ドキュメント 生命大躍進「第1集 そして“目”が生まれた」 2015.09.06


見たい。
…と思いませんか?はるか大昔のあなたのお父さんとお母さんを。
海の中を泳ぐこの生き物。
これこそ4億年前という大昔にいたあなたの祖先です。
もちろん今は地球上に存在していません。
最先端のコンピューターグラフィックスでリアルに描き出しました。
私たちはこんな生き物からどのようにして今の姿へと進化したのでしょうか?生命は悠久の時の中で少しずつ少しずつ姿を変えて進化したと長らく考えられてきました。
ところが今それだけでは説明のつかない事実が次々と明らかになっています。
その一つが私たちの手と足。
これまで考えられていたよりはるかに短い時間で進化した事が分かりました。
2010年ポーランドに残る太古の海岸の跡から動物の足跡が見つかったからです。
祖先の上陸の時期を1,000万年以上も早める大発見でした。
私たちの祖先はただのヒレを急速に変化させ手足を生み出していたのです。
更に人間を人間たらしめている巨大な脳も。
最先端の研究からなぜか200万年前に突如…。
祖先の脳が巨大化していた事が分かりました。
なぜ私たちの祖先に突然そんな進化の大ジャンプが起きたのでしょうか?21世紀科学はこの謎を解く鍵を私たち自身の体の中に見いだしました。
それは細胞の中にあるはるか祖先から受け継いできたもの。
この二重らせんの物質DNAです。
そこには私たちの姿形を定める膨大な情報が書き込まれています。
今最新テクノロジーにより人間をはじめさまざまな生き物のDNAが猛烈なスピードで読み解かれています。
するとDNAは時として激変しその結果突如巨大な脳や手足が作り出されるという進化の大ジャンプを引き起こしていた事が分かりました。
そんな進化の大ジャンプ大躍進が幾度かあった末に…今私たち人間がいるのです。
長い進化の歴史の中でヒトがヒトになるための決定的な鍵を3回のシリーズで描きます。
第1回は「目の誕生」です。
それは私たち動物に起こった最初で最大級の大躍進。
今からおよそ5億年前それまで目を持たなかった祖先が突如として精巧な目を持つように進化したというのです。
DNAに記されていた驚くべきドラマとは?さあ私たち人間に至る命の物語を始めましょう!カナダ西部のロッキー山脈。
標高3,000メートルを超える峰々が続きます。
この一角で地球で最初に目を持った生き物たちの化石が次々と見つかっています。
その場所を発見した…2012年キャロンさんたちは山火事でむき出しになった地層を偶然見つけました。
そこから目を持つ古代生物の化石が出てきたのです。
この現場での撮影が許されたのは私たちが世界で初めて。
むき出しになっているのは今から5億年以上前カンブリア紀と呼ばれる時代の地層です。
私たちの見ている目の前で化石が次々と現れます。
一つの岩から太古の生き物が6匹も現れました。
目はどうでしょうか?無数の足を持つ奇妙な生き物。
今まで見つかった事のない新種です。
頭の方を見ると少し色の濃い丸いものがあります。
大きさは3ミリ。
これこそはるか5億年前の目だとキャロンさんは言います。
こちらの目にはびっくりです。
ゾウのような鼻を伸ばした頭の上になんと5つも目があります。
この時代からは少なくとも30種類もの目を持つ生き物が見つかっています。
これは40億年に及ぶ生命の進化を木の形で表したものです。
根元にあるのは地球で最初に生まれた生命。
それが長い時間をかけさまざまに進化して植物や動物などに分かれていきます。
更に動物も魚からは虫類へと進化しついには人間が誕生しました。
この進化の道筋の中で目が最初に現れたのはここ。
5億年前のカンブリア紀です。
それはちょうど動物が爆発的に種類を増やした時代でもあります。
当時の最も進んだ目とはどんなものだったのか?キャロンさんにその化石を見せてもらいました。
こちらの化石ぬらすと奇っ怪な姿が浮き出てきました。
これは動物の上半身です。
アノマロカリスと名付けられています。
頭から左右に飛び出したもの。
これが目です。
