第104回 砂田 実 氏

7. テレビは世相を写す鏡

砂田実氏−−砂田さんは良い意味で、本当に都会的というかスマートでいらっしゃる。

砂田:いやいや。やっていることは泥臭いです。離婚はするは。倒産はするは。

−−(笑)。砂田さんの著書『気楽な稼業ときたもんだ』を読ませていただきましたが、なるほど、噂通りのモテ男だなと感じました(笑)。4回ご結婚なされているのが何よりの証拠です。

砂田:自分では特別なことだと全く思っていないんですけど、初めて聞かれた方はたいてい驚かれるんですよね。

−−ちなみに今の奥さんとはどこで出会われたんですか?

砂田:家内は、私が倒産する前に、異業種交流会で出会ったんですよ。私はそういうのがあまり好きじゃなくて、慶應の後輩にどうしても一回来てくれと頼まれたので行ったんです。するとそこに女性経営者とか、テレビ以外の人たちが大勢いて、違う業種の話を聞くのは面白いなと思いました。偶然なんですが、最初に行った時、今の奥さんが幹事をやっていて受付にいたんです。私は新参者だから一番端っこにいましたが、「この人、絶対前に会っているな」と本当に思ったんです。ケレン味がないですから、人がたくさんいるのに、「前にお会いしましたよね?」って大きな声で言ったんです。そうしたら「いえ、お会いしてません」と言われてしまって(笑)。立場がなかったんですけども、強烈な印象を受けました。彼女は野村證券で女性のトップだった人ですから、半端じゃないんです。それなのに、少女のようなピュアさがあって不思議な存在でした。

−−ファンドマネージャーのようなこともやっていらした?

砂田:そうです。だから損か得かの世界で生きてきた人なので、ジジイで、離婚3回もしていて、一文無しという私を不思議に思ったようです。そのうちに「砂田さん、何を食べているんですか?」と聞くから、「コンビニの弁当だとか、近くの安い店とかそんなものばっかりですよ」と答えました。そしたら、「そんなもの食べてちゃダメですよ。一番大事な年齢なんだから」という会話から交際が始まりました。全く別の世界で激しく生きてきて、でも根が同じだったんでしょう。今は幸せに毎日をおくっています。

−−波瀾万丈とも言えますし、人に真似できないような濃厚な人生ですよね。

砂田:悪いものじゃないですよ。波瀾万丈と言ったって面白かったですからね。

−−日本のテレビやエンターテイメントの絶頂の時代を生きてこられたわけですからね。

砂田:来年、確かテレビ放送が始まって60年なんですよ。そうすると各局昭和30年からのテレビ史の懐古番組をやるはずなんです。今度六本木でトークショーをやるんですが、私の今までのことをスピーチするんです。よくあるような経営者の成功談義ではなくて、ダメな男の面白い人生の話をする。色んな人間関係があるので、それを広げていって、その集大成で番組を作って局に売り込もうと思っているんですよ。それをTBS時代の部下と一緒にやりたいですね。

 それと、最近やっと芽が出てきたMASAKIというヴァイオリニストなんですが、この子が本当にいい子でいいもの持っているんですけど、さらにレベルを上げるために服部克久さんに全面的に協力してもらって。これからが楽しみですね。服部さんはいいですよね。決しておごりたかぶらないし、私は大好きです。服部克久さんと、宮川泰さん、前田憲男さんの3人とずっと仕事していたんですが、3人とも最高ですよ。

−−先ほどお話された「集大成の番組」とは具体的にどんな番組になるんでしょうか?

砂田:意外と大衆はテレビのことを知っているようで知らない面があるんですよ。特にテレビ創造期のことを知っている人はほとんどいないですから。そういうのが1つの物語になった番組ですね。あと、「今のテレビは酷い」というようなことをよく聞きますけど、テレビはそれ自体が変わっていくものなんですよ。だから昔と比較するのはナンセンスです。だって、インターネット番組がどんどん増えてきていますし、テレビ自体がどうなるかわからないんですから。

−−最後に音楽業界やテレビ業界に対してどのように思われていますか?

砂田:私はただ感心しています。特に今の音楽業界。というのは、やっぱりみんな歌が上手いですよね、リズムも感ありますし。私の時代のアイドルは本当にバカが多かったんですよ。今の子は少なくとも知的ですよね。

−−日本の音楽全体のレベルが底上げされたということですね。

砂田:そうですね。ただテレビはね。特にお笑い系タレントにものが言えないんですよ。立場の強いお笑いタレントなんかには、こっちから相談しているんですから。たまに今の若い人が「砂田さんの時代は良かったですね」なんて言うけども、時代のせいにしたらダメなんですよ。だけど、やはり私の場合は時代が良かったのは確かです。

−−それは間違いないですね(笑)。

砂田:だからテレビには色々注文はありますね。でも、今のテレビにも丹念に作っている番組がたくさんありますよ。放送作家出身で、秋元康とか小山薫堂とか素晴らしい人がたくさん出ているじゃないですか? その時代でどんどん変わっていく、テレビというのは、その世相を写す鏡みたいなものですよね。そういうものだと思います。

−−そんな中、砂田さんは未だに現役で頑張っていらっしゃることに驚かされます。

砂田:たぶん難しいのは、我々はみんな現役のつもりでやる。そうすると勘違いするんですよ。全て自分でやろうとすると、感覚がずれていて仕事なんてこないですよ。私は大きいところだけ押さえて、やっぱり40代、50代の人に頑張ってもらうわけですよ。そういうチームワークができているから成り立っているんですね。

−−本日は貴重なお話をありがとうございました。これからも砂田さん手がける作品を楽しみにしています。m.gif
(インタビュアー:Musicman発行人 屋代卓也/山浦正彦)
 型にはまらない大胆な仕事っぷりでテレビの歴史に大きく貢献された砂田さん。才能溢れる方々との交流はもちろん、砂田さんご自身の武勇伝など、お伺いしたお話の全てが刺激的で、あっという間に時間が過ぎてしまいました。この大胆さと話術も“モテ男”と呼ばれる由縁なのかもしれません。また60年近く、エンターテイメント業界に関わりながら、少しも薄れない好奇心と情熱、そして80歳とは思えない若さにも驚きです。テレビ放送60周年の記念すべき日に、砂田さんが制作された番組を拝見できることを心待ちにしています。