(テーマ音楽)北海道の中央部に連なる大雪山系。
7月。
高山植物が一斉に花開きます。
そこには日本一広いお花畑が現れます。
厳しい高山で生きていくためさまざまな工夫を凝らす花々。
受粉を成功させるため昆虫たちを巧みに利用しています。
大雪山系の短い夏。
花々が見せる命の輝きを見つめます。
2,000メートル級の山々が連なる大雪山系。
「北海道の屋根」とも言われます。
広さは神奈川県の面積とほぼ同じ。
いくつもの山が連なる事で平原のような緩やかな地形が生み出されています。
高山帯にある高原としては日本最大です。
大雪山系にはまだ大量の雪が残されていました。
雪解けは遅く7月。
一年のうちおよそ9か月は雪と氷に覆われる厳しい環境です。
夏。
平均気温が10℃を上回るようになると雪解けが一気に進みます。
日を追うごとに消えていく雪。
そこに突然お花畑が現れます。
植物は雪の下でつぼみを用意し雪解けとともにすかさず咲くのです。
200種類以上もの植物がまるで競い合うように一斉に花をつけます。
僅か2か月足らずの高山の夏。
植物はその間に花を咲かせ種を実らせねばならないからです。
この花咲く季節を待っていたのは北海道だけに生息するユキウサギです。
食べているのは咲いたばかりの花。
7月でも柔らかい花が食べられる高原にわざわざ登ってきたのです。
更に大きな動物もやって来ます。
母グマとまだ1歳に満たない子グマ。
花は柔らかい上に蜜の糖分や花粉のたんぱく質を豊富に含みこの上ないごちそうです。
お花畑の出現は動物たちに大切な恵みをもたらします。
競うように花をつける植物ですが高山地帯で種を実らせる事は実は容易ではありません。
そこには知られざる工夫が隠されています。
こちらは…一株に大量の花を咲かせ花粉を運んでくれる虫を待っています。
しかし気温が十分に上がらず虫が活動しない時があります。
そこでチングルマはある技を駆使しています。
利用するのは太陽です。
太陽の正面を向くように花を正確に動かしているのです。
それによって花の内側全体が暖まります。
つられてハナアブがやって来ました。
外が寒い時でも花の中で体を温める事で活発に動き始めます。
花から花へと虫が飛び回る事で花粉が運ばれチングルマの受粉が成功するのです。
また違った方法で虫を利用している花もあります。
こちらは…「く」の字に曲がった細長い花をいくつもつけます。
一つ一つの花は袋のようになっていて中には雄しべが隠れています。
雄しべがあるのはこの折れ曲がった辺り。
先端の小さな穴から花粉を外に出す変わった仕組みをとっています。
ヨツバシオガマがパートナーとして選んだ虫はマルハナバチ。
体に毛が生えているため寒さに強く高山で最も活発な虫の一つです。
ヨツバシオガマはこのマルハナバチを驚くべき方法で味方につけています。
マルハナバチが羽を閉じたまま細かく震わせています。
ヨツバシオガマはその震動をきっかけに先端から花粉をポロポロと落とします。
ハチのおなかは花粉だらけです。
こうしておなかにつけられた花粉が別のヨツバシオガマの花に運ばれ受粉が果たされるのです。
一方マルハナバチにとって花粉は食料でもあります。
足を使って体についた花粉をかき集めます。
そして後ろ足に集めて花粉のだんごを作ります。
時々口から蜜を出しては花粉のだんごを固め幼虫の食料として巣へ運ぶのです。
花と虫はお互いをうまく利用し合いながら厳しい高山の環境でたくましく生きています。
夏の午後。
山の天気はしばしば急変します。
平地の暖かく湿った空気が斜面に沿って上昇する事で冷やされ霧となるのです。
瞬く間に日が陰る高山のお花畑。
辺りは一気に気温が下がります。
それを受けてすぐさま対策をとる花があります。
直径1.5センチほどの…僅か5分で花びらを閉じます。
気温の変化を敏感に感じ取っているのです。
(雷鳴)突然降りだした激しい雨。
遮るもののない山の上では雨粒が荒々しく打ちつけます。
花びらは破れ大切な花粉を流されてしまう花もあります。
ところがリンドウは花びらをギュッと閉じて雨から花粉を守っています。
一株に十数個しか花をつけないリンドウ。
花粉を守るために天候の変化に対応していたのです。
再び晴れ間が戻ってきました。
気温が上がるとリンドウはすぐに花を開きます。
すると次々と虫たちがやって来ます。
他の花が雨の被害を受けた中花を守ったリンドウは多くの虫を集められるのです。
足早に過ぎていく高山の短い夏。
一面のお花畑が現れてから3週間がたっていました。
太陽の熱を利用して虫を集めていたあのチングルマです。
綿毛のついた種の姿に変わっています。
種はやがて風に飛ばされ新たな花園の一部となります。
ヨツバシオガマも受粉を果たし花の役割を終えようとしています。
まだ散っていない花にはマルハナバチが来ていました。
マルハナバチは来年の女王バチを育てるために8月いっぱいまで花粉を集め続けます。
大雪山系高山地帯のお花畑。
厳しい環境を生き抜くたくましい花々の姿がありました。
2015/09/06(日) 07:45〜08:00
NHK総合1・神戸
さわやか自然百景「北海道 大雪山系の夏」[字]
標高1700メートルほどの広大な高原が広がる大雪山系。7月の雪解けとともに日本一広いお花畑が出現する。そこでは花と昆虫が、知られざる特別な関係を保ち生きていた。
詳細情報
番組内容
北海道の屋根と言われる大雪山系。標高1700メートルほどの広大な高原地帯だ。7月中旬、高原では一気に雪解けが進み、日本一広いお花畑が出現する。花を食料とするユキウサギやヒグマは、麓の森からはるばる登ってくる。花自身は、短い夏に確実に種を結ぶために様々な工夫をこらす。熱で虫を呼ぶチングルマや、虫の合図で花粉を出すヨツバシオガマなど、昆虫との特別な関係を保ちながらたくましく生きる花の暮らしを見つめる。
出演者
【語り】松岡忠幸
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 自然・動物・環境
趣味/教育 – 旅・釣り・アウトドア
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz
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