しかも最近目の構造がより詳しく分かる化石も発見されました。
拡大してみると…小さな点が集まっています。
トンボの目そっくりです。
アノマロカリスの目は現在の昆虫と同じ小さな目が集まって出来た複眼と呼ばれる目でした。
よみがえれ!アノマロカリス!あっ!アノマロカリスは当時最大の肉食動物で50センチ以上に成長しました。
目は非常に大きく周りの世界を見て極めて上手に獲物を捕らえる事ができたでしょう。
アノマロカリスこそカンブリア紀最強の王者だったのです。
さあはるかな時間を遡り5億年前の地球へタイムトラベルしてみましょう。
太古の目を持った生き物たちはどんなふうに生きていたのでしょうか。
彼らが暮らしていたのは海の中。
カンブリア紀の海は命あふれる世界です。
不思議なトゲだらけの動物…こちらは刀を生やしたような動物…5億年前の地球は奇妙な生き物で満ち満ちていました。
地球に生命が誕生してから30億年以上もの長い間生命はずっと目に見えないサイズの微生物にとどまっていました。
ところがこのカンブリア紀に突如大きく複雑な姿をした動物へと進化していました。
この動物時代の幕開けに王者として君臨したのが…左右に突き出た2つの複眼。
一度に360度を見渡せる目で獲物を探し回ります。
こちらは3センチほどの小さな動物…目はユニークなひょうたん形。
この目なら上も下も同時に見る事ができたでしょう。
でも背後は見えません。
あっ!あの5つ目の怪物…これならあらゆる方向を見る事ができたでしょう。
しかし気を取られていると…。
より巨大な目を持つフルディアに襲われてしまいました。
アノマロカリスに次ぐ大きさの肉食動物です。
突如目が誕生したカンブリア紀。
動物たちにとって目は生き残りに欠かせない武器となっていました。
あるものは目を使って獲物を捕らえました。
あるものは目で敵をいち早く見つけ防御を図りました。
目の優劣が生死を分ける激しい生存競争の中で多種多様な目が生まれそしてさまざまな姿形の動物たちが爆発的に現れるようになったのです。
カンブリア紀にそれまで目を持たなかった動物たちが突如として目を獲得できたのは一体なぜなのでしょうか?この事は40億年に及ぶ生命の歴史の中でも最大の謎の一つとされてきました。
というのも化石からでは目の起源についてこれ以上詳しい事が分からないからです。
そんな進化の謎に全く新しいアプローチで挑んでいる研究者がいます。
ウォルター・ゲーリングさんは世界的に知られているDNA研究の先駆者です。
DNAとはATGCという4種類の文字で表される物質が延々と連なったものです。
人間の場合30億もの文字が並んでいます。
ゲーリングさんはこの膨大な文字の連なりから頭や胸手足など体の基本構造を作り出す重要な遺伝子を次々と発見しました。
その一つが目を作れという指令を出す遺伝子…ゲーリングさんが行った実験です。
ほ乳類であるネズミが持っているPax6遺伝子を昆虫のハエの胚に注入してみました。
すると…。
ハエのサナギの体にオレンジ色の出っ張りがいくつも出来ました。
実はどれも目です。
普通のサナギと比べるとPAX6遺伝子を注入したサナギでは羽や足などの部分に目が作り出されていました。
ほ乳類も昆虫と同じ遺伝子で目が出来る。
この驚くべき発見はほ乳類と昆虫の共通の祖先に目の起源があるという事を示す画期的なものでした。
実験から…それではほ乳類と昆虫の共通の祖先にあたる動物とは何なのでしょう?それはクラゲです。
最初に目を持った動物はクラゲのような動物だったと考えられています。
かさの縁の辺りをよく見て下さい。
この白い点がクラゲの目です。
クラゲの目を拡大してみましょう。
三日月形に見える黒い部分があります。
ここで明るい暗いを感じています。
クラゲはどうやって三日月形の黒い部分を持つようになったのか。
これを調べればきっと突如として目が誕生したという謎に迫れるに違いない。
そうゲーリングさんは考えました。
この謎を追う中でクラゲの原始的な目とそっくりなものを持つ意外な生き物と巡り会います。
それは日本の海にいました。
しかも夏の短い期間しか現れないといいます。
