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堀込泰三堀込泰三  - ,,,,,,,  08:00 PM

「ハマる」商品を創るには:真の競合相手は他社ではなくユーザーの習慣

「ハマる」商品を創るには:真の競合相手は他社ではなくユーザーの習慣

Crew:ビジネスの成否を決めるのは商品だけではありません。それを使ったユーザーが、どんな習慣を作れるのかということも重要な要素の1つです。

数年前まで、タクシーに乗るためには通りをうろうろして、手を挙げて拾う必要がありました。それが今は、ボタンをクリックするだけで『Uber』や『Lyft』が迎えに来てくれます。

ビジネスにおける競合とは、同じ業界の中で同様のサービスや商品を提供している企業を指すと思われがちです。でも、必ずしもそうではないというのが、Dropboxでデザイン部門を率いるSoleio Cuerv氏の主張です。

競合すべき相手は、他社のサービスではありません。真の競合相手は、人々の習慣なのです。

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商品を創るときは、人々が今何を欲しているのかを考慮しながら、これから提供しようとするサービスが生活の一部として使ってもらえるのか、ということを考えるべきです。真に役立つものを提供し、人々の新しい習慣作りを手助けすることで、ようやくビジネスを維持することができるのです。

あなたの大好きな商品を思い浮かべてください。それによって、どんな習慣が生まれましたか?

私の場合、こんな感じです。

  • Buffer』:SNS投稿予約サービス『Buffer』が登場するまでは、シェアしたいリンクを見つけるたびに、各SNSに個別に投稿していました。今は、ブラウザのBufferボタンを押すだけで、すべてのSNSへ予約投稿が可能になりました。
  • Slack』:長年、チーム間のコミュニケーションはメールが主流でした。今は常にチーム用メッセージングアプリ『Slack』にログインしているので、わざわざメールを使う必要はありません。

でも、忘れないでください。消費者の大半は、すでに他のアプリ、サービス、商品を使ってニーズを満たしています。

つまり、新しいビジネスを成功に導くには、消費者が長い間続けている習慣を変えさせる方法が必要なのです。


習慣の心理学


日々の生活は、習慣の積み重ねでできています。

毎日、自然と行なっている行動が人の性格と行動を決めているのです。米国の神経科学者であり作家でもあるDavid Eagleman氏は、著書『Incognito』にこう記しています。

脳は、情報を集め、行動を適切に導く役割を担っています。意思決定が意識的なものかどうかは関係ありません。実際、多くの意思決定は、無意識に行われています。

専用車線があると自転車での移動が安全かつ速くなるように、習慣が意思決定の精度を高め、スピードを速めるのです。

MITの研究者らが、習慣の中核を成すシンプルな法則を発見しました。それは、「きっかけ」「ルーチン」「報酬」からなるループです。チャールズ・デュヒッグ氏は、著書『習慣の力』において、こう説明しています。

初めは「きっかけ」です。これは脳が自然に動くように、そして何を習慣にするか考える「引き金」となります。次が「ルーチン」で、これは身体や感情に沿った行動です。そして最後が「報酬」で、これは行動を将来のために記憶に残すかどうか、脳が判断する役に立ちます。

ルーチンによって得られる報酬がポジティブなものなら、次にきっかけの引き金が引かれるとき、自然とそれを繰り返したくなるのです。


古い習慣を断つのが難しい理由


習慣を変えるのは容易ではありません。私は、毎朝仕事をしながらチョコレートバーを食べる習慣を断ち切るのに、数カ月を要しました。

習慣を断ち切るのが難しい主な理由は3つあります。

  • 物理的なつながり:研究によると、習慣は脳内ですでに確立されている「ルール」に従うそうです。やり慣れた行動を断ち切ることが驚くほど難しいのは、このルールのせいなのです。
  • 切り替えによるコスト:変化を起こすためには、いったん居心地の良い場所から出なければなりません。新しいことへの挑戦には、精神的なコストがかかるのです。たとえば、AndroidのスマホからiPhoneに変えると、iPhoneのOSについて学ぶというコストが発生します。
  • 正当化:私たちは、悪い習慣だとわかっていても、それがもっとも良い選択肢だと自分の中で正当化してしまいます。その理由は「慣れているから」です。たとえば、ランチのたびにコーラを飲む人は、それが身体に悪いことだと知りながらも、砂糖とカフェインという報酬に慣れてしまっているのです。


他人の習慣を変えるには


習慣が確立される理由を知れば、習慣を変える方法も見えてきます。

つまり、今までと同じ(または今まで以上の)報酬を簡単に手に入れることができるなら、古い習慣をすぐに断ち切ることができるのです。

たとえば、金曜日の夜、違うオフィスにいる同僚にタスクを承認してもらってから家に帰らなければならないとします。このシチュエーションには、2つの報酬が存在します。

  1. 自分のタスクを完了する
  2. 家に帰って週末を楽しむ

メールだと承認をもらうまでに時間がかかります。なので、確認の電話をする必要があるでしょう。つまり、追加のタスクを完了して、ようやく報酬を受け取るとができます。このようなシチュエーションで新しい習慣を構築するためのコツは、きっかけと報酬は変えずに、ルーチンだけを変えることです。

