[PR]

 日本を代表する高級ホテル「ホテルオークラ東京」(東京都港区)の本館が建て替えられることになった。半世紀以上、国内外の賓客を迎えてきたが、老朽化が進み、営業は今月末で休止する。数々の意匠を凝らした建物の取り壊しを惜しむ声も上がっている。

■世界の要人が愛用、惜しむ声相次ぐ

 「オークラ・ランターン」と呼ばれるつり下げ式の照明に、梅の花を模した机と椅子が配置されたメインロビー。東宮御所にも使われた多胡(たご)石でできた波状紋の壁。本館は「日本モダニズム建築の最高傑作」とも言われた。建築家の故・谷口吉郎氏が設計委員長を務めた。

 東京五輪を2年後に控えた1962年5月に開業。川端康成や司馬遼太郎が足しげく通い、米国の歴代大統領や英チャールズ皇太子とダイアナ妃、マイケル・ジャクソンやジョン・レノンも利用した。

 計画では、11階建ての本館(408室)を取り壊した跡地に41階建てと16階建ての2棟を建設し、計510室程度に増やす。開業は2019年の予定だ。別館は本館建て替え中も営業を続ける。

 ホテルの広報担当者は、理由を「設備の老朽化により、トップホテル相応の快適な時間と空間を提供し続けることが難しくなった」と話す。本館の8割の客室は30平方メートル台。他の高級ホテルに比べて手狭な上、近隣に高層ビルが次々と建ち、眺望も悪くなった。

 ここ数年、外国人観光客の増加で業績も回復傾向だ。五輪開催が決まり「世界のVIPを迎えて国際的な認知度を高めたい」との狙いもある。標準的な客室は50平方メートル前後になるという。

 一方で、昨年5月に建て替えが発表されると、本館取り壊しを惜しむ声が相次いだ。

 国際的な近代建築の顕彰組織「DOCOMOMO(ドコモモ)」日本支部は今年7月、計画の再考を求める要望書をホテルに出した。代表の松隈洋・京都工芸繊維大教授(近代建築史)は「敗戦後の日本が東京五輪で国際社会に復帰する際に、日本人の設計で、日本人の手によって建てた結晶。本当にもったいない」と訴える。

 イタリアの高級ブランド「ボッテガ・ヴェネタ」のクリエーティブ・ディレクター、トーマス・マイヤー氏は同社のサイトで「伝統的な職人技が随所に用いられているのにとてもモダン。保存されることを願っている」と発言した。ホテルで撮影した写真を画像共有サービス「インスタグラム」に投稿するよう呼びかけ、投稿は4千件を超えた。米ニューヨーク・タイムズやワシントン・ポスト、英エコノミスト誌も建て替えに批判的な社説や記事を掲げた。

 谷口氏の長男で、建て替えに共同設計者の一人として参加する谷口吉生さんは「ロビーは現在のものを復元しつつ、現代にふさわしいものとして生まれ変わらせる。ホテル2棟と(敷地内にある美術館の)大倉集古館に囲まれた広場も設計する。歴史を継承すると同時に、次の50年、100年も生き続けられるデザインを目指す」とホテルを通じてコメントを出した。

■都心の老舗高級ホテル、相次ぐ改修

 東京都心の老舗高級ホテルは近年、歴史の継承にも気を使いながら、相次いで大規模な改修を進めてきた。

 ホテルオークラとともに国内ホテルの「御三家」と呼ばれる帝国ホテル東京は、2010年までの7年間で約180億円をかけ、全室の内装を一新するなど本館を改修。14~16階には専任の「ゲストアテンダント」を配置するなどサービス面の向上にも気を配った。

 もう一つの御三家のホテルニューオータニも、07年までの2年間で約100億円をかけて大規模な改修を実施。12階と11階の87室は「禅」をテーマにしたフロアで、国内外の富裕層の取り込みを図ってきた。

 客室窓を大きくするため、外装に大型ガラスを採用。元の壁面から色調が変わらないよう特注したという。広報担当者は「お客様に慣れ親しんで頂いている見た目を大きく変えないようにした」と話す。(藤原学思、遠藤雄司)