採取にあたるのは研究パートナーの…
(五條堀)狙いのやつが入ってるかどうかちょっとこれは顕微鏡で見ないと分からないんで。
まあしかしいい感じですよね。
顕微鏡で見ないと分からないほど小さいお目当てのものとは…。
あっこれ違う?これだよ。
これこれね。
これだね。
これですよ。
あっ今動いた動いた。
これだね。
うわ〜…これですよこれ。
狙っていたのは…小さなプランクトンです。
さあその姿をよくご覧下さい。
何やら見覚えのある三日月形の黒い部分があります。
クラゲの目と形がよく似ています。
更によく見ると…。
体の中に黄緑色に見える粒があります。
光合成をする時に使う…つまりウズベンモウソウは森の木々と同じ植物の仲間なのです。
そんなミクロの植物が持っていた三日月形の黒い部分。
ウズベンモウソウはこの部分で光を感知しています。
これはより効率よく光合成を行うために何億年もかけて進化させたいわば光センサーです。
植物であるウズベンモウソウの光センサーが動物であるクラゲの目とそっくりだった。
全く異なる進化の道を歩んできた両者が同じものを持つ事は普通はありえません。
これは同じものなのかそれとも他人のそら似にすぎないのか。
ゲーリングさんと五條堀さんはDNAにその答えを求めました。
(五條堀)じゃあお願いします。
ウズベンモウソウのDNAを詳しく調べます。
その結果極めて重要な遺伝子を発見しました。
それはロドプシン遺伝子。
この遺伝子はこんな複雑な形のタンパク質を作り出します。
これを私たち動物が目で使っているタンパク質と比べるとそっくりです。
束ねられた棒が7本という点まで一致しています。
このタンパク質は目に欠かせない特別な機能を担っています。
動物の目から取り出したタンパク質を使ってそれをご覧にいれましょう。
暗闇に置いたこのタンパク質に光を当てると…みるみる色が変わっていきます。
タンパク質のミクロの構造が光に反応し変化するのです。
このタンパク質があるのは目の奥深く。
その場所とは…光を感じ取るスクリーン網膜です。
ここに無数に敷き詰められています。
タンパク質の中央の部分に光が当たると…花が開くように形が変わります。
この反応のおかげで私たちは光を感じ世界を見る事ができるのです。
動物の目に不可欠なタンパク質とそっくりのものが植物であるウズベンモウソウから見つかった。
これは偶然ではなく必然に違いない。
ゲーリングさんと五條堀さんはある大胆な仮説にたどりつきました。
そういう可能性が極めて高い。
つまり私たちが言いたいのは…植物の作った遺伝子が種の壁を超えて動物に移動する。
まさにこれまでの進化の常識を根底から覆す考えでした。
なぜなら進化は親から子へ子から孫へとDNAが伝えられる中で変化して起こると考えられてきたからです。
これを否定するかのような2人の仮説。
そんな事があるのでしょうか。
ところが2014年驚くべき発表がありました。
植物から動物へ遺伝子が移動したという実例が初めて見つかったというのです。
その生き物はボストン近郊の浅瀬に住んでいる4センチほどの動物。
ウミウシの一種です。
このウミウシ餌を食べなくても光を浴びるだけで生きる事ができます。
動物なのに葉緑体を持っていて光合成ができるのです。
なぜなのか?ウミウシのDNAを調べました。
光っているのはなんと海藻の遺伝子です。
このウミウシはもともと海藻が持っていた遺伝子を自分のDNAに組み込み光合成できるように進化していたのです。
植物である海藻から動物であるウミウシに遺伝子が移動したという今回の発見。
これと同じ仕組みで太古にも植物であるウズベンモウソウから動物であるクラゲに種の壁を超えて遺伝子が移動しても何ら不思議はありません。
それだけではありません。
更にクラゲとウズベンモウソウとの間に意外な結び付きがある事も分かってきました。
うまく捕れるといいですよね。
あっひょっとしてそれじゃないですか。
そこにいる。
こちらは…捕まえて詳しく調べてみましょう。
捕れましたよ。
捕れました捕れました。
顕微鏡で見ると…。
