難民問題、中央しのぐ地方の積極姿勢

ポルトガルのバターリャでは難民に仕事を提供する企業が2社あらわれた。写真は現在650人の従業員を増やす方針を示した陶器メーカーのエグゼクティブディレクター ENLARGE
ポルトガルのバターリャでは難民に仕事を提供する企業が2社あらわれた。写真は現在650人の従業員を増やす方針を示した陶器メーカーのエグゼクティブディレクター Photo: Patricia Kowsmann/The Wall Street Journal

 【バターリャ(ポルトガル)】欧州連合(EU)が難民危機の高まりに共通の政策で対処する方法を見つけあぐねている中、大陸で最も貧しい国のひとつ、ポルトガルの小さな町バターリャがいち早く歓迎すべき計画を打ち出した。

 ここでは難民に仕事を提供する企業が2社あらわれた。また、パウロ・バチスタ・ドス・サントス首長は、児童の追加受け入れと、使用されていない建物2棟を仮住居にすることで、学校関係者から合意を取り付けた。

 そして、ドス・サントス氏は首都リスボンに対し、人口1万6000人のバターリャに少なくとも4世帯の難民を受け入れる計画を伝えた。ただ、リスボンからの返答は同氏を落胆させるものだった。

 ドス・サントス氏は「彼ら(中央政府)は私たちの提案にどう反応していいか分からないようだった。ポルトガルと欧州連合(EU)が共通の政策を導き出した後に、彼らがそれを実行するだろうと述べていた」と話した。「共通の政策が有効なのは理解できるが、ここで問題なのは(難民受け入れの)枠組みではなく、私たちが共有する人権と価値観なのだ」

バターリャのドス・サントス首長 ENLARGE
バターリャのドス・サントス首長 Photo: Patricia Kowsmann/The Wall Street Journal

 ポルトガル国内外で、ドス・サントス氏のような地方自治体の幹部が独自の受け入れ計画を打ち出している。彼らはシリアなど紛争地域から逃げ出す難民の流入に対する中央政府の反応が、全体として鈍いと感じているのだ。

 利他主義だけでなく、人口動態も難民受け入れの動機になっている。年配の住民が現役から引退し、若者が大都市に出てより良い機会を求める中、小都市や町の多くは労働力不足に直面している。

 ポルトガルは国際支援プログラムで予算の大幅削減を強いられ、その後3年間はリセッション(景気後退)に追い込まれたが、昨年に同プログラムから脱却した。同国政府は先週、1500人の難民受け入れを提案した。

 これに対し、国連と連携している民間団体、ポルトガル難民評議会は「もっとできる」と言わざるを得なかった。評議会によると、20以上の地方自治体、600以上の世帯が住居や社会福祉を提供することで難民を受け入れると申し出た。ポルトガルのカトリック教会は1教区に1世帯、合計で4000世帯を受け入れる案を提出した。

EUの行政機関である欧州委員会のユンケル委員長は新たに難民受け入れ枠を設定する計画を提案した

 リスボンの中央政府は、まだ経済力が弱いために制約があると述べながらも、受け入れ数を引き上げる可能性を示唆した。

 アイスランド政府はシリア難民の受け入れを50人に制限したが、「シリア・イズ・コーリング」として知られる地元団体からの圧力に直面している。同団体は1万7000人から支持を得た フェイスブック FB 0.08 % のアカウント上で、「私たちは政府を突き動かしたい。私たちの方がうまくできることを示したい」と述べた。

 アイスランドの福祉相はフェイスブックで、同国が受け入れ枠を増やすだろうと述べたが、何人増やすかについては触れられていない。首都レイキャビクのエガートソン市長は公共放送局RUVを通じ、同市には追加で難民を受け入れる意志があると述べたが、こちらも具体的な数字には言及しなかった。

 スペインでは、保守的な中央政府が出した当初の提案は2749人しか受け入れないというものだった。これに対し、同国2大都市の急進左派政府は不十分だと非難の声を上げた。

ポルトガル中部に位置するバターリャの町 ENLARGE
ポルトガル中部に位置するバターリャの町 Photo: Patricia Kowsmann

 首都マドリードでは、市の職員が英語で「難民歓迎」と書かれた大きな標語を市庁舎に掲げた。関係者によると、市政府は追加で1000万ユーロ(約13億6300万円)を投じ、難民のための住居や医療サービス改善にあてがう計画だ。

 バルセロナ市長は食料や住居の寄付の申し出を登録するためのメールアカウントを開設した。また、市の職員は住人と民間支援団体を引き合わせる活動を行っている。

 スペイン政府は9日に受け入れ人数を大幅に引き上げ、合計1万7680人にすることで合意した。これは大量の移民を域内で分担して受け入れるEUの計画の一環だ。

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