2015年9月11日05時00分
居酒屋チェーンのワタミが介護事業の売却交渉に入った。「ブラック企業」批判で収益が悪化し、苦渋の撤退を強いられる形だ。成長分野とされる介護事業には異業種企業の参入が相次いでいるが、人手不足などで事業に難しさも出てきている。
「2年前までは業界トップクラスの入居率だったのに……」。ワタミ幹部はそう肩を落とす。
居酒屋「和民」を中心に全国で500以上の飲食店を構え、上場企業の信用力も背景に「広告を打てばお客さんが来る状況だった」というワタミの介護事業。2004年に参入し、有料老人ホームや通所施設など125カ所を展開。利用者数を順調に伸ばしてきた。
風向きが変わったのは13年の夏ごろ。ワタミの社員向け冊子に「365日24時間死ぬまで働け」と書かれていたことや、新入社員が過労で自殺したことがネットなどで取りあげられ、「ブラック企業」のイメージが広がった。
その頃、創業者の渡辺美樹氏が参院選で初当選。メディアで「レッテル貼りだ」と反論したり、反省の弁を述べたりしたが、傷ついたブランドの回復は進まず、主力の「和民」で客離れを招いた。介護事業にも逆風で、93%あった有料老人ホームの入居率は現在、78%まで落ち込んでいる。
ワタミの15年4~6月期決算は営業損益が9億円の赤字、純損益も15億円の赤字と、98年の東証上場以来最悪となった。介護事業の営業損益も、前年同期の7億円の黒字から、1億円の赤字に転落した。
ワタミは介護事業について損害保険大手の損保ジャパン日本興亜ホールディングスや、パナソニックなどと売却交渉中とみられる。外食事業でも不採算の85店を閉める方針で、黒字転換に向けて立て直しを急ぐ。
■異業種続々、激戦に
介護事業にはワタミ以外にも「異業種」の参入が相次いでいる。高齢化で成長市場と期待されているからだ。市場規模は10兆円(介護保険サービスの給付ベース)。団塊の世代が75歳以上になる2025年には、20兆円と試算されている。
ワタミの介護事業の買収に名乗りをあげている損保ジャパン日本興亜ホールディングスは今年3月、有料老人ホームや在宅介護などで業績を伸ばす業界大手の「メッセージ」に出資。明治安田生命保険や、ソニー生命保険を傘下に持つソニーフィナンシャルグループなども参入している。
パナソニックは昨年2月、「サービス付き高齢者向け住宅」の建設や運営に本格参入。今後10年で売上高を7倍の2千億円規模に引き上げる目標を掲げる。
警備大手の綜合警備保障や住宅事業の積水化学工業、牛丼の「すき家」を経営するゼンショーホールディングスも昨年、介護関連の会社を買収した。イオンは店舗に併設する通所施設を今年から本格展開する。
ただ、相次ぐ参入で競争も厳しくなっているうえ、公的な介護保険がカバーする領域が多く、国の財政難で介護報酬の増加も見込みにくい。夜勤や重労働の割に給与水準が伸びず、慢性的な人手不足も課題だ。
みずほ銀行産業調査部の吉田篤弘調査役は「本業と組み合わせて、介護保険外のサービスで多様なニーズに応えていくことがカギだ」と指摘する。(岡林佐和)
■異業種から介護事業に参入した主な企業
<パナソニック>
1998年に参入。関西で有料老人ホームなどを展開
<ベネッセHD>
2000年に参入。有料老人ホームを中心に展開
<ワタミ>
04年に参入。首都圏を中心に有料老人ホームなど125施設
<損保ジャパン日本興亜HD>
12年に参入。介護サービス大手などに出資
<イオン>
13年に参入。店舗に併設する通所施設を首都圏で3カ所展開
<ゼンショーHD>
14年に参入。北海道でサ-ビス付き高齢者住宅など19施設
(HDはホールディングス)
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