児文協が隔月で刊行している機関紙「日本児童文学」の7.8月号に、ライトノベル特集が乗るということで、読んでみました。
日本児童文学 2014年 08月号 [雑誌]日本児童文学 2014年 08月号 [雑誌]
(2014/07/08)
不明

商品詳細を見る


 児童文学を扱う専門誌でライトノベルがどのように取り扱われるのかに、かなりの興味があったので、読むに至ったのですが、前半部の「ライトノベルとはなんなのだろう」の部分では、ライトノベルの定義について、ライトノベルを知らない層に向けてわかりやすく説明をしたうえで、その多様性について論じています。後半部は、児童文学作家あるいは批評家がライトノベルを読んで、その批評をするというパートになっています。

 総論部を論じた筆者である榎本秋は、ライトノベルとはどのような定義をされた作品を指すのか、ということは冒頭に触れており、『「メインの読者ターゲット」を「中学生・高校生」として捉えた上で、そこに様々な事情がついてくるのがライトノベルだと考えている』と述べています。
 そこを踏まえて、一般的にあまりライトノベルというものをどのようなものが知らない人が思い描く、あるいは多くの人が思い描くライトノベルの代表的定義を5つ例にだし、いずれも肯定と否定をはさみ、いかにライトノベルを定義するのかを困難であるかということを提示し、ライトノベルの懐の広さをアピールするというのが総論の概要です。5つの例は以下の通り。

① 重厚なストーリーやよく練りこまれた世界設定よりも、まずは魅力的なキャラクターが前面に立ってくる小説。
② ターゲット読者と年齢や性別などの点で共通好悪の多いキャラクターが主人公を務め、共感を誘う小説。
③ 漫画やアニメ的イラストが、表紙はもちろん、本文中にも挿絵という形でふんだんに盛り込まれている小説。
④ 読みやすい工夫(一文が短い。会話が多い代わりに地の文は少ない。フォントの拡大など目を引く工夫がなされている。など)が凝らされた小説。
⑤ 学園青春、中世ヨーロッパ風ファンタジー、近未来SFアクションなどなど、面白ければなんでもあり、というスタイルの小説。
(日本児童文学者協会 「日本児童文学 2014年7・8月号」 小峰書店 2014,p37)


 
 1の定義については、本文中で筆者は、小説というものはそもそもキャラクターに焦点を当てて読むものであり、さらに言えば、ライトノベル=キャラ小説とくくるのは、不可能であるということを主張しています。
 2の定義では、代表的な作品に「僕は友達が少ない」などを上げつつも、それはあくまでも傾向的な話に過ぎず、「ビブリア古書堂の事件手帖」のように、それに即さない作品もあることを指摘、そればかりではないことを示しています。
 3の定義では、イラストは確かに重要な要素であることは間違いのないことではあるが、児童文学の世界でも青い鳥文庫や角川つばさ文庫のように、挿絵付きの作品は存在し、また、文芸の世界でも小畑健のイラスト登用を例に挙げて、イラストがついている=ライトノベルであるわけではないことを指摘しています。
 4の定義では、ライトノベルの「ライト」さの元であると認めつつも、そうではない作品も多く、別種の面白さを持っていると指摘。またフォントをいじっている作品自体はあまり多くはないことを言及しています。
 最後の5の定義では、この定義に関しては特殊であると触れています。多種多様なことは間違いのないことではあるが、その中にも、00年代の現代異能アクションといったような、流行のテンプレートが存在する一方で、個性的な作品もたまに登場する、といったようなことで、流れの中にも流行が存在をしていて、そこから外れた作品も発刊されることも珍しくないといった理由から、ライトノベルがなんでもありだという事情が成り立っているのだということを示しています。
 
 どの定義も、普段ライトノベルに親しんでいる人たちにとっては、身近に感じるものであり、そしてまた、「これは少し違うんじゃないか?」と感じるようなものばかりでありますが、ここで考えなければいけないのが、普段親しみのない人たちにライトノベルとは何ぞやということを定義しなければいけないという点です。理解のない人たちに、ライトノベルという多様で裾野の広いものを一から説明しろ、ということ難しさを感じます。
 その点、この総論は非常にわかりやすく、筆者の思うライトノベルとはなにかを述べられていると感じます。

 定義の続きは、ネット上でもたびたび話題となる、ライトノベルの歴史に軽く触れ、すそ野がさらに広がっていることを指摘。また、最近の流れでも「卒業しない読者」……まさに私みたいな人のことでしょうが、の人の増加、流行の流れと、コアファン向けの小さな作品の関係……私的にわかりやすくたとえるとSAOと石川博品みたいな関係性が発展しているということを述べていました。

この総論を読んだ感想としては、特に目新しいことはないなぁ……ということですが、しかし、この記事が掲載されたのは児童文学の専門誌です。その点を考えてみると、いかにライトノベルというのが商業ベースとしては大きいものであるが、研究ベースではいかにまだ小さき分野のものであるか、ということでしょう。
この総論の最後の部分に、そのすべてが集約されているといっても過言ではありません。

  

