米国独立宣言の草稿を記した紙は、大麻でできていた。自動車メーカー、フォードの創業者ヘンリー・フォードは、大麻を使ったプラスチックで車体を造った。米国初代大統領ジョージ・ワシントンは、大麻を栽培していた。
大麻は実にさまざまな目的で使われてきた。栽培を認可される農家が増えている今、次なるブームは、住宅用の建材としての利用かもしれない。
米国では大麻を、植民地時代から第二次世界大戦期まで広く利用してきたが、その後は禁止薬物として取り締まってきた。ところが今、大麻を使った産業に再び参入しようとしている。2014年の米国農業法では、大麻のうち、精神活性成分を含まない品種(一般に「ヘンプ」と呼ばれる)の栽培を限定的に認めたのだ。(参考記事:2015年6月号『マリファナの科学』)
ヘンプ支持者は、ヘンプブーム到来の可能性を感じている。ケンタッキー州選出の連邦上院議員で、上院少数党院内総務を務める共和党のミッチ・マコーネルをはじめとした、共和党・民主党双方の大物議員たちの後押しを受け、大麻農家は生産の拡大を目指している。一方、建設業者は、大麻の生産が増えることで、人体に無害で省エネ効果の高い断熱材に使う麻繊維の価格が下がるのを期待している。
「われわれは転機を迎えています」と言うのは、ヘンプ入りの壁材を販売するヘンプ・テクノロジーズ・コレクティブ社の建築技術顧問、グレッグ・フラボール氏だ。問い合わせが急増中で、現在、米国内に十数戸あるヘンプ建材を使った住宅を、来年は4倍に増やしたいという。
「最終的には受け入れられますよ」とフラボール氏。米国のベビーブーム世代(1946~1959年生まれ)の多くは、これまでヘンプを禁止薬物だとタブー視し、マリファナ(乾燥大麻)との違いを知らなかったと指摘する。ヘンプ建材を使った住宅が火事になったら、近隣住民がハイになってパーティーを始めるとでも思っていただろう、と言うのだ。
しかし、ご心配なく。ヘンプには、大麻の有効成分THC(テトラヒドロカンナビノール)はごく微量しか含まれていないので、高揚感などの精神作用を人間に及ぼすことはない。また、産業用のヘンプは、マリファナの原料になる大麻とは、見た目も異なる。ヘンプは枝葉が密集して茂り、高さ約3~4.5メートルになる。ヘンプから取れるオイルや繊維は、繊維製品や健康食品から、メルセデス・ベンツのドアパネルなど、さまざまな製品に使われる。(参考記事:米国、大麻で盛り上がる観光産業)
もっとも、米国ではまだ普及を阻む障害もある。建築審査をする側に、判断基準がないのだ。ヘンプ生産農家のなかには、種子の輸入に苦労している人もいる。医療用大麻の生産農家に疎まれることもある。ヘンプの花粉と受粉してしまうと、医療用大麻の有効成分THCの含有量が減る恐れがあるためだ。
「次に起こるのは、ヘンプ戦争です。われわれは今、一触即発の状態です」。オレゴン州に拠点を置くヘンプ生産会社、オルヘンプコ社会長のクリフ・トマソン氏はそう語る。トマソン氏は5年以内にオレゴン州内で、産業用ヘンプの作付面積を約40平方キロ(東京都江東区の面積とほぼ同じ)に増やそうと計画しているが、大麻生産者との対立を避けるために、花粉をもつヘンプの雄株を温室内で育てている。
理想的な建材「ヘンプクリート」
大麻は何世紀にもわたって使われていて、その有用性は取り立てて言うまでもなかった。新世界を「発見」したコロンブスの船の帆に織り込まれ、18世紀に初めて星条旗を作ったとされるベッツィー・ロスが、旗の生地に使ったという。第二次世界大戦では、海軍のロープやパラシュートのテープにも使われた。
ヘンプ製品の生産および輸出の世界第1位は中国で、主な輸出先は米国だ。ヨーロッパ連合(EU)のヘンプ市場も活発で、米国議会調査部(CRS)の2015年の報告書によると、フランスを筆頭に、英国やルーマニア、ハンガリーが続く。