26 クイズと洋楽小論
「クイズに洋楽は出ない」と一口に言うが、まずそこを疑ってみよう。現在手元にある「全国高等学校クイズ選手権@〜O」で、各回の決勝戦で洋楽の問題が何問出題されているかを数える。
第1回→26問中1問
l
フリオ・イグレシアスのつくった曲で、フリオ自身のプロデュースによるLPを出す日本の歌手とは誰?(郷ひろみ)
第2回→41問中0問
第3回→44問中1問
l
オーストラリア出身の歌手で、映画「ハード・ツー・ホールド」で主役を演じたのは?(リック・スプリングフィールド)
第4回→48問中0問
l
ただし「『ライク・ア・バージン』を唄ったのはマドンナ。では『堕ちないでマドンナ』を唄ったのは誰?(田原俊彦)」という問題がある。
第5回→64問中2問
l
昭和59年「ヘブン」で全米を制覇し、昭和60年10月に来日したカナダ生まれのロックンローラーといえば誰?(ブライアン・アダムス)←放送では「昭和59年」を「昨年」、「昭和60年」を「今年」と読んでいたが、本にならった。
l
「ハート・ブレイク・ホテル」「監獄ロック」など、数々の大ヒット曲を歌った、今は亡きアメリカの偉大なロック歌手は誰?(エルビス・プレスリー)
ともに東筑高校がかなり早いポイントで押して正解している。
第6回→44問中0問
l
ただし「デバージの元リード・ボーカル、エル・デバージがテーマを歌うこの夏話題のアメリカ映画は何?(ショート・サーキット)」という問題がある(放送ではカット)。
第7回→36問中1問
l
久しぶりの新曲「キャント・ストップ・ラヴィング・ユー」をシーダ・ギャレットと歌う、アメリカのスーパースターは誰?(マイケル・ジャクソン)→東大寺学園が正解している。
第8回→79問中0問
第9回→33問中0問
第10回→56問中0問
第11回→38問中0問
第12回→75問中1問
l
ブラックミュージックのスター、ボビー・ブラウンと結婚した、アメリカの歌手は誰?(ホイットニー・ヒューストン)
第13回→44問中0問
第14回→55問中1問?
l
ロックバンド「ニルヴァーナ」のカート・コバーンによって広められた、汚い、ヨレヨレの服装のことを何という?(グランジ)
第15回→50問中2問
l
最新ヒット曲は『This ain’t a love song』。アメリカを代表するハードロックバンドといえば?(ボン・ジョヴィ)
l
プレスリーのヒット曲『愛さずにいられない』をカバーしたアリキャンベルをボーカルをするレゲエ・バンドは?(UB40)
第16回→97問中0問
確かに数が少ない。この理由ははっきりしている。決勝戦には参加チームに共通する苦手ジャンルは出題されにくいからである。逆に言うと、洋楽が出題された回は、洋楽を得意としたチームがいたはずである。確かに第5回の東筑高校は洋楽に詳しい。また、第7回では東大寺が芸能に詳しい。
そもそも、高校生クイズにしてもウルトラクイズにしても、解答者の得意・不得意ジャンルを意識して問題順やジャンルを構成している。そうしないとなかなか正解が出ないからである。そうでなくても高校生クイズやウルトラクイズの問題は、はっきりいって難しい。この辺の所は、たとえば第10回ウルトラでは日本史に詳しい山下哲也氏向けの日本史問題が多かったり、女性がいるうちは料理問題がよく出たりすることからも、容易に理解できよう。
で、世間で洋楽に詳しい人はあまり多くはない。邦楽と同じくらい広げられるジャンルであるにも関わらず、テレビ番組で出題されることが少ないのも、その辺に理由がある、と考えられる。
問題はここからである。かつてのクイズ番組向け勉強ブームのころ、テレビ番組で出題されにくいジャンルは、クイズの勉強から外されてしまう状況が生まれた。で、その状況が今もクイズ(オープンなど)に影響している。現に「クイズに洋楽は出ないから、勉強もしない」という某クイズプレーヤーの明言を聞いたこともある。そのくせ犯罪や映画がよく出るようになったのは解せないのだが、それはちょっと置いておく。洋楽でも自殺した人とか事件を起こした人はよく出るのだが、それらはもはやベタジャンルとなっている「事件」「自殺者」のカテゴリーとして分類されうる。
そもそも「テレビ番組で出題される」という限定を外したところでオープン大会やクイズ研究会は成立している。逆に言えば、テレビではとても問えない難しい内容や危ない内容、地域ネタやマニアックなネタなども、出題できるのがオープン大会やクイズ研究会である。それなのに、こと洋楽に関してはその広がりの可能性を、出題者自ら否定してしまっている感じがする。
出題者が出題しないから、解答者も洋楽は出題されないとして無視していく。そこに広がりは全く存在しない。クイズ研究会が、テレビ番組という出題に関する制約を失って以降、かえって「出題されるジャンルはどんどん深く掘り下げて出題され続ける」「出題されにくいジャンルは、どんどん出題されなくなる」という悪循環に陥ってしまっているのではないか。
クイズに出にくいとされているジャンルからも貪欲に問題を作っていく努力を、各々のクイズプレーヤーがしていくとすれば、今とは比べものにならぬほどクイズの世界は広がるはずだ。「出そうな問題」を作っていく努力は否定しない。しかし、「こんな問題も作れるんだ」という新しい提案もされなければ、クイズというものが全く以て貧弱なまま凋んでいくような気がしてならない。
とはいえ、別にジャンルが広がらなくてもいーじゃん、という人もそれはそれで結構多いと思う。しかし、わたしは「クイズにはあらゆることが出題される」という前提を大切にしたい。と同時に、それぞれの解答者がそれぞれ得意なジャンルを生かしてクイズを楽しめるような状況を、もっと目指しても良いのではないか、と思っている。
なお、私自身は洋楽に全く疎いということ付け加えておく。