戦後70年の節目に行われた「安倍談話」について中国が大きな反応を示さなかったのも、こうした事情によるものだろう。
対日感情がガラリと変化
市民は「反日」に飽きつつある?
一方で、軍事パレードと前後してデマも飛んだ。「安倍首相が辞任した」というニュースがスマートフォンに着信したり、習近平国家主席の画像に「私は国民に3日間の休日を与えたが、これは訪日旅行に行かせるものではない」など偽のテロップをつけた悪戯も出回った。
この仮想空間での悪戯に相反して、日本はこの連休も中国人観光客でにぎわった。銀座四丁目の化粧品専門店は「軍事パレードのさなかも商品は売れた。政治的な動きがあったとしても、もはや日本の商品への信頼を損なうものではない」と手ごたえをつかんだ。
確かに習近平の演説の核となったのは「抗日」だが、それが「反日」に転化することはなかった。上海でも「過去は忘れない」という声はあちこちで聞くことはあったが、「今の日本や日本人を恨む」というような反日的な発言はほとんど耳にしなかった。
こうした態度の軟化には、重要演説の影響があるだろうが、上海ではそれ以上に市民が「反日」に飽きてきた可能性がある。もともと政治よりも経済、理屈よりも実利を志向する上海人である。反日を唱える以上に、むしろ訪日旅行を軸にした新たな日中関係に活路を見出したとさえいえるのだ。
その上海は、日本人の想像を上回る「一大日本ブーム」が訪れていた。今や日本は中国人が選ぶ三大観光目的地のひとつにまで格上げされ、日本は「行かなければ話題に取り残される」(上海市在住の50代主婦)ほどの人気スポットになった。
2014年、訪日中国人がもたらした消費は前年比2倍の約5600億円、今年はさらにそれを上回る勢いを示しているが、中国人の生活に日本製品が深く入り込んでいることに、もう疑問の余地はない。そして訪日旅行は今や富裕層から中間層に、さらには沿海部から内陸部にまですそ野を広げている。
滞在中、よく耳にしたのは「民衆は同じ」という意味の言葉だった。「戦争は民衆を犠牲にしたという点では、中国人も日本人もない」と述べる上海市民は少なくなかった。数年前、それこそ3年前の9月には、上海でさえこうした寛容さは皆無だった。もちろん、中国にはまだまだ反日色が強い地域もある。だが、地域差が存在するにせよ、以前のように国民が一律に反日であるとは限らない。中国の国民感情はすでに「反日一色」ではなくなってきているのだ。
中国人にとって日本は永遠の敵であり続けることができるのだろうか――。そんなことを実感した「抗日戦勝記念日」であった。