雑記
このページではゲーム・商品などのレビューやニュースの感想をご紹介!
2015年08月28日

やはり佐野研二郎は凄かった!五輪ロゴが盗用ではない明確な理由を簡潔に解説

 

未だに噂が止むことは無い五輪エンブレムの盗用疑惑ですが、以前書いた記事でパクりではない根拠を示しました。しかし、だいぶ長い記事になってしまったので「結局よく分からない」という方も多いかと思います。

なので、今回は佐野研二郎氏が五輪エンブレムに関して盗用の事実は無いことを簡潔に分かりやすくまとめてみました。

五輪エンブレムが盗用でない根拠はいくつかありますが、最も分かりやすいのがパラリンピックのエンブレムに着目する方法です。これを知るだけで盗用でない事はハッキリと分かるはずです。

その前に五輪エンブレムがどういうコンセプトで作られたか簡単に解説します。

東京五輪2020エンブレムのコンセプト

東京五輪2020のエンブレムは

  • 『TOKYO』、『TEAM』、『TOMORROW』という3つの『T』
  • 東京五輪1964エンブレムのリスペクト
  • パラリンピックロゴとの共通理念

と大きく分けて3つのコンセプトで構成されています。
この他にも様々な意味が込められています。

  • 日本の伝統色である金、銀、赤を使用
  • 赤い丸は一人ひとりのハートの鼓動を表す(だから心臓と同じ位置(左側)に配置)
  • 黒は全ての色を混ぜることで生まれる色。転じてあらゆる人種が参加する五輪の多様性を表す
  • 9分割することで様々な文字を生み出す事が可能(後述します)

というようにシンプルなロゴの中にこれだけ意味が込められているんです。

なお、「Tの右下のヤツは何?」という意見も有りますが、これがあるから東京五輪1964エンブレムが浮かび上がるわけです。

これだけの説明だと「後付でしょ? 何とでも言い訳できる!」と盗用疑惑は晴れません。そこで登場するのがパラリンピックのエンブレムです。

パラリンピックエンブレムの2つの『平等』に着目すれば盗用してないことが明確になる

tokyo2020emblem

ご覧の通り、パラリンピックエンブレムは五輪エンブレムの配色を変えただけなんですよね。レイアウトは全く同じなんです。もちろん、ただ色を変えただけではありません。これには画期的な2つのアイデアが込められているんです。

パラリンピックのコンセプトは『平等』です。

黒と白を入れ替えただけで『T』が平等を表す『=』に姿を変える、つまり、記号で平等を表すのが1つ目のアイデアです。

そしてもう一つが、配色だけ変えて『形状は一切変えない』、つまり、五輪エンブレムとパラリンピックエンブレムは形状的には全く一緒であるという意味での平等です。

「健常者も障害者も違いは無い」という五輪に相応しいメッセージが、最も好ましいであろう形で込められているのが凄いですよね。色だけ変えて『T』と『=』の2つのコンセプトを切り替え、2つの意味での『平等』を持ち合わせるのは一般的なデザイナーでは思いつかないと思います。佐野氏が「集大成」と言ってた意味がよく分かります。

そして、似てると言われているベルギーのリエージュ劇場のロゴですが、パラリンピックエンブレムとの兼ね合いを考えれば盗用することは不可能なんですよね。

五輪エンブレムだけ考えれば良いのであれば盗用した可能性は否定できませんが、五輪エンブレムはパラリッピックエンブレムと表裏一体なんですよね。安易に見た目を真似てしまえば『2つの意味の平等』という画期的なアイデアは生まれません(やってみると分かりますが、リエージュ劇場ロゴで『=』を作ろうと思っても上手くいきません)。

五輪エンブレムを分解して作ったフォントが会見での言い訳の為に作られた物では無いという根拠を示します

佐野氏は盗用疑惑後に開いた会見で順次公開していく予定だったフォントを公開し潔白を訴えました。しかし、ネットでは冷ややかな声も多く「会見での言い訳の為に作ったんだろ!」という声が非常に多かったんですよね。

しかし、フォントは初期段階から作られていた(もしくはその構想はあった)ことは、論理的に根拠を示すことが出来ます。

まず、これらのフォントの成り立ちを説明します。

これらのフォントは以下のように五輪エンブレムを9分割し、その断片を再配置することで作られています。文字として認識しにくい物もありますが「文章を読ませるためのフォントではない」ので問題はありません。

この9分割の概念自体が会見の為の後付されたものだと思っている人が結構いるようですが、実は会見の前からその片鱗を見ることが出来るんです。次の動画を見てください。エンブレム取り下げに際し動画も削除されましたね。以下にスクリーンショットを掲載したのでそれで脳内補完してください。

これは東京五輪2020エンブレムの紹介ムービーですが、当然会見より前に公開された物であり、動画の製作期間を考えれば五輪エンブレムが公開される結構前から作り始めている事が分かります。

動画を見ると五輪エンブレムを9分割した断片がアニメーションして画面を賑わせていることが分かりますよね。

ついでに言うと、東京五輪1964エンブレムをリスペクトしている事が以下の画面で確認できますね。円の輪郭を沿うようなアニメーションが施されています。つまりこれも会見の為の後付では無いということです。