たとえば、チーム用メッセージングアプリ『Slack』を使ってみましょう。これを使うことで得られる報酬は、メールで得られるものと変わりません。でも、その報酬を得るまでにかかる時間とコミュニケーションは、劇的に削減できます。

しかし、長期的に認められるのは、そんなに簡単ではありません。何かを習慣として定着させるには、1回の報酬だけでは不十分なのです。


HOOKモデル


起業家のニール・イヤール氏は、著書『Hooked ハマるしかけ』において、習慣として定着する商品に共通する、4つの主な特徴を説明しています。それは、「トリガー」「アクション」「報酬」「投資」です。

これら4つのステップは、「HOOK」モデルとして知られています。これらをうまく利用すれば、習慣として定着する商品を創ることができるはずです。


1. トリガー

トリガーは、人々に行動を起こさせるための引き金です。ケータイの通知や呼び出し音のような外的なものもあれば、退屈な気持ちのような内的なものもあります。

思考、感情、あるいは既存の習慣と密接に結びつくことができる商品は、「内的トリガー」を生み出します。電話の呼び出し音や「ここをクリック」といったオンライン広告のような外的トリガーとは異なり、内的トリガーは見たり触ったり聞いたりすることができません。内的トリガーは、心の中で自然に現れるものであり、それを創り出すことが、消費者向けテクノロジーにとっての目標なのです。

ここでのポイントは、顧客があなたの商品を使いたくなるようなトリガーを見つけること。それは、内的トリガーでも、外的トリガーでも構いません。


2. アクション

習慣確立の第2フェーズは、「アクション」です。これは、報酬を期待して具体的な行動を起こすことで、前述の『習慣の力』における「きっかけ」に近い意味を持ちます。

アクションが容易な商品ほど、多くのユーザーによる利用が見込めます。たとえば、最近のアプリやウェブサイトは、フォームにたくさんの情報を入力しなくても、FacebookやTwitterのアカウントでサインインすることができます。これによりユーザーは、時間と手間を省くことができるのです。

これらのアクションを実行すれば報酬が得られると知ったユーザーは、あなたの商品を使うことが習慣になるでしょう。


3. 報酬

イヤール氏は、報酬を「集団」「狩猟」「自己」の3つのタイプに分けています。

  • 集団の報酬とは、「認められている、魅力的である、重要視されている、つながっている」と感じさせてくれるもの。ポップスターが、ファンを自ら名づけるのがその一例です。たとえば、テイラー・スイフトは自身のファンを「スイフター」と呼び、レディー・ガガは「リトルモンスター」と呼んでいます。
  • 狩猟の報酬とは、グッズ、商品、サービス、情報です。たとえば、メンバー専用コンテンツや、特定の顧客に配るステッカーのような報酬などがこれに当たります。
  • 自己の報酬とは、能力、習熟、達成、成果などを感じさせることです。たとえば、「Duolingo」では初めてのスペイン語を話したとき、「Treehouse」ではコードの最初の1行を書いたときに報酬を得たと感じられます。

イヤール氏は、提供する報酬が予測可能だと習慣の形成には効果的ではないと言います。つまり、報酬を少しずつ変え、常にフレッシュな状態を保つことが必要となります。


4. 投資

習慣確立の最終フェーズです。これは、ユーザーがあなたの商品に、時間、データ、労力、社会的資本、あるいはお金を投資することを意味します。

たとえば『Slack』では、初心者はSlackbotというロボットにガイドしてもらえます。質問に答えることでプロフィールの設定やチームメイトの招待ができ、自然と投資を促されるのです。


実際のHOOKモデル


実際に機能しているHOOKモデルの概要を知りたければ、私の大好きなサイト「Medium」を見るのがいいでしょう。

まだ毎日チェックしていなかったころ、Mediumは週に1回、まとめてメールを送ってきていました。そのメールには、サイト内のベストコンテンツと、私自身の記事への反応が書かれていて、それが私をハマらせる外的トリガーとなりました。

トリガーは、アクションにつながります。私の記事をオススメしてくれた人を知るという報酬を受け取るたびに、私はサイトを訪れずにはいられなくなりました。

あなたの商品に多くの時間、データ、労力、社会的資本、あるいはお金を投じた顧客ほど、その商品に価値を見いだすようになります。

それ以降、私はMediumの優れた(かつ変わり続ける)コンテンツを読むのにたくさんの時間を費やしてきました。何度もサイトを訪れるうちに内的トリガーが作られ、メールが届かなくてもMediumを開くようになりました。優れたコンテンツが保証されているという事実と報酬が、私の中にすっかり根付いたのでしょう。

これが、「トリガー」→「アクション」→「報酬」→「投資」→「ハマる」という図式です。



ビジネスの成長をもたらすものは、商品の改善や多機能の提供だけではありません。顧客の習慣を理解し、彼らの生活を楽にする方法を考えることも必要なのです。競合他社製品の分析に時間をかけるぐらいなら、ターゲットのいる市場の行動を研究し、本当に求められていることを発見する努力をしましょう。

ユーザーの習慣を理解するほど、彼らの生活の一部として商品を使ってもらうことが容易になるのです。


Why habits are the only competitor you need to worry about | Crew Blog

ASH READ(訳:堀込泰三)
Photo by Shutterstock.

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