だから、「なんかライトノベルって子どもの読むくだらない話なんでしょ?」と一蹴してしまうのではなく、「色々な作品があるんだなあ」という目で見てほしいのである。 
(日本児童文学者協会 「日本児童文学 2014年7・8月号」 小峰書店 2014,p45)



 ライトノベルはまだまだこれからです。

 変わって後半部では、「ライトノベルを読んでみた」という題目で、児童文学作家、あるいは評論家がライトノベルを実際に読んでみて、その書評をするという企画が催されています。
 今回のそれで取り上げられていたのは、「ソードアート・オンライン」「涼宮ハルヒの憂鬱」「僕は友達が少ない」「俺の妹がこんなに可愛いわけがない」「ロードス島戦記」「スレイヤーズ」の6作品。どの書評も、視点が私とは全然違っていてとても面白かったです。

 新冬二の「ソードアート・オンライン」の書評では、筆者が小学生時代に読んだ少年講談の面白さと、SAOの面白さの本質はなんら違いがあろうか?という書評。
ソードアート・オンライン〈1〉アインクラッド (電撃文庫)ソードアート・オンライン〈1〉アインクラッド (電撃文庫)
(2009/04/10)
川原 礫

商品詳細を見る


 河野孝之「涼宮ハルヒの憂鬱」書評では、ハルヒの本質は学園メタ萌えセカイ系SFであり、昨今のライトノベルは黎明期に触れられていた単に児童向けの軽い作品とは違うものとなっていて、ハルヒのような特徴を持つことが一つの特徴だという指摘。
涼宮ハルヒの憂鬱 (角川スニーカー文庫)涼宮ハルヒの憂鬱 (角川スニーカー文庫)
(2012/09/01)
谷川 流

商品詳細を見る


 個人的には一番面白いと感じた佐々木赫子「僕は友達が少ない」では、イラスト、罵り合いの会話の応酬で話の筋が読み取りにくかった。しかしながら、現代日本十代の願望が現れていて、また、その罵り合いイラストのキャラの格好も現実とはかけ離れているようだが、実は現実の活写に過ぎない、という書評。 筆者が読んで感じたという十代の願望を述べた欄があるのだが、それが面白かったので、引用をします。

  

その願望といえば、①優れた学業・運動能力(日本人の従来の価値観そのもの。ユニークな才能への言及はない) ②欧州系白人との混血による、金髪または銀髪の美しい容姿(白人コンプレックスが強く、有色人種との混血児は登場しない) ③複数の異性に好かれる(西鶴の『好色一代男』の伝統か) ④大人の不在(親も教師も大人はほとんど出てこない) ⑤友人(部室で喧嘩したり、遊園地の猛速ジェットコースターによって並んでゲロを嘔いても、仲間の認識はなく、親友の出現をひたすら待ち望む)など、である。
(日本児童文学者協会「日本児童文学 2014年7・8月号」小峰書店 2014,p51)



少なくとも、私はこんな風にはがないの要素を考えたことはありませんでした。
僕は友達が少ない (MF文庫J)僕は友達が少ない (MF文庫J)
(2012/09/01)
平坂 読、ブリキ 他

商品詳細を見る


 田中すみ子「俺の妹がこんなに可愛いわけがない」では、ライトノベルが、そのターゲットとなる年代との懸け橋となるものであり、また、兄妹の恋愛というタブーの落としどころから感じられる、商業としての作品としての作りの巧妙さを感じるという書評。
俺の妹がこんなに可愛いわけがない (電撃文庫)俺の妹がこんなに可愛いわけがない (電撃文庫)
(2008/08/10)
伏見 つかさ

商品詳細を見る


 中野幸隆「ロードス島戦記」では、これもSAOのものと同じように、幼いころに読んだ冒険小説となんら違いがあるのか? という書評。
新装版 ロードス島戦記    灰色の魔女 (角川スニーカー文庫)新装版 ロードス島戦記 灰色の魔女 (角川スニーカー文庫)
(2013/10/31)
水野 良

商品詳細を見る


 山末やすえ「スレイヤーズ」では、あくまでもゲーム感覚で物語は展開していくので、戦いを経ても全くスタンスの変化をせずに、殺戮を繰り広げていく物語はしんどく、胸に響く言葉や情景が見えてこなかった、という辛口書評。
スレイヤーズ1(新装版) (富士見ファンタジア文庫)スレイヤーズ1(新装版) (富士見ファンタジア文庫)
(2012/09/01)
神坂 一、あらいずみ るい 他

商品詳細を見る





 なんだろうな、この特集を読んでいてすごく感じたのは、世間の分厚さというべきものか。普段なじみがある層は着実に広がってはいるものの、まだまだ認知されていること自体はそんなに広くはないのだなぁ、という現実。
しかし、広がっていないのは、今学問として、あるいはこれまでまったくそういったものに触れてこなかった人たちのような気がするというのも本音です。今、当たり前のようにライトノベルというものに触れている年代が大人になった時、その社会認識の現実はいったいどのようなものに変わっているのだろうか……? すこし、楽しみです。まぁ、そのころには私はもうおっさんですが。

 まったく本筋と関係がないのだが、最近全然感想を書いていない気がする……そろそろ書かないとたまりすぎてやばい。