記録的な大雨が東日本各地に甚大な被害をもたらした。茨城県と宮城県では、河川の堤防が決壊した。濁流が家を押し流し、田園や街が泥に沈んだ。

 行方不明者の安否が気遣われる。長時間にわたり自宅などに孤立し、助けを待つ人たちもいる。政府はあらゆる組織を動員し、人命救助と物資・医療の支援に全力をあげてほしい。

 栃木県では、数日間に1カ月分の2倍を超える雨が降った。地球温暖化との関連が疑われる極端な気象現象はもはや想定外とはいえない。あらゆる事態を念頭におき、社会の備えを不断に見直す努力が必要だ。

 今回、とりわけ広範な災害を生んだのは河川の決壊である。地元当局者らからは「あまりの水量で堤防が耐えきれなかった」「まさかあそこが切れるとは」などの発言が聞かれる。

 確かに日本各地の主要河川流域は、長年の治水工事の積み上げで安全度が高まったが、そこに過信はないか。過去になかったような雨量や水量が起こりえる今、むしろ河川は常にあふれたり、堤防が崩れたりしかねないものと考えるべきだろう。

 国土交通省は、2012年の米国でのハリケーン被害で効果があったとして、関係者が事前にとるべき対応を時系列でまとめた行動計画(タイムライン)づくりに取り組んでいる。

 例えば、風水害の発生を「0時」として、「96時間前/ホームレスへの注意喚起」▽「24時間前/休校の決定」▽「決壊直前/職員の退避」。今は東京都の荒川下流域などでの限られた試行だが、全国に広げたい。

 今回、避難指示のタイミングや対象地域は適切だったのか。検証も必要だろう。

 鬼怒川が決壊した茨城県常総市は未明に一部地区に避難を指示した。早めの対応だった。

 ただ、肝心の決壊地区への指示は午前10時半だった。別の場所で川があふれたのは午前6時過ぎ、気象庁の特別警報は午前7時45分だ。どんな判断の流れで現地への指示が遅れたのか。

 市東部は鬼怒川と小貝川の1級河川に挟まれ、かねて水害が多い。地元の記憶は防災に役立つ。住民の中には、避難勧告が出ていなくても、自主的に避難した人もいたようだ。

 いざ災害が起こりかねない事態では、できるだけ自分の命を自分で守る基本動作が大切だ。

 そのためにも、テレビやラジオ、自治体の防災メールなどで情報を集め、家族らとともに機敏に避難する心の備えをもっておく。台風シーズンが続く今、その原則を再確認したい。