(柴耕太郎)そうだ僕のマネージャーにしてやろうか。
どうせ君はもうそれで食べていくのは無理だ。
丁度今のマネージャーが辞めたいってゴネててね。
明日リサイタルが終わったら迎えに来なさい。
それにしても君はツイてる。
よかったな。
(パトカーのサイレン)
(芹沢慶二)こちらです。
どうぞ。
(伊丹憲一)ご苦労。
お疲れ様です。
柴耕太郎さんの奥さんです。
(柴悦子)マネージャーの柴悦子です。
(伊丹)奥さんがマネージャーを?
(悦子)あんな難しい人の相手できるのあたしぐらいですから…。
(芹沢)どうぞ。
おい!はい!柴です。
転落による事故死か。
だと思います。
夜中に散歩に出て足を滑らせたんですよ。
有名なピアニストらしいですよ。
(伊丹)今日からじゃねえか。
(芹沢)ええ。
まあ中止でしょうね。
(芹沢)でもすごい所に家がありますね。
崖の上に1軒だけって…。
音に敏感な人で騒音を嫌って引越しを重ねました。
でとうとうあんな所に…。
まあ業界では有名な話です。
奥さんも大変ですね。
別に…私は都心に住んでますから。
別居してるんですか?ええ。
あの人にはとてもついていけませんから。
でも先ほどご主人は夜中に散歩してたって…。
彼は眠れない夜よくそうするんですよ。
あまあ確かに死亡推定時刻は午前1時から2時の間でした。
やっぱり…。
やっぱり?深夜1時頃電話がありました。
え?ご主人から電話が?ええ。
彼の携帯から。
携帯電話から…用件は?別に。
眠れなかったようです。
時差のせいで。
時差?あご夫婦は昨日ウィーンから帰国されたんです。
ウィーン?ウィーン。
(悦子)演奏旅行に行ってまして。
あの…ご主人亡くなってるんですよ。
悲しくないですか?え?
(芹沢)えー解剖の結果打撲痕は生活反応のないものばかりでした。
(中園警視正)殺されてから崖下に落とされたという事か。
ええ。
唯一生活反応のある傷が後頭部にあってそれが致命傷だと思われます。
その傷から凶器の推定は?いえ警察のデータにはない珍しい凶器みたいで…。
(中園)わかった。
次被害者の所持品。
犯人に繋がるような所持品はありませんでした。
(中園)わかった。
次…。
(伊丹)ただ携帯電話もなかったんです。
(中園)だから何だ?奥さんの話ではガイシャは深夜1時に奥さんの家に携帯で電話しています。
深夜1時?死亡推定時刻だな。
(伊丹)つまり電話したのは殺される直前。
なら…ホトケさんは携帯持ってるはずだな。
ええ。
でガイシャの携帯を呼び出したんですが…。
繋がらないのか?
(伊丹)電源が切られてるようで…。
(中園)その奥さんの供述は確かなのか?
(伊丹)ええ。
わかった。
次ガイシャと妻の関係。
(芹沢)えー現在は別居状態で妻柴悦子は港区内のマンションに1人で住んでいます。
(亀山薫)おはようござい…あれ?
(角田六郎)いないよ。
今朝は早く来ると思ったのに…。
何で?ニュースでやってたでしょ?ピアニスト殺し。
右京さんならじっとしてないと思ったんだけどなあ。
その捜査本部ね滝沢署。
え?もう捜査会議始まってる頃だな。
あそうか…。
あっこれもどうぞ。
(ため息)
(岩槻巧)ああ幸田さん。
遅くまでチューニングしてもらったのに残念でしたねえ。
(幸田紀夫)いえ。
お帰りですか?
(幸田)はい。
無念でしょうね柴先生。
コンサートの前日に殺されるなんてなあ。
殺される?あ幸田さんお休みになってたから知らないんだ。
ニュースでやってましたよ事故じゃなかったって…。
チケットは3日分売っちゃったからなあ。
舞台の穴を埋めるピアニスト決まりました?
