄から米軍基地をなくすべきか否か』で討論会を開いたところ、『沖縄は首都(東京)から遠くて、潮風も強いから、経済発展は無理。だから、沖縄に米軍基地は必要』という意見が飛び出した。これにはさすがに、うちの学生らが怒ったのだが、そういう意見を口にする県外の学生たちは、沖縄が抱える米軍基地がらみの問題を、表層的にしか理解していない」と述べた。

 その上で佐藤氏は、「では、立場を変えて、沖縄の市民らが、あの過酷な原発事故があった福島の現状を詳しく知っているかといえば、答はノーなのだ」とも。県外の日本人にとって、沖縄の基地問題は、少なくとも今のところは、「遠い沖縄という島に、米軍基地がある」で思考を止めてしまうテーマでしかないのが現実、と強調した。

 自身の大学時代を振り返り、昔も今も、社会問題を積極的に議論する若者の数は決して多くないとした佐藤氏は、社会問題を議論する姿が傍目には魅力的に映ることが、仲間を増やすのに有効だとSEALDsに助言した。

 その言葉には、元山さんはこう反応した。

 「デモを行うにしても、圧倒的にカッコよくやろうという価値観を、SEALDsのメンバーらは共有している。だから僕も、『自分でカッコいいと思える市民活動を展開していこう』と思っている。むろん、中身が伴わないカッコよさは論外だが、外見的にも『(SEALDsって)いいな!』と思わせることを意識していきたい」
(IWJテキストスタッフ・富田)

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