沖縄県の翁長雄志知事はきのう、仲井真弘多(ひろかず)・前知事による名護市辺野古の埋め立て承認を取り消す手続きを始めた。

 米軍普天間飛行場の移設計画をめぐって、この1カ月、政府と沖縄県の集中協議が続いたものの、物別れに終わった。

 政府は間髪を入れず、中断していた移設作業を再開。県の埋め立て承認取り消しは、これに対抗してのことだ。

 政府と県がこれほど泥沼の対立に踏み込むのは異常事態である。承認が取り消されれば、さらに法廷闘争に発展する可能性が高い。

 政府は埋め立てを既成事実化しようとする動きを直ちにやめ、改めて県と話し合いのテーブルにつくべきだ。

 作業を続ければ、県民の反発は増幅する。辺野古の米軍キャンプ・シュワブゲート前では連日座り込みが続き、大浦湾ではカヌー隊や抗議船の海上抗議行動が続く。不測の事態を招くことは避けなければならない。

 国会前では先週末、主催者発表で2万2千人が「辺野古の新基地反対」を訴えるなど、沖縄への共感は広がっている。

 対立が激しければ、それだけ強いしこりが残る。在沖米軍幹部はしばしば「良き隣人として」と発言するが、県民の理解がなければ日米同盟の基盤は危うくなる。

 翁長氏は21日、ジュネーブの国連人権理事会で演説する。戦後、日米両政府によって沖縄が過重な基地負担を背負わされた経緯を国際社会に訴える。安全保障の問題とは別に、人権や自己決定権の視点を強調する。

 米議会には数年前まで、辺野古移設の実現を疑問視する声があった。だが、前知事の埋め立て承認もあって移設支持が強まった経緯がある。

 普天間返還の答えを探るためには、米国を議論に巻き込み、ハワイやグアム、豪州なども含め、海兵隊全体の巡回配置の中で在沖海兵隊のあり方を再検討する必要がある。

 政府と県は、基地負担軽減や振興策を話し合う場を設けることでは合意した。翁長知事の当選後しばらくのように、政府が協議を拒否する状態よりはましだが、この対立の中で、うまく機能するとは思えない。

 やはり政府が埋め立てを中止し、率直に県と話し合える場をつくるべきだ。その中で、米国や東アジアの国々との関係まで視野を広げ、過去の歴史から将来の関係までを見据えた安全保障思想を生み出せないか。

 そのための新たな議論のテーブルづくりこそ求められる。