(岩槻のため息)おおおお…。
(伊丹)お〜何だ何だ特亀!所轄に何か用か?右京さんは?捜査会議終わる前に出て行きましたよ。
終わる前に!?ええ。
ちょっと…おーい!うちの人間がこちらに来てると思うんですけどね。
刑事さんがですか?ええ。
あの杉下と言いまして私の上司なんですが…。
支配人!望月裕香からOK出ました!本当か!あの望月裕香が…。
ええ!先生の追悼公演なら是非やりたいと。
明日からOKなんだろうな?はい!それでこれ彼女が明日演奏する曲目です。
よーしわかった。
演奏者訂正発注。
すぐ手配します。
あの…。
ああ〜!!幸田さん幸田さん!決まったよ明日から望月裕香。
そうですか。
彼女なら客も納得するでしょう。
これ曲目。
それで疲れてるところ悪いんだけどさ…。
調律し直さないといけませんね。
(ピアノ)
(ピアノ)あいた…。
(ピアノ)
(ピアノ)ちょっと…あんた何やってんですか!?
(杉下右京)すみません。
つい弾いてみたくなりまして。
ハハ…私の上司です。
杉下と申します。
触らないでくださいよ調律したてのピアノに。
あっ調律ってあのチューニングの事っすよね?ええ。
これは柴先生用に調律したばかりです。
(幸田)別のタッチで弾くと調律が狂う場合があるんです。
勝手をしました。
調律し直すだろうと思いまして。
あし直すんですか?ええピアニスト変更になりましたから。
ピアニストが変わるたんびに調律するんですか?いやそうじゃありませんけれども彼女もこだわる方ですから。
演奏者の望む音を作る…それも私の仕事です。
あのすいません。
仕事をしたいんですが。
あこれから調律を始めるんですか?ええ。
拝見しててもいいですか?ああ〜ダメダメダメ!彼は少しの音でも気にするんですから。
少しの音でも?ええ。
だからいつも彼は1人っきりで調律します。
1人っきりで…。
昨日もここには誰も入れず一晩中ずーっと…ねえ?ええ朝の4時までやってました。
何時からでしょう?深夜の12時からです。
はあ〜そんなに長くかかるもんなんすか。
ちゃんとした仕事すればかかります。
仕事の邪魔をしないでくださいよ。
今朝の4時までここを出なかった?何でそんな事を?調律師というお仕事に対する純粋な興味です。
仕事を始めたら手を休めるのが嫌なんです。
トイレにも行かれなかった?ええ。
素晴らしい。
さすがプロです。
あっ!プロで思い出しました。
殺された柴耕太郎さんも仰っていたそうです。
はい?ほんの少しの雑音でも気になると…。
さすが音のプロ同士。
通じるものがあるんですね。
ああ失礼。
どうぞ始めてください。
右京さん?はい。
あの調律師を疑ってますよね?彼は今朝4時に調律が終わったと言いました。
ああ徹夜したんでしょうね。
にもかかわらず今まで帰らずにこのホールにいた。
あ。
そう。
まるで調律し直さなければならない事を知っていたかのようです。
なるほど…。
昨夜?ええ。
ピアノの調律してる間。
ホールには俺と調律師さんだけだったけど。
誰も訪ねて来なかった?ええ。
確かですか?夜間の出入りは…そこだけだから。
誰か来ればわかりますよ。
必ず?そりゃあトイレとか巡回に行ってたら…。
その時に人が来たらわからないと…。
そりゃあ…でも出る時見るでしょ?うん…表のエントランス夜間は閉まってます?ええ鍵が掛かってます。
その鍵内側からなら開きますか?内側からなら…。
つまり警備員さんと顔を合わさずに人が出入りする事はま可能ってわけですね。
でも…そしたらエントランスの鍵は開いてます。
今朝確認しました?しました。
ちゃんと掛かってました。
ああ…。
では幸田さんに調律をお願いしたのは…。
ええ柴先生じゃなく私です。
