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労働者派遣法改正 何が変わる?

9月14日 19時00分

小林達哉記者

一部の業務を除き、現在は最長で3年までとなっている派遣期間の制限を撤廃する一方、1人の派遣労働者が同じ部署で働ける期間を3年に制限するなどとした、改正労働者派遣法が国会で成立しました。
政府は、派遣労働者のキャリアアップを図るとともに正社員への道を開くものだとして、その意義を強調していますが、労働組合などからは派遣就業は臨時的で一時的なものだという原則を揺るがし、派遣労働の固定化につながると懸念する声も出ています。
9月30日の改正法の施行によってどのような影響があるのでしょうか。政治部の小林達哉記者が解説します。

2回の廃案を経て成立

労働者派遣制度の見直しは、多様な働き方の実現を目指す安倍政権が、成長戦略の1つとして進めてきました。しかし、今回の改正労働者派遣法は、与野党の対立が激しかったことなども影響し、成立までに2回廃案となっています。
最初に国会に提出されたのは、去年3月でした。
しかし、罰則を定めた条文の中で、「1年以下の懲役」とするべきところが「1年以上の懲役」となっていることが発覚し、審議に入ることなく廃案となります。
その後、政府は条文を訂正して、去年9月、改めて臨時国会に提出。衆議院で審議入りしましたが、採決には至らず、衆議院の解散にともなって再び廃案となります。
また、ことし1月、担当の厚生労働省の課長が人材派遣会社で作る団体の会合で、「これまで派遣労働は、期間が来たら使い捨てでモノ扱いだった」と発言していたことが明らかになり、塩崎厚生労働大臣が陳謝する事態となりました。

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こうしたなか、政府はことし3月に改正案を閣議決定し、3たび国会に提出しました。審議では、衆議院厚生労働委員会の運営方法を批判する野党側の議員が、自民党の委員長の入室を阻止しようともみ合いになるなど、与野党の激しい対立が続きましたが、ことし6月、衆議院を通過し、参議院に送られました。
ただ、その後も、安全保障関連法案を巡る与野党の対立や、年金情報の流出問題などの影響もあって審議は遅れ、施行日の9月1日をすぎても参議院で審議が続く、異例の事態となっていました。
最終的に、改正法は審議の遅れを踏まえ、9月1日となっていた施行日を9月30日に先延ばしするなどの修正を加えて参議院で可決され、衆議院に送り返され、9月11日の衆議院本会議で自民・公明両党と次世代の党などの賛成多数で可決され、成立しました。

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法改正によって何が変わる

改正前の労働者派遣法では、「通訳」や「ソフトウエア開発」、「財務処理」といった専門性が高いとされる26の業務では、派遣労働者が、同じ部署で働くことができる期間に制限はなく、これ以外の業務は、派遣期間は原則1年、最長でも3年までとなっていました。
今回の改正では、この「専門26業務」を廃止し、派遣期間の制限を撤廃する一方で、1人の派遣労働者が同じ部署で働ける期間を3年に制限します。

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その結果、派遣労働者は、違う部署であれば、3年を過ぎても派遣労働者として働き続けることもできることになります。
一方で、改正法では、労働者の雇用の安定を図るため、派遣会社に対し、派遣期間が上限の3年に達した労働者について、直接雇用するよう派遣先に依頼することや、新たな派遣先を提供することなどを義務づけています。

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さらに、派遣会社に計画的な教育訓練を行うことを義務づけているほか、悪質な業者を排除するため、すべての派遣事業を厚生労働大臣による「許可制」にするとしています。
改正法について安倍総理大臣は審議の中で、「正社員を希望する方にはその道が開けるようにするとともに、派遣を積極的に選択している方については賃金等の面で派遣先の責任を強化するなど待遇の改善を図るものだ」として、その意義を強調しています。

派遣労働者を受け入れる企業は

今回の法改正について、派遣労働者を受け入れる企業はどう受け止めているのでしょうか。
8月に名古屋市で行われた参議院厚生労働委員会の地方公聴会に出席した、大手自動車メーカーの幹部は「今回、専門26業務が廃止されることで業務の枠を超えて働くことができ、スキルアップにつながる」と評価する考えを示しました。また、「派遣労働者のキャリアアップや、派遣労働者と正社員との一体感醸成につながり、ひいてはグローバル規模での競争に打ち勝つための強い源泉になる」と述べ、企業の成長にとってもメリットがあるという考えを示しました。

派遣労働者には不安 批判も

一方、同じ公聴会で、派遣労働者として働いていた女性は「企業は、3年ごとに人を入れ替えれば、どんな仕事でも期間の制限なく低賃金の派遣労働者を使い続けることができる。労働者の大部分は使い勝手のいい生涯派遣になってしまい、一生、正社員の道が閉ざされてしまう」と述べ、派遣労働者の待遇改善にはつながらないと批判しました。
また、これまで「専門26業務」は派遣期間の制限がなく、同じ職場で働き続けられましたが、今後は3年で職場を変わるなどしなければならなくなるため、労働組合などは、雇用がさらに不安定になる恐れがあると強く批判しています。
このように、今回の法改正による影響を巡っては、依然として意見が大きく分かれています。

施行に向けて準備急ぐ

法改正と合わせて、参議院では、民主党などの主張を踏まえ、派遣は臨時的、一時的なものという基本原則のもと、労働者の正社員化に向けた取り組みを講じることや、悪質な派遣会社は許可の取り消しを含め処分を徹底することなど、派遣労働者の保護などに重点を置いた39項目にのぼる付帯決議が可決されました。

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厚生労働省は、こうした付帯決議の内容も踏まえ、9月30日の改正法の施行に向けて、必要な政省令などの取りまとめを急ぐとともに、派遣会社など関係者を対象に説明会を開くなどして制度の周知に努めることにしています。
ただ、改正法の成立から施行まで、時間が限られていることから、関係者からは、現場で混乱が起きないか懸念する声も出ています。今回の制度改正で、政府が言うように、雇用の安定は図られるのか、そして、派遣労働者の待遇改善につながるのか、不安を抱く人も多いなかでスタートするだけに、丁寧なフォローアップが必要です。


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