F91に先立つ1988年に公開された「機動戦士ガンダム 逆襲のシャア」。
この作品全体から受ける印象はなんというか、実のところあまり政治の話をしていないな、ということだ。むしろこれは父ジオン・ダイクンの遺志(ニュータイプ論)に振り回されて死んでゆく哀れな子供たちの物語…と表現したほうが適切じゃないだろうか。
そして逆襲のシャア公開後、1990年にベルリンの壁が崩壊し、つづく1991年にソ連が解体する。人類が100年にわたって見つづけてきた一つの夢…共産主義、というよりは、それを支えた進歩史観とその母体となった近代的な人間観はその有効性を失った。
ここでガンダムにおける架空の宇宙世紀と、我々が生きる現実世界の間に、ちょっとしたシンクロニシティを感じるのはそれほど無理な話でもないと思う。たとえばジオン・ダイクンをマルクス、ニュータイプ論を共産主義に置き換えれば、大雑把にみて、この2つの世界の状況は似たり寄ったりじゃないだろか。厳格な父、その父が息子に語って聞かせる理想、その父の理想を実現するために苦悩し、時に殺しあう子供たち…。
しかし現実世界におけるソ連の解体と、宇宙世紀におけるシャアとアムロの死を最後に、こうした時代は終わりを告げる。前回「父が死んだ時代」と書いたのは、こういったイメージからの連想だ。