なぜ幸田さんに?以前やってもらって評判がよかったんで…。
なるほど。
それに彼の腕はこの業界じゃなかなか有名です!あそうなんですか。
だからここの専属チューナーに招いたんですよ。
このホールの専属に?ええ。
先日お願いしたばかりです。
そうですか…。
(ピアノ)何ですか?こちらの専属調律師に招かれたそうで。
ええ。
まだ試用期間中ですが。
この世界では名誉な事なんでしょうねぇ。
まあ老舗のコンサートホールですから。
おめでとうございます。
どうも。
そうそう寒いですよねぇここ。
そう言えば暖房が入ってないんじゃありませんか?ここ。
ちゃんと入ってますよ。
しかし廊下より寒いですよここ。
調律が終わってスタッフが出入りするようになったら徐々にあったかくなります。
暖房を強くしてもらえばすぐに暖まると思いますが。
急激にあっためるとピアノのチューニングピンが結露する事があるんですよ。
でもこのヒーターはどうでしょう。
何がですか?この広い会場では気休めにもならないのでは…。
これは会場をあっためるためのものではありませんから。
では何を暖めているのでしょう?
(音叉の音)チューニングフォークですね。
あなたは知識があるのかないのかわからない人ですね。
中途半端にある奴だと思ってください。
これはピアノの音を合わせるのに使います。
ええ。
それに…この音を合わせるんですよね。
(ピアノ)私はこの音程を自分の体温で合わせているものですから。
それでいつでも使えるように温めている。
そうです。
他に何かご質問は?ちなみにこのバケツは?道具がヒーターで乾きすぎないためのものです。
加湿器代わりですか?加湿器を使うとピアノに影響が出るんです。
なるほど。
大変勉強になりました。
あの今のが何か事件と関係あるんですか?僕の個人的な興味です。
しかしご自分が寒くてもピアノ優先。
お仕事に誇りを持ってらっしゃるんですねぇ。
刑事さん!はい?普通楽器はすべて調律が必要です。
はい。
でも演奏者自身が自分で調律するんですよ。
あそう言えば演奏する人と調律する人が違う楽器はピアノぐらいですね。
私は自分も演奏者だと思ってこの仕事をしています。
あっ最後に一つだけ!何ですか!?柴耕太郎さんとご面識は?はい?つまり殺された柴さんとお会いした事は?ありませんが。
では調律の打ち合わせなどはどうされたのでしょう?調律の要望は支配人を通して聞きました。
では当然柴さんの携帯電話はご存じない。
柴先生の携帯電話?はいどうも柴さんは殺される前携帯電話で奥様に電話をされたようなんですよ。
だから?しかし柴さんのご遺体は携帯電話を所持していなかった。
それを私が知らないかと言っているんですか?はい。
あなたおかしな人ですね。
よく言われます。
私は柴先生に会った事がないんですよ。
今お聞きしました。
携帯電話がどこにあるかなんか知るわけないでしょう!なにぶん何でも訊いてみるのが僕の仕事でして。
私を疑っているんですか?ああ…。
やはり…我慢できません。
は?もう一度弾かせてもらえませんか?はい?調律する前にこちらのピアノ。
何が狙いですか?狙いとは?正直に言ってください!正直申しますとこれを逃すともうこんなにいいピアノを弾ける機会はないんじゃないかと思いまして。
どうぞ。
ありがとうございます。
(ピアノ)
(ピアノ)やめろ!まだ弾き始めたばかりですが。
もういいでしょう。
調律の時間がなくなりますから。
(岩槻)いいんですか幸田さん!ええ。
調律が終わってから弾きたいと言われるよりは。
幸田さんがいいと仰るなら…。
まったく邪魔しに来たんですか?用が済んだら帰ってくださいよ。
はい。
用が済んだら帰ります。