この動画で9分割のアイデアが確認できるということは、以前からこの概念は存在していた事になります。

「この動画の為に9分割の概念を入れたのでは?」と考えるかも知れませんが、あくまでこの動画はエンブレムの紹介動画ですから、その動画の為にエンブレムのコンセプトを変えてしまっては本末転倒です。なのでありえません。

9分割が動画の為では無いということになれば、残る可能性は「フォントを作る為」という結論に辿り着くわけです。つまり、フォントは会見の為に急いで作ったのではなく、以前から存在していたということになります。

一から作るよりもパクる方が労力がかかる

「楽する為にパクる」とは言いますが、他人のデザインを改変するのって位置から作るよりも手間がかかるんですよね。特に今回は大会エンブレムとパラリンピックエンブレムは表裏一体ですから、表面的に真似ただけでは簡単に破綻してしまうんです。

デザインは見た目だけではなく中身(コンセプト)も重要です。見た目をパクるのは一瞬ですが、中身はパクれません。中身は自分で作る必要があるわけです。パクらないで一から作れば中身に合わせ見た目を変えることが出来ますが、パクれば見た目に合わせて中身を考える必要がありますから難易度が増してしまいます。

プログラマーとか特にそうだと思いますが、他人の仕事を引き継ぐのって結構労力使いますよね。中途半端に引き継ぐなら一からやったほうがマシだったりします。それと同じ事なんです。

追記:東京五輪2020エンブレムの原案が公開

2015082801001769

28日、五輪エンブレムの原案(上図左)が公開されましたね。

この段階ではまだ東京五輪1964エンブレムのリスペクトは存在していないようですが、それ以外のコンセプトや特徴はこの時点で既に一通り揃っていますね。

注目してほしいのが、原案の『T』の右下には例のパーツは存在しないということなんですよね。「リエージュ劇場ロゴと類似している」と言われる原因となった右下のパーツが無いということは、盗用では無いことが改めて明確になったということです。

なお、原案が修正された理由は、「既に似た商標が存在していたから」と明らかにしています。リエージュ劇場ロゴも商標登録されていれば、さらに異なる案になっていた可能性は高いですよね。

また、原案との類似性を指摘されてるヤン・チヒョルト展のロゴとの問題を考察しました。良かったらご覧ください。

原案を修正してまで佐野氏デザインを使おうとしたことは悪なのか?

fladdictの深津貴之氏の記事(私の記事なんかより論理的で誠実なのにコメント欄でボロクソに叩かれているところ見るとネットの闇は深い・・・)によると、「世界に登録済みの商標はヘタをすると億単位」と言われており、さらに組織委は「商標調査や登録関連で約4700万円を支出」と明らかにしています。しかも、商標登録には一般的に3か月~半年ぐらいの期間を要するんですよね。

つまり、商標チェックをし類似したものが見つかった場合、他の人の案を採用すれば振出しに戻りまた4700万円がかかります。それでもまた類似するものが見つかればまた4700万円が消えます。莫大な費用と時間がかかるわけです。

つまり、現実路線で考えれば佐野氏デザイン原案を修正して利用するのが最良だと判断したのだと思います。

おわりに

五輪エンブレム以外にも色々と騒がれていますが、たとえ佐野氏が盗用の常習犯だとしても、事実は変わりません。そして、その事実とは(エンブレムは)盗用していないということです。断言しても良いでしょう。単純に考えて盗用した物だったら、これほどまでに様々なコンセプトを込めようという気にはなりませんし、込めることも出来ません。

そもそも、パラリンピックエンブレムだけオリジナルで作って、大会エンブレムだけ盗用する理由がありませんよね。盗用するなら両方盗用するはずです。

多摩美大ポスターの盗用疑惑は完全に黒。なぜ「事実無根」と嘘を付いてしまったのか考えてみた

世間は「盗用だ」と騒いでいますが、私は逆に「デザインはここまで奥深いものなのか・・・」と感心してしまったんですよね。これだけシンプルな図形の中にこれだけ多くの意味が込められている例を他に知りません。

そして、意味が込められているのは招致エンブレムも同じです。だからこそ、「招致エンブレムを大会用に使ってしまえば良い」という世論に私は異を唱えます。この件に関してデザイナーであれば異を唱えるべき事なのにイマイチ話題にならないのが不思議です。。。

招致エンブレムを大会エンブレムとして使ってはいけないデザイン的な理由

デザインとは情報の整理です。不要なものを極限まで取り除くことが佐野氏のポリシーだそうです。「無駄を省く」ことはデザインに限らずあらゆることに役立ちます。無駄を省き自分の時間を作り生活を充実させたい方は佐野氏の著書『今日から始める思考のダイエット』を読んでみると良いかもしれません。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
執筆者紹介
金子 翔(kakeru)Twitter
1983年生まれ。茨城出身。東京在住。
制作会社でフロントエンドエンジニア・Webデザイナーとして従事。プライベートでは映像制作を行う。代表作は「初音ミクの消失 -DEAD END- MV」。現在、セールスコピーライティングを学習中。
ポートフォリオ
rssを購読
こちらの記事もいかがですか?