体の中に茶色い粒が見えます。
実はこの一粒一粒が…生きたクラゲの体内にウズベンモウソウが入り込み共生しているのです。
クラゲとウズベンモウソウとの意外な接点。
両者がここまで近い関係にある事から大昔に遺伝子が移動したに違いないと五條堀さんは確信しています。
そういうふうに考えています。
さあはるかな時間を遡りゲーリングさんと五條堀さんが描き出した私たちの祖先に目が誕生した瞬間へタイムトラベルしてみましょう。
あのカンブリア紀よりも前。
海にはクラゲのような動物たちが生きていました。
まだ目は持っていません。
その周りにはロドプシン遺伝子を持つ植物プランクトンがたくさんいます。
こうした植物プランクトンは当時の動物たちの餌となり時には共生もしていたと考えられています。
ある日その一つが体内奥深くにある子孫を残すための細胞生殖細胞の中に偶然入り込みます。
そして植物のDNAがまき散らされました。
この中にあのロドプシン遺伝子がありました。
植物が光合成をより効率よく行うために何億年もかけて作り上げた光センサーの遺伝子です。
そして奇跡が起こります。
植物のロドプシン遺伝子が動物のDNAと結合。
この瞬間植物の宝物である光センサーの遺伝子を私たちの祖先は手に入れたのです。
やがてこの遺伝子が活用され最初の目が誕生。
祖先は初めて明るい暗いを感じられるようになりました。
こうして目の誕生という大躍進が成し遂げられ私たちは光ある世界へと導かれたのです。
目を持った動物たちはその後さまざまな姿形に進化していきます。
一方は昆虫やカニエビなどへ進化していったグループ節足動物です。
カンブリア紀の王者アノマロカリスなどはその仲間です。
もう一方が脊椎動物。
魚からは虫類そして私たち人間へと進化していったグループです。
私たち脊椎動物の最も原始的な祖先も目が誕生した時代カンブリア紀に生きていました。
それはこんなひものような姿をしていました。
名前は…僅か3センチほどの小さな動物です。
その目はクラゲの目とほとんど同じ。
明るい暗いを感じる程度の原始的なものだったと考えられています。
突如現れたのは節足動物の王者アノマロカリス。
ピカイアは原始的な目でその影を感じ素早く砂の中に身を潜めます。
しかし物の形まで見えている訳ではありません。
だから影も落とさずに接近されると…。
私たちの祖先は立派な目を持ち繁栄を極める節足動物におびえて生きるかよわい存在だったのです。
ところがその1億5,000万年後…。
私たち脊椎動物は劇的に姿を変えていました。
これが新時代の海の王者の化石だよ。
カンブリア紀に僅か数センチだった私たち脊椎動物は進化の末ここまで巨大になりました。
目を守る丸い形の骨。
中には直径10センチの大きな目玉が収まっていました。
よみがえれ!ダンクルオステウス!体長は最大10メートル。
まさしく海の王者です。
一方カンブリア紀の海を支配した節足動物の末えいたちはどんな姿に進化していたのでしょうか。
これが節足動物の王様だ。
それがこちら。
大きさ2メートルを超える…巨大なハサミを持っています。
よみがえれ!ウミサソリ!生命史上最大級の巨大複眼を持ち…。
まるで戦車のように硬い殻で全身を守っています。
節足動物もより大きく強く進化を遂げていました。
もしダンクルオステウスとウミサソリが戦ったらどうなったのか。
科学者が考えた究極の対決をご覧に入れましょう。
まずは私たち脊椎動物の王者ダンクルオステウス。
猛然と迫ります。
対するは節足動物の王ウミサソリ。
大きなハサミで立ち向かいます。
果たして勝者は!?その戦いは脊椎動物の王者の圧倒的な勝利だったといいます。
節足動物の天下をひっくり返し大逆転した私たち脊椎動物。
勝敗を分けたのは目です。
実は祖先の目は第二の大躍進を遂げ高性能化していました。
ダンクルオステウスの目は人間と同じつくりでした。
カメラ眼と呼ばれています。
その構造です。
大きなレンズがあり光を集めます。
そして奥には解像度の高いスクリーン網膜があってここに像を結ぶ事で物の姿形を捉える事ができます。
既にそのカメラ眼を持っていたダンクルオステウス。