まったく…。
とっさに思いつきませんでした。
え?あの鍵盤をよく使う曲を…。
あのピアノに何か?え?鍵盤に血痕が?ええ。
21鍵目のFの音です。
よくわかんないですけどすぐに証拠保全を。
行きましょう。
はい!あれ?う右京さん?どこ行くんすか?早くしない…証拠…。
右京さん!亀!いないよ!どこ行きましたかね?…何で?いやいや奴らまた勝手に調べてるみたいで。
ああピアニスト殺し。
ええ勝手に捜査会議出てましたし。
じゃあいずれ現場で会うでしょう。
いやそれが会わないから気味悪くてねえ。
まこっちは被害者の奥さんいろいろ調べてんですけどね。
じゃ奥さんじゃないんじゃない?あ?いやあの2人が調べてないって事はさ。
いやあ…ビンゴですね。
ビンゴです。
(ピアノ)あ…。
もう調律やってますよ。
いえこれは調律ではありません。
え?亀山君。
はい。
君にやってほしい事があります。
はい。
(ピアノ)
(ピアノ)
(ため息)何ですか?ハハすいません。
お気になさらずに。
気になりますよ。
どうぞどうぞチューニング続けてください。
あの気が散るんですけどね!ありましたか?亀山君。
いや〜それがないんですよ。
何しているんですか?一体。
あっすいません。
落し物ですか?ええ…携帯電話を…。
やはりここにはないんですかねえ幸田さん。
昨夜私はずーっとここにいたと言ったはずです!ええ。
柴先生がいらしたらわかりますよ。
何を怒っているのでしょう?先生の携帯がここにあるはずないでしょう!あ俺が探してるのはうちの杉下の携帯ですけど。
ピアノを弾かせていただいた時に忘れてしまったようで。
あそうだ!俺の携帯で呼び出してみましょうか。
ああ僕とした事が気付きませんで。
ああ!えっ。
どうしました?ああ…そう言えば…。
…これじゃないですかね?
(携帯電話)あっ。
ああ…。
間違いありません。
はい。
でもどうして幸田さんが?あの…さっき拾いまして保管しといたんです。
忘れ物かなあと思いまして。
へえ〜。
ですって!よかったですね右京さん。
はい。
ご親切にありがとうございました。
あいえ…。
ビビってましたねあの調律師。
ええビビってました。
さてとこれからどうしますか?ゲストの到着を待っているんですがねぇ。
ゲスト?あっ!ああ来ました。
(米沢守)あっ杉下警部!どうも。
(ピアノ)
(チューニングハンマーの音)
(音叉の音)
(ピアノ)何なんですか?少しよろしいでしょうか?見てわからないんですか?今調律中です。
ですからその前にピアノを調べさせてください。
え?今何て言いました?あうちの鑑識です。
そしてこれはルミノール。
2万倍に薄めた血液にも反応する薬品です。
血液?血は水で拭いたぐらじゃ落ちないんですよ。
特に木目が露出した…。
(ピアノ)この部分についた血液は先ほどピアノを弾いている時に気付きましてね。
やっぱりキレイに拭き取られちゃってますねぇ。
それじゃあルミノール検査始めましょうか。
(2人)はい。
(幸田)困ります。
支配人の許可は取ってあります。
明日使うピアノです。
今別のピアノを用意してもらってます。
検査の結果ここに血液が付着していたらそしてそれが柴耕太郎さんの血液だったら彼がここに来た事が証明されます。
ではお願いします。
はい。
そこに血がついていたとしてそれがいつついたのかわかるんですか?と仰ると?私がここに調律に来る前に柴先生がいらしていたら…。
つまりその時に血液が付着したと…。
可能性はないと言えますか?では血液反応が出ても犯行はお認めにならない。
当たり前です。
なるほど。
ではあちらの方を。
わかりました。
調べたいのは血痕だけではないんですよ。
