●30年前のリアルな青春群像2002年1月よりテレビ東京で『俺たちの旅』が再放送されています。これは1975年(昭和50年)から76年にかけて放送され、高視聴率を獲得したテレビドラマです。大学4年生のカースケとオメダ、そして二人より4、5歳年上と思われるサラリーマンのグズ六、この3人の生活をリアルに描く青春ストーリーです。 73年のオイルショックを契機に、破竹の勢いだった日本の経済発展にブレーキがかかり、75年の新聞は「倒産戦後最高」「完全失業者100万人突破」などの暗い見出しで埋まりました。大学生も就職難に直面します。ほんの5年前までは、大学紛争で暴れていた学生も卒業すればすんなりと一流企業の社員になれたという、しあわせな(そしてズルい)時代でした。ところがカースケたちは卒業が間近に迫っても就職できません。ついにカースケとオメダは同じ不動産会社に就職できるのですが、カースケは一日で会社をやめてしまいます。そして「自分らしい生き方」を求めて、大学卒業後もアルバイト生活を続けます。周囲の人間は「一生アルバイトではいられない」「おまえはいいかげんだ」と諫めます。 現代の若者とまったく同じ青春模様がここにはあります。「フリーター」という言葉こそなかったものの、そういう生き方をする若者は、すでに30年前から存在していたのです――おっと、フリーターは江戸時代からいたのでしたね(第6回の講義参照)。フリーター志向の遺伝子は、日本人の中に200年以上受け継がれているのです。 ●フリーターに依存する日本経済会社が労働者の雇用のために使う費用(労働費用)は、賃金だけではありません。法定福利費というもろもろの費用がかかります。健康保険、年金、雇用保険などを会社が負担するのです。社員の退職金も用立てておかねばなりません。そこで社長は「お前ら安月給の社員にもカネはかかるんだからな、給料以上の働きをせいよ」などと社員に恩着せがましいことをいいます。はなはだしい勘違いです。そういった費用は会社が義務として当然払うべき費用であって、べつに社長がポケットマネーから出すわけではありません。それに社長だって保険や年金のお世話になるのですから、偉そうなことをいってはいけません。 そこで企業は人件費を削減するために、正社員を減らしてアルバイトやパートを雇います(注・以下、本稿ではアルバイトとパートを同じ意味で使用します)。労働費用の算出は複雑で、会社ごとの差が大きいのですが、統計資料から分析した一例を示しましょう。総労働費用を100とすると、実際に賃金として労働者に払われるのは87.6%で、法定福利費などが12.4%。つまり、アルバイトならこの12%あまりの費用を節約できます。さらに、アルバイトの賃金は時給換算で正社員の69.3%ですし、夏冬のボーナスも支給されませんから、アルバイトの人件費は正社員の6割以下。経営者にとってはうれしいディスカウントです。 となると、一円単位のコスト削減にしのぎを削るサービス業・販売業は、生き残りのためアルバイトを雇います。従業員に占めるパートの比率(97年のデータ)を見てみましょう。
もし、フリーターがいなくなったら、ファミレスやファーストフードの値段、旅館の宿賃は現在の倍近くなることでしょう。ファミレスや旅館は料金を値上げすれば済むことですが、一番困るのは書店です。新刊本は再販制のため、定価販売が基本です。値引きも値上げもできません。フリーターがいなくなったら、日本全国の書店は経営破綻です。商品知識ゼロのアルバイトで成り立っている新古書店も同じ運命をたどります。 フリーターを槍玉にあげるマスコミは少なくありませんが、なかでもとりわけ新聞は熱を入れて彼らを叩いています。でも、新聞記者のみなさんも廉価なファミレスやディスカウントショップ、価格破壊のファーストフードを利用していますよね。それはみんな、フリーターのおかげだということを忘れてもらっては困ります。それどころか、新聞配達員にもフリーターは多いのですよ。 企業が使える人件費は無限ではありません。ひとつのパイを分け合っているのです。フリーターが安月給な分、正社員の給料が多くなる。ということは、全員が正社員になった場合、正社員一人当たりの給与は現行水準より大幅に下がるのです。自分の給料が下がるという犠牲を払ってまでフリーターをやめさせる覚悟が、みなさんにはありますか? ●フリーターは無責任? 税金払わない?よくある疑問にお答えしましょう。 「なぜフリーターでなければならないのか。学生アルバイトでいいじゃないか」 「フリーターは無責任」 「フリーターは税金払ってない」 日本の憲法には「納税は国民の義務」という条文がありまして、例によってお上に従うのが大好きな日本人は、これをありがたく遵守しています。一方、アメリカ合衆国憲法には「議会は税を課し徴収することができる」としかありません。 欧米諸国において憲法とは、国民の権利と国家の義務を規定したものなのです。日本はまるっきり逆。国民に納税しろなどとと命じるハレンチな憲法はほとんどありません。スペインの憲法には「納税の義務」が記されていますが、税は平等であるべしとか、財産を没収するようなものであってはならぬなど、国家に対する義務も併記されています。一方的に国民に納税を要求する取り立て屋のような憲法があるのは、日本と韓国くらいのものなのです。 実際のところ、フリーターの給料からは所得税が天引きされているケースがけっこう多いのですが、とりあえず払ってないものとしましょう。フリーターの平均年収は150万円。そのうちの1割を強引に源泉徴収した場合でも、15万円しか取れません。 日本にはフリーターよりも専業主婦よりも巨額の税逃れしている人たちがいます。それは、ヤクザです。彼らは所得の8割方を申告していません。当然です。覚醒剤の売買にレシートは出ませんし、それを正直に確定申告するわけがありません。彼らの非合法収入は年間1兆453億円と推計されています。日本には暴力団員が約8万3千人いますから、平均すれば1人アタマ1750万円の所得を隠しているのです。1割の税金を取ると175万円になります。 そこで、画期的な新税のアイデアです。東京都がぶちあげた銀行に対する税金に倣って、暴力団員であるだけで自動的に年に175万円税金を納める義務がある、とする「ヤクザ外形標準課税」の導入を検討してはいかがでしょうか。問題は、だれが税金の督促をするかですが……。 今回のまとめ
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