視力は高く遠くからでも敵の姿や動きを的確に見極めた事でしょう。
一方節足動物が持つ複眼はどうでしょうか。
一度に広範囲を見渡せるというメリットはありますが視力となると…。
ぼんやりとしか見えなかった事が複眼の構造の研究から分かっています。
ダンクルオステウスは最大4トンにまで成長しました。
大きなアゴそしてよく見える目が重要な武器でした。
もしウミサソリと出会えばたやすく夕食にした事でしょう。
私たち脊椎動物はアゴそしてよい目のおかげで成功したのです。
明るい暗いしか分からなかったピカイアの原始的な目。
一体どんな魔法でカメラ眼への第二の大躍進を果たしたのでしょうか。
今DNA解析の著しい進歩がこの魔法を解き明かしつつあります。
実はフロリダの海に5億年前のピカイアの生き残りといわれる珍しい生き物がいます。
その住みかは浅瀬の海底です。
シャベルで海底の砂をすくい上げると…。
ほら出てくるわよ。
白っぽいひものようなものが現れました。
このナメクジウオに光を当てると…反応しました。
頭部を拡大すると見える小さな黒い点。
これがナメクジウオの目です。
暗い明るいを感じられる程度でまさにピカイアの原始的な目そのもの。
ナメクジウオは遺伝子もピカイアの生き残りと言えるくらい似ていると考えられています。
そこで2008年ナメクジウオのDNAを全て解読。
それをカメラ眼を持つ脊椎動物の代表である人間のDNAと比べたところ意外な事が分かりました。
祖先筋にあたるナメクジウオとヒトのDNAを比べてみました。
すると……という例が驚くほどたくさん見つかったのです。
例えば体の基本構造を作り上げるHOX13と呼ばれる遺伝子。
ナメクジウオには1個しかありませんがヒトは4個持っていました。
更に目を形づくる時に重要なEYAという遺伝子もナメクジウオには1個しかありませんがヒトにはやはり4個ありました。
なぜヒトでは遺伝子が4個ずつあるのか。
プロジェクトが導いたのは驚くべき結論でした。
ナメクジウオのような姿の祖先から人間に進化するまでのおよそ5億年間のどこかで…持っている遺伝子のセットが丸ごと4倍に増えるような事件が起きていたというのです。
この遺伝子の4倍化は生き物たちにどんな影響を与えたのでしょうか。
実は4倍化を果たした最も原始的な魚が北海道の清流に暮らしています。
地元の漁師さんが川に仕掛けた籠を引き上げます。
ウナギのような魚に見えますが…。
(岸)ちょっと普通のウナギとは違うんですよね。
不思議な事に籠に吸い付きました。
まるで吸盤のようです。
この生き物ヤツメウナギと呼ばれています。
特徴は口。
実はアゴがありません。
普通の魚は皆アゴを持っています。
だからこそ獲物にかみつき食べる事ができます。
アゴをまだ持たないヤツメウナギは遺伝子の4倍化を起こして間もない大昔の魚の特徴を残していると考えられています。
注目すべきは目。
そう既にカメラ眼を持っています。
ヤツメウナギは現在知られている中でカメラ眼を持つ最も原始的な生き物なのです。
このヤツメウナギの目を徹底的に調べカメラ眼と遺伝子の4倍化との関係を解き明かそうとする研究者がいます。
3年がかりでヤツメウナギの目のどこでどんな遺伝子が働いているのかを調べました。
そしてカメラ眼のスクリーンにあたる網膜の部分で4倍化で増えた遺伝子が巧妙に働いている事を発見しました。
その遺伝子とはEphBとEphCの2つです。
ヤツメウナギのカメラ眼をまず縦方向にスライスし網膜を調べます。
「コ」の字型に見えるのが網膜です。
EphB遺伝子の働きの強さを赤色で示すと下ほど強くなっています。
次に横方向にスライスして調べてみます。
EphC遺伝子の強さを青色で示すと右ほど強くなっていました。
つまり網膜全体で見ると赤の遺伝子は上下で青の遺伝子は左右で働く強さが変わります。
実はこれこそカメラ眼実現の決め手です。
2つを重ね合わせ働きの強さを数字で示して見てみましょう。
すると左上の隅は赤1青1。
その下は赤2青1。
右下の隅は赤8青8。