何ですか?それ。
(米沢)ま胃カメラみたいなもんですね。
何するんですか?ああ大丈夫です。
ピアノに傷はつけませんから。
これお願いします。
あいよ。
(米沢)ああ…やっぱり警部の仰ってたとおりですね。
やはり何か挟まっていましたか?挟まってる?これ取り出せますか?あの鞄の中にステンレスの棒があるんですけども…。
あいよ。
これすか?そうです。
幸田さん。
鍵盤をよく見ていてください。
(米沢)それじゃ取り出しますよ。
出た。
もうおわかりですね。
これがどこに挟まっていたか。
最低音のキーの…。
ええ最低音のキーの土台に挟まっていました。
そこに物が挟まるとピアノの構造上ソフトペダル…これがほんの少ししか動きません。
つまり今までそこに物が挟まっていたためにこのペダルを少し踏み込んだような状態になっていたんです。
でその挟まっていた携帯電話ですがやっぱり電源切ってありますね。
(携帯の起動音)ああ間違いなく柴耕太郎さんの携帯です。
柴さんは殺される前に奥様に電話しています。
確かに深夜1時2分奥さんの家に電話してますね。
それでは私はこれで…。
それで殴ったんですね?その拍子に柴さんは持っていた携帯電話をこのピアノの中に落としてしまった。
つまり昨夜柴さんはここに来たんです。
それもあなたの調律中に。
犯行をお認めになりますか?いつ私が犯人だと?あなたにお会いする前に。
まさか。
柴さんは殺される前に携帯電話の電源を切った可能性がある事を知りました。
ガイシャは深夜1時に奥さんの家に携帯で電話しています。
(中園)なら…ホトケさんは携帯持ってるはずだな。
ええ。
でガイシャの携帯を呼び出したんですが…。
繋がらないのか?
(伊丹)電源が切られてるようで。
つまり携帯電話の電源を切らなければならないような所で彼は殺されたんです。
携帯の電源を切らなきゃいけない所…。
例えば調律師がピアノの調律をしているこの会場とか…。
そして僕は初めてここでピアノを弾いた時…。
(ピアノ)その音色に少し違和感を持ちました。
ただそれが何なのかその時にはよくわかりませんでした。
だからあの時もう一度弾かせろと…。
そうです。
(ピアノ)そしてやっと気付きました。
ソフトペダルの踏み込みがやや浅い事に…。
やめろ!だから音色が変化していた…。
このペダルに何か挟まっている。
(ピアノ)そう思いました。
気付かなかったんですか?調律ではペダルの確認は一番最初に済ませます。
つまり殺害する前に済ませていた。
だからその後確認しなかった…。
しかしあなたほどの方なら調律中に音色の違いに気付くべきでした。
柴さんを殺害した後もこのピアノの調律を続けていたらあるいは気付けたかも知れません。
殺した後調律やめてしまったんですか?ピアニストが変更になり調律し直しになると思ったからですね?しかしあなたがピアノの音色の変化に気付かなかった最大の理由は別にあります。
それこそあなたが柴耕太郎さんを殺害した動機でした。
幸田さん…あなたの耳が気になって調べました。
最近原因不明の「突発性難聴」という診断を受けてますね。
しかも発症後1か月を経過してる。
そうなると症状の完治は難しいらしいですねぇ。
もう…風の音も聴こえない。
え?少し前までは全部聞き分けられたのに…。
(幸田)風の音も…鳥のさえずりも…。
そう雲の動く音も…。
(耳鳴り)それが…今ではもう…。
慢性的な耳鳴りがあるようですね。
それを指摘されたんですね?柴さんに。
もしその事が支配人に知れたらここの専属の話はなくなる…いや調律師としても終わりかもしれない…。
だからあなたは柴さんを…。
あいつは!柴耕太郎は!私の耳鳴りの音程と周波数まで当てたんだ!
