戦後70年
「自分たちの意思 示したい」
◆第2部 記憶つなぐ 下/学生団体SEALDs KANSAI◆
通り雨が上がった。
7日午後7時過ぎ。湿った路面の匂いと、行き交う人の熱気がうずまく神戸市のJR元町駅前。関西学院大3年の大野至さん(23)=西ノ島町出身=が、拡声機のマイクを握った。
「国家が勝手に事実上の改憲をしようとしている。この法案では、僕たちの平和や命は守れません」
400人はいるだろうか。群衆から拍手が起こる。毎週金曜日の夜、安保関連法案への抗議活動を続けている学生団体「SEALDs(シールズ) KANSAI」の集まりだ。
この日、大野さんは特別な思いで臨んでいた。70年前、広島、そして長崎に原爆が投下された。
「昨日、そして明後日は日本にとってとても大事な日。今も核兵器で苦しんでいる人たちのことを思い、僕たちは路上に立ちます」
島根で育ち、学んだ若者が今、声を上げている。
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大野さんらは、法案が立憲主義や議会制民主主義に反するとして5月に関西で団体を立ち上げた。
東京の国会前のように、明確な対象はない。「最後に決めるのは国民。自分たちの意思を表示したい」と関西各地の街頭に立つ。
憲法学者、社会運動論や国際政治学の教授を招き、学習会も重ねる。
西ノ島で生まれ育った。小学生の頃、島で原子力施設の誘致が検討されたが、町民の反対で立地拒否の条例が制定された。「動けば変わる」と信じる原点だ。
江津市のキリスト教愛真高校で学んだ学生も参加している。
関西学院大4年の寺田ともかさん(22)は、在学中に平和学習で聞いた証言を胸に活動している。広島で被爆した女性から「真実を見抜く目をつけなさい」、沖縄で基地問題に取り組む女性から「黙っていても平和はこない」と言われた。
「法案が命の価値を相対的に扱っていることにノーを言いたいです」
若者たちの活動はうねりとなりつつある。この日、登壇した神戸大の教員は「皆さんを見て、自分も何かしなければと恥ずかしくなりました」と告白した。結成時に10人だった学生は120人に増えた。
島根大1年の梶間了さん(19)はこの夏、夜行バスに揺られ、京都と大阪でのデモに参加した。
法案についてのツイッター上の書き込みを見て、「憲法に反しているのに、与党だけで決めようとしているのはおかしい」と危機感を抱いた。
友人にデモに行くと告げると、「感情に流されているのでは」と言われたこともある。でも、ただ無関心でいたり、遠巻きに見ていたりしたくなかった。
「行動すれば周りに影響を与えます。そして、どんどん輪を大きくしていくのです」。今月上旬、自らが学内で呼びかけた勉強会に集まった30人に訴えた。
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午後8時半。元町駅前の人だかりは700人に達していた。
神戸女学院大2年の山口晶子さん(19)は、思いを打ち込んだスマホを手に、壇上に向かった。山口さんも昨年3月まで愛真高校で学んだ卒業生だ。
2年前の春休み、韓国への研修旅行に参加し、元従軍慰安婦のおばあさんの話を聞いた。深く知らなかった自分たちに、「来てくれて、ありがとう」と話をしてくれた。「自分の知らないところで人を傷つけていることがある」と思った。
その思いを、この日のスピーチに込めた。
「私と同じように、自衛隊の若者にも、大切な人がいるはずです。誰かの犠牲の上に幸せが成り立つのだとしたら、私の幸せなんていりません。よかったら、一緒に声を上げましょう」
無関心でいることで人を傷つけたくない――。そこに利己的な考えはみじんもない。 (小早川遥平)