というように全ての位置をこの2種類の遺伝子の働く強さで表す事ができます。
この2つの遺伝子があるおかげで光を感じる細胞の位置が分かるため私たちは網膜上のどこに何が映っているのかを正確に捉えられるようになったのです。
私たちが日々使っているカメラ眼。
それは大昔に祖先に起きた遺伝子の4倍化のおかげで極めて精巧に進化した目だったのです。
私たちの目に第二の大躍進をもたらした遺伝子の4倍化。
さあはるかな時間を遡り運命の瞬間を目撃しにタイムトラベルしてみましょう。
それはあのピカイアが生きていたカンブリア紀の初めの頃。
当時私たちの祖先は明るい暗いしか分からない原始的な目で生きていました。
海底に産み落とされた卵にオスが精子を振りかけています。
普通精子は父親のDNAの半分を持ち卵子は母親のDNAの半分を持っています。
そのため子どもには両親と同じ量のDNAが受け継がれます。
しかしこの時は偶然にも驚くべき事が起こります。
親のDNAを半分ではなく丸ごと持つ精子や卵子が作られたのです。
この精子と卵子が出会って受精。
親の2倍の量のDNAを持つ受精卵が出来ました。
通常よりも大量の遺伝子を含むこうした受精卵は普通余分な遺伝子が悪さをしてうまく育ちません。
ところがこの時は偶然にも生き残るための条件が満たされ2倍のDNAを持つ子どもが無事誕生しました。
そして世代を重ねるうち驚く事にこの奇跡が再び起こります。
2倍のDNAを持つ親から2倍の精子と2倍の卵子が作られたのです。
そして4倍ものDNAを持つ子どもが誕生しました。
これこそ私たちの祖先です。
その体には進化の上でのとてつもない潜在力が秘められていました。
遺伝子を4倍も持つというとてつもない潜在力はその後画期的な器官を生み出します。
それがカメラ眼です。
おかげで私たちの祖先は外の世界を鮮明に見天敵から逃れられるようになりました。
DNAの4倍化が導いた原始的な目からカメラ眼への進化の大ジャンプ。
まさに祖先たちの運命を変えた大躍進でした。
カメラ眼はその後も恐竜ほ乳類などあらゆる脊椎動物によって大切に大切に受け継がれていきます。
そして今そのカメラ眼を最も活用している生き物が私たち人間です。
私たちはこの目で文字を読み幾多の発見や発明を成し遂げて今日の文明社会を築いてきました。
植物からもらった遺伝子。
そしてDNAの4倍化。
今を生きている私たちは5億年というはるかな昔に奇跡のような偶然が起こったからこそこうして存在している。
私たちに至る命の物語にはそう記されているのです。
2015/09/06(日) 00:50〜01:50
NHK総合1・神戸
ドキュメント 生命大躍進「第1集 そして“目”が生まれた」[二][字]

なぜ私たちは、今ここに生きているのか? 人間に至る壮大な進化の物語を、最先端科学ドキュメントと、太古へのタイムトラベルCGで描く。その第1集は“目の誕生”の秘密

詳細情報
番組内容
なぜ人は今ここにいるのか? 21世紀この進化の謎に迫る画期的な手段を手にいれた。それは40億年前の地球最初の生命から私たち人間まで途切れることなくつながっている命の記録DNAだ。そこには驚きの物語が記されていた。人間に至る壮大な進化の物語を、最先端科学ドキュメントと、太古へのタイムトラベルCGで描く。第1集は「目の誕生」の物語。5億年前、祖先は突如目をもち進化の大躍進を始めた。いったいなぜなのか
出演者
【声】マレー・ジョンソン,樫井笙人,河本邦弘,幸田夏穂,【語り】伊藤雄彦,久保田祐佳,マイケル・リース

ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 自然・動物・環境
ドキュメンタリー/教養 – 宇宙・科学・医学

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
日本語
サンプリングレート : 48kHz
2/0モード(ステレオ)
英語
サンプリングレート : 48kHz

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