(ピアノ)
(音叉の音)
(柴)もういい!柴…耕太郎先生…。
あどうして?
(柴)時差で眠れなくてね。
さっき警備員が寝てるのを見て正直羨ましかったよ。
あの…まだ調律始めたばかりでして。
もう十分だ。
はい?さっきからずっと見ていた。
まったく進まない君の作業をね。
その理由はわかってるね?あいえ…。
わかってるはずだ。
君の耳にはこのピアノの音…。
(ピアノ)このチューニングフォークの音。
それ以外にもう一つ余分な音が鳴ってる。
それもピアノの基本ピッチであるこの440ヘルツにとても近いAの音が。
だから君はそれに邪魔され調律がうまくいかない。
いえそんな事はありません。
その変な音が鳴ってるのは右耳だ。
君は左手で鍵盤を鳴らし右手でチューニングフォークを鳴らしている。
それなら通常フォークの音を聴くのは右だ。
だが君はずっと右手に持ったこれを左で聴いていた。
右の耳に別の音が鳴ってるからだ。
そんな耳では僕の要求する音は作れない。
僕はこのピアノを昼には弾かなければいけない。
君には悪いがこの事はすぐ支配人に連絡する。
そして今夜中に別の調律師に交代してもらう。
(幸田)待ってください。
言いがかりです。
(柴)言いがかり?私の耳に別の音が鳴っているなんて…。
(柴)僕の指摘が間違ってると?
(柴)まだ音楽の世界にしがみついていたいって顔だ。
きっと元々はいい耳を持ってたんだろう。
音に敏感だからこそ耳鳴りくらいで仕事に差し障る。
そうだ僕のマネージャーにしてやろうか?どうせ君はもうそれで食べていくのは無理だ。
丁度今のマネージャーが辞めたいってゴネててね。
明日リサイタルが終わったら迎えに来なさい。
それにしても君はツイてる。
よかったな。
あなたをマネージャーに…。
許せなかった!どうして?やはり以前に柴さんと面識があったんですねぇ。
え?もう…20年以上も前の話です。
夢でした。
一流のピアニストになる事が。
でもそこにはいつも…いつもあいつがいた!
(ピアノ)
(幸田)あいつは覚えていなかったかもしれない!でも…私は忘れた事などなかった。
(ピアノ)不幸な事に私と彼は同じ年齢でした。
(ピアノ)だから何度もコンクールで顔を合わせました。
でも賞を獲るのはいつもあいつだった。
確かに私とは比べようもないほどの才能だった。
(ピアノ)思い知らされましたよ。
同時代にあいつのようなピアニストがいる限り私にはスポットライトなど当たる事はないと…。
(ピアノ)
(拍手)それで諦めたんですかピアノを…。
彼に引導を渡されたようなものです。
でも私はピアノが好きでした。
だから調律師に…。
この世界でトップになろうと思いました。
そしてもうすぐそうなれるはずでした。
その夢を…同じ人間に潰されたんだ!それだけじゃない!憐れみまでかけられて私はそんな事に耐えられなかった!私が調律師でなくなったらもう私は私じゃない!この仕事がすべてだっただから!誇りもあったんだ!調律師のお仕事に誇りがあった。
ああそうです!それなのにその道具を血に染めた。
もしかすると20年前も今もご自分の夢に引導を渡したのはあなたご自身だったのかもしれませんねぇ。
行きましょうか。
2015/09/08(火) 16:00〜16:58
ABCテレビ1
相棒 season3[再][字]
「殺しのピアノ」
詳細情報
◇番組内容
“警視庁一の変人”だが天才的頭脳で鋭い推理をみせる杉下右京(水谷豊)と“おひとよしな熱血刑事”亀山薫(寺脇康文)の名コンビがあらゆる難事件に挑む!
◇出演者
水谷豊、寺脇康文 ほか
ジャンル :
ドラマ – 国内ドラマ
福祉 – 文字(字幕)
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
映像
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日本語
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