キャリア論
UXを理解する極意を教えましょう。
株式会社メルカリ
2015年5月、株式会社メルカリに突如参画された執行役員の松本 龍祐氏。数千万のユーザーを持つサービスを生んだコミュニティファクトリーの設立や、ヤフー社にてアプリ開発室室長を務めるなど、輝かしい実績をお持ちです。ご自身の経験から、ディレクターやデザイナーのキャリアについて語っていただきました。
松本 学生時代に会社を設立した経緯もあり、いわゆる就職活動をしなかったため、まともな社会人になれないんじゃないかという恐怖心が先行していましたね。そのためやりたい仕事をやるというよりも、人に必要とされる社会人になろう、という想いで仕事をガンガン受注し、ステップアップを意識していました。仕事がなくなれば、死ぬんじゃないかとも思っていましたから(笑)。
松本 当時、クライアントのブログプロモーションやSNS構築等の仕事に携わる機会が多く、業界のトレンドがSNSになりつつあったため、継続して仕事に携わっていくうちに関心が高くなっていきました。また、前提として私個人が新しいものが好き、新しいものには首を突っ込みたいという性格があったのも大きかったため、当時盛り上がっていたSNSを中心に実績を積んでいこうと思っていました。それが設立のきっかけですね。
松本 サービスが拡散され拡大していく根本には、すべてソーシャルが基盤になっているように感じていましたから、ソーシャルの使い方が一番うまい会社を目指そうとしていました。追求した結果、「みんなのケンテイ」は日々20万人ぐらいユーザーが増加していたので、毎日がとにかく楽しくて楽しくて仕方なかったです。とはいえ、マネタイズがうまくいかず、あまり儲からなくて苦戦もしていました。
松本 2011年ぐらいからソーシャルアプリとスマホアプリの事業を半々ぐらいにしようと思っていましたが、全く異なる事業を一つの会社で進めることの難しさや、スマホの普及が想像以上に早かったこともあり、半年くらい経ってすべての事業を、スマホアプリに振り切りました。
松本 「DECOPIC」は確かにダウンロード数が日に日に伸びていきましたが、また儲からないという悩みがありまして…。
松本 いずれ大手のプレイヤーがひしめきあうことが予想される環境で、成長していくことの難しさを感じていました。丁度その時、ヤフーが「爆速」を掲げていて、組織として面白いなと思っていました。ヤフーのスマホへの取り組みや各サービスのアプリ化がこれから進むといった状況でしたので、私や、自分たちのチームがヤフーに貢献できて、かつ成長に寄与できるんじゃないかという予感がありました。大きな会社で大きな役割を担える、というのは起業に匹敵するチャンスだと思います。そこで最終的に参画を決定しましたね。
松本 新規アプリを作るヤフーのチームがありましたので、そこにコミュニティファクトリーのメンバーが一緒になる形で当初スタートしました。私自身としてはその組織をマネジメントしつつ、全社の新規・既存のアプリのUXやUIについてアドバイスしたり、アプリ開発のフローを作ったりといった、全体の底上げに注力していました。
松本 ヤフーでは、IoTのプロジェクトの立ち上げ、VCのパートナー、次のモバイル戦略企画など自分のキャリアとしても魅力ある業務を任せていただけたので、非常にやりがいがありました。そんな中、代表の山田と話す機会があり、実績を残してきた経営陣がジョインしていたり、メルカリの急成長について聞いているうちに、千載一遇のチャンスと思ったのが大きかったです。
松本 話を聞くまで、転職するとは自分でも全く考えていませんでした。まだまだ当分ヤフーにいるし、いずれはまた自分でサービスを作ろうとも思っていましたが、ここまで急速に成長する会社に入るチャンスはもうこないなと。自分で起業するよりも貴重な機会だと思いました。ヤフーでの仕事は本当に面白かったのですが、悩んだ挙句、メルカリに入社を決めました。
松本 ヤフーへの参画のタイミングぐらいに、千葉工業大学の安藤先生が開催していたUXのワークショップへ参加したことがきっかけですね。というのも、ソーシャルアプリを作っていた時は、例えば、ユーザーが何に対して満足をするのか、どんな体験を求めているかというのを常に意識していました。その考え方がUXという言葉としてまとまったため、考え方が近いなと思いました。ソーシャルサービスを作る時って、ユーザーが一番感動したりオモシロイと思ったタイミングで、シェアの動線を見せたりするんです。このユーザーの感情を追いかける感じと、UXの設計って似てる部分が多いんですね。
