人と連携し、人をリードする。
その難しさの中にビジネスのダイナミズムがある。
立命館大学
市民の声を企画という形に置き換えて実行
2013年4月1日、佐賀県の武雄市図書館がリニューアルオープンすると、全国から図書館関係者の視察が相次いだ。なにしろこの図書館、館内にスターバックスコーヒーや蔦屋書店があり、図書館の蔵書をカフェで自由に読むことや、雑誌や単行本を買うこともできる。しかも1年365日無休である。
(1995年 産業社会学部卒業)
図書館カンパニー カンパニー社長
撮影協力:
STARTUP CAFE(TSUTAYA BOOK STORE TENJIN 3F)
およそ図書館らしくないこの図書館を企画し運営しているカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)の高橋聡さんはこう言う。
「奇をてらったつもりはありません。私たちは事前に武雄市民の皆さんを対象にアンケート調査などを行いました。それによって明らかになったニーズからコンセプトやサービスをプランして、こういう形になったのです」
スターバックスなどを併設した代官山の蔦屋書店のことを知った当時の武雄市長が「代官山 蔦屋書店を図書館の形で武雄にもってきてほしい」とCCCに要望したのが始まりだった。通常、この種のリニューアルには3年かかると言われている。だが、責任者に任命された高橋さんに与えられた時間は1年。「時間との戦いでした」と言う。しかも武雄市議会でこの計画が審議された過程で高橋さんは初めて反対意見があることを知った。
「カフェなどを併設することだけでなく、図書館の運営を民間に委託すること自体への反対もありました」
市民が集うコミュニティスペースの役割も
それでもカフェなどのプランは市民のニーズに基づいていたから、高橋さんは反対意見と向き合いながら妥協せずに計画を推進した。そしてオープン後、反対論は急速にしぼんでいった。人口約5万人の市で、初年度の来館者が前年の3・5倍、約100万人に達し、連日図書館の駐車場が満車になる人気ぶりを示したからだ。その人気は今も衰えることなく続いている。
「親しい人とのおしゃべり、読み聞かせのイベントへの参加など、本の貸し出し以外の目的で来館する方もたくさんいます。市民が集うコミュニティスペースのような役割も果たしているのです」
おかげで今、CCCには全国の自治体から図書館運営の依頼が引きも切らない。今年の10月には神奈川県の海老名でCCCが運営する2番目の図書館がオープンする予定で、宮城県多賀城市、岡山県高梁市、山口県周南市、愛知県小牧市などでも同様の計画が進んでいる。それらの計画も責任者を務めるのは高橋さんだ。
「大学で社会病理学を学んだことがとても役立っています。人とコミュニケーションするときも、『どうしてこの人はこう考えるのだろう』という背景を考えることが、外部の人を説得するうえでもプロジェクトチームをまとめるうえでも有効だからです」
と言う高橋さんは、事業をしている地域に住むのがポリシー。だから最近まで武雄に住んでいたし、今年は海老名に引っ越した。これからも自治体からの依頼が続けば、髙橋さんは当分の間引っ越しの多い生活を送ることになりそうである。