新人君にドキュメントの作成を頼んで3時間後、進捗を確認したら三行しか書けてなかった。

■仰天の新人君

 ネットでびっくり仰天な新人君の話を見かける。まだ、ビジネスマナー系の仰天話なら可愛いものだ。社会経験が無いので仕方がないと思える。シャレにならないのは能力に関する仰天ネタだ。

 特に技術を売りにするIT系の業務で能力が足りないと致命的だ。コラムの題名にある、新人君にドキュメントの作成を頼んだら、三行しか書けていなかったというのは、私の経験した実話だ。

 一般では仰天話かもしれないが、私としては予想通りだった。今回は、こういう新人君をフォローする立場で書いてみる。力無き新人君に代わって、無能な先輩方にツッコミを入れていきたいと思う。

 

■できて当然というのは甘えだ

 できない人に対して、いきなり問題意識を押し付けるタイプの人が一定数いる。まず、こういう人はエンジニアに向いていない。別の業種へ転職することを勧める。願望を推しすぎて、物事の順序が整理できていないからだ。

 どんなに優秀なエンジニアでも、情報を共有できない現場では力を発揮できない。仕事をして欲しいなら、手順を踏んでやるべきことがある。「仕事ができて当然」という理想だけで仕事は回らない。炎上している現場では大概、やるべき手順が抜けている。

 それでいて、あれをして欲しい、これをして欲しいと要求ばかり突きつけてくる。いや、要求ならまだマシだ。こういう手順でやればできるだろと、間違った手順を押し付けたり、根拠もない「こうあるべきだ」を押し付ける場合もある。ここまでくると、押し付けているのはもはや幻想(ファンタジー)だ。

 このような自分の要求や理想ばかり述べるが、質問して的確に答えられない。そんな先輩方も多い。顧客の要求を聞き出して実現していく立場の人が、後輩の質問の意図を聞き出して答えることができない。こういう人がどういう仕事をしているか、想像すると怖い。

 しかるべき手順を踏むことと、質問の意図を理解して答えること。これができないと仕事は成り立たない。この二つを抜かして強引に仕事を進めると、難易度だけが異様に上がる。こういう難易度の高さに葛藤してる新人君をよく見かける。

 

■ではドキュメントを書く力を試してみよう。

問題:次にあげるテーマでコラム一本書いてください。

「セミの屍が積まれた庭の片隅で、雄猫が雌猫を追いかけて逃げられた。」
 

 ・・・はい。書けた人いますか?

多分、書ける人はいないだろう。これでコラム一本書けるくらいの人なら、余裕でエンジニアライフでコラムを書いている。

 では、なぜこのネタでコラムが書けないのだろうか。それは簡単だ。言葉を繋いでいく力が無いからだ。例えば、問題で与えられた一文を要素ごとに分解する。分解した要素と現場の状況を比べて、共通しそうな項目を繋げる。セミを満身創痍のITエンジニア、庭の片隅を現場、雄猫をマネージャ、雌猫を顧客。ここら辺まで結びつければ、何とか書ける人もいるかもしれない。

 〜書とつくものを書くには、言葉を繋ぐ力は必須だ。言葉を繋ぐにも、元になる語彙や観察力、発想力も問われる。新人君の能力では、ドキュメントの作成を、私の出した問題並みに難易度を高く感じると思う。普通に考えるなら、三行しか書けなくて当然だ。真面目にドキュメントを書いていれば、そこら辺の難易度も分かると思うのだが。

 先輩方には、言葉を繋ぐ力を鍛えずに、パターンだけ覚えてドキュメントを作ってる人を多く見かける。これをやっていると、ドキュメントを作成する難易度が判別できなくなり、ちょっと違うパターンが出た時に総崩れになる。

 実際、毎回総崩れな先輩方もよく見る。そりゃそうだ。経験の分は進歩しているが、根本的な能力を鍛えている訳ではない。能力自体は新人君と大差が無いからだ。人にできないと言う前に、お前ができていないんじゃないか?第三者にそう突っ込まれれば、仕事を切られる理由として成立する。新人君にドヤ顔してる余裕は無いはずだ。

 

■実際に私がした対応

 ちなみに、三行のドキュメントを渡された私(ダジャレじゃないぞ)はどうしたか。にっこり笑顔で「がんばったな!」と一言褒めた。そして、三行の内訳を確認した。これが限界だというので、内容の膨らませ方を教えた。あと、言葉を繋いでいく力について話した。

 その後、ドキュメントが書けるようになったかというと微妙だ。ただ、積極的にドキュメントを書くようにはなった。そして半年くらい経って、自分からドキュメントの構成を考えるようになった。私の期待に応えようとはしていたので、アプローチは間違えていなかったと思う。成長できるきっかけは残せたと思う。

 新人君と接していると、自分の足りない部分を直視させられることがある。立場とか経験年数を抜きにして、まっとうに理論だけで太刀打ちできるだろうか。やってみると、意外とシビアだ。私たちの忘れてしまった正論を、鋭く突きつけてくる。自分たちが、いかに考えていないかを思い知らされる。

 新人君は手強い。まともに論破しようと思えば、相応の実力が問われる。逆を言えば、立場や経験年数、「仕事」というキーワードでねじ伏せているなら、相応の実力が無いと言える。相手を説得できる根拠を持たずに仕事をしているということだ。そんな仕事の内訳を考えると怖くないか?相応の立場にいるなら、自分を振り返ってみることを勧める。

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コラムニスト プロフィール

Anubis
色々な仕事を渡り歩き、今はヘルプデスクをやっている。
いろんな業種からの視点も交えてコラムを綴らせていただきます。

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