松本 そうですね。あとソーシャルがコモディティ化したことにより、自分自身のソーシャルにおけるエキスパートとしての価値が下がっていくと感じましたし、UXというのがものづくりをする上で根本になり、自分のキャリアベースになるだろうとも思っていました。そのためソーシャルからUXへ意識を変えたのもあります。やっていることにあまり違いはありませんが。
松本 キャリア視点で考えると、とにかくスマホのデザインを作ることですね。アプリがベストですが、職場の環境として難しければスマホ版のWebでもいいので。特にスマホアプリのデザイン制作は、トレンドとしてニーズが高くなっていますし、これからも続きます。これに適応していくためには、いち早く取り組める環境で、場数を踏み、得意にしていくしかありません。
松本 当たり前ですが、スマホはPCと比較し表現できる幅が狭くなりましたが、動画閲覧、画像のアップロード、スワイプやピンチができるなど機能が増えています。そのため、機能の取捨選択がサービスの良し悪しに直結します。だからこそ、どんなサービスを作りたいのか、ユーザーに何を提供したいのかというのを必ず考えていかなければなりません。
また、ユーザーにどんな体験を提供するか、つまりUXとUIデザイン、それぞれの距離が近くなり密接になっています。そのため良いUIが提供できなければ、良いUXが提供できない。だからUIを決めていくデザイナーの役割が大きくなっています。
松本 そうですね。ディレクターが作ったワイヤーに色づけするのではなく、デザイナーの主体的なファシリテートが必要だと思います。
松本 ユーザーの行動は数値として結果に現れます。その数値を作るのは、主観的にサービスを触るユーザーの感情です。いかに「ユーザーがこう思うだろう」という制作側の仮説が、ユーザーの意図に近づけるかによるかと思います。作り手とユーザーのシンクロ率をあげていくといいますか。それによってデザインの良し悪しの判断力を磨いていけばいいのではないでしょうか。
松本 当たり前ですが、ターゲットユーザーを意識するということが大事です。もちろんOSのUIガイドラインに沿うといった基本は必要です。しかし、あくまでデザイン軸で考えるのではなくサービス軸で考え、ユーザーにどんな行動をとってほしいかを考え抜きながら、一つひとつ仮説と検証を繰り返していくイメージですね。
松本 一つは、実際にターゲットユーザーの生の声を聞く機会を設けることですね。一人でも多くの声を聞き、サービスを作ったときに、制作者がターゲットユーザーの顔を頭の中で思い浮かべている状態になるべきです。数人でいいのでしっかり話を聞き、普段どういう生活をしているのか、どうやってアプリやスマホと接しているのか、リアルに想像できるようになることが大事です。
もう一つは、とにかくたくさんのサービスを良く触り、見ることです。著名サービスは、ユーザーが支持しているから有名になっているわけですから、これまで説明したようなプロセスを経て作られているはずです。だからこそ見るべきポイントを押さえて、とにかく見る、触る。
松本 まずは同業他社のサービスを徹底的に分解する。ニュースアプリであれば、チュートリアル、タイムライン、詳細画面の要素、シェアボタンの位置や大きさなど。その次にその要素を持つ水準の類似のサービスを見て比較するやり方だと、アプリの良さが見えてきやすいかもしれません。あとトレーニングとしては、なぜ「ここにボタン配置したのか」といった機能一つひとつに、理由と答えを予測してみるのもいいと思います。漫然とサービスを見るのではなく、機能や目的を細かく要素分解してインプットすることがとても重要です。そこまでのインプットの後に、ユーザーの気持ちを考えてサービスを作るという姿勢が大事じゃないかと。その結果KPIがついてくるはずですから。
松本 とにかく色んなアプリを触っています。特にダメなアプリがあれば、その理由を徹底して考えます。
松本 いや、そんなことはありませんよ。なぜだめなのか要因を分解し、作り手の気持ちを考えることが大切です。なぜこのボタン配置なのか、メニューがなぜこのサイズなのか…。そこで考え切ることで、良い点悪い点がなんとなくでも頭に残りますし、その事例をストックすれば、引き出しを増やせます。次回サービスを作るときの参考事例にもなりますから、良い訓練になっていると思います。新規アプリを作るときは類似アプリ100個触ってみるように、メンバーにもよく言っています。
松本 あとは気になるところがあれば、ひたすらスクリーンキャプチャーをとるのが癖になっていますね。
松本 仕事以外のところで作ってみるのが良いと思いますね。過去お会いしたデザイナーでも、意識の高い方は業務でアプリに携わる機会がなくても自分でサービスを作ってる方が多かったです。今は様々な開発環境も整っていますし、新規サービスを作るハードルは下がっているかと思います。あとは、そういった活動を通じて、社内外でデザインについて議論ができる仲間を増やしてほしいですね。
松本 制度としては特にないのですが、自分でキャッチアップするカルチャーがメルカリには根付いていますので、MTGで良いアプリについて議論する機会は多いです。また、サービスを作っているときも当たり前のように、類似サービスを共有していますし、メルカリ自体がアメリカ向けのプロダクトを作っていますので、その影響もあってアメリカのアプリを日常的に触る機会も多いですね。
松本 サービスを作る上で、ビジネスとサービスをつなぐプロデューサーの存在はなくならないと思います。長期的スパンでマイルストーンを設定する役割も担いますし、人・物・金の管理はなくなりませんので、そこをキャリアとして目指すのが一つ。
松本 そうですね、同感です。その中でもプロジェクトにおいてのディレクターの役割で大事な点はいくつかあります。まず、調整ができること。エンジニアとデザイナーと一緒に仕事をする中で一番中心になるわけですから、漏れがないように進めなければなりません。そのためには、エンジニアよりデザインが詳しくなければならないし、デザイナーよりエンジニアリングについて詳しくなっておく必要があります。そうして、全体のプロジェクトを円滑に進める。
さらにディレクターは、エンジニア・デザイナーよりも一番ユーザー目線を意識することですね。チームの立場上、判断を求められるケースが多くなりますから、その判断軸をユーザー視点で検討し、チームにロジカルに説明して、コンセンサスをとらなければなりません。ユーザー視点の考察に関しては、デザイ ナーと似てはいますが、それ以上に深い視点が求められると思います。
松本 あとは数値の分析力ですね。例えばあるボタンを改善したとして、タップ率の数値が増えた減ったといった結果ではなく、それに関連してサービスの継続率、購買率などがどのように変化したのか、というところまで分析して、その分析結果によって施策としての良し悪しをつけ、次回の施策の方向性を検討するなど、一連のPDCAを回せるスキルが求められるかと思います。
松本 メルカリには、ディレクターという職種がないので、プロデューサーに置き換えてお話をさせていただきますと、分析のツールは社内にたくさんありますので、プロデューサーが自分で分析していますし、ほぼ全員がSQLをたたいて数値を取得しています。また社内がドキュメント文化でもありますので、過去の施策のアーカイブが膨大にあります。それを見て施策フローの参考にしたり、分析結果を学習したりしていますね。
なので、ディレクターの仕事は、デザイナー、エンジニアが基本やろうと思えばできる仕事というのを念頭においたうえで、できないところをいかに拾えるかどうかにかかっているかと思います。
松本 自分の得意とするところは、サービスを作ることだと思っていますので、現在手掛けているCtoCサービスの新規事業を形にして、世界規模でヒットさせたいと思っています。また、ベンチャーの文化や組織が大好きなので、急成長中のメルカリが、いまの10倍20倍の規模になっても、風通しの良さを維持し続けたり、常にイノベーションを起こし続ける組織でいられるのかには、興味がありますし、そういう組織であり続けられるように、自分自身もメルカリに貢献していきたいですね。
【取材者コメント】
在学中に起業、ソーシャルメディアのエキスパート、アプリのヒットメーカー、ヤフーへの事業売却、メルカリへの参加と、華々しいキャリアを歩んでいる松本氏。印象的だったのが、様々なアプリをダウンロードし、アプリの良し悪しに関わらず、地道に分析していることだ。スマホをインプット用・アウトプット用とわけ、気になるアプリがあればすぐにチェックできるように日頃から癖づけている。そのためインプットの質も量も桁違いになるし、結果、高いアウトプットが生まれるのも納得できる。そんな松本氏が「メルカリには、同じように高速でインプットとアプトプットを実行している社員が何人もいる」と語っていた。メルカリの成長は様々なメディアから周知のとおりだが、その理由が垣間見えた気もする。
Profile
株式会社メルカリ │ 執行役員 松本龍祐 (@Ryo_mats)
中央大学在学中より出版系ベンチャーの立上げ、カフェなどを経営。2004年より中国企業のSNS立ち上げに参画、その後2006年にコミュニティ企画・運営に特化したコミュニティファクトリーを設立。2009年以降はソーシャルアプリ開発に特化し、写真をデコってシェアできるスマートフォンアプリ『DECOPIC』が2,800万ダウンロードを記録。2012年9月にヤフー株式会社へ会社を売却。同社アプリ開発室本部長を経て、2015年5月よりメルカリに参画。主に新規事業領域を担当。