上海の街もいつもと変わらなかった。国家の慶事となれば街中に掲げられる国旗も、なぜか今年は目立たなかった。この時期売られていても不思議ではない国旗をモチーフにした商品もない。「反ファシスト闘争70周年記念グッズ」は、外国人向けのニセモノ専門店でわずかに数種類が売られていたのを目にした程度だ。
メディアは相変わらずの「抗日大特集」
ただし論調は3年前より大幅に軟化
一方、テレビや新聞のメディアは「抗日特集」を頻繁に繰り返していた。中国中央テレビ(CCTV)は明けても暮れても「戦後70年」を大々的に特集し、人民日報傘下の「環球時報」も数日間にわたり「抗日戦争」を集中的に掲げた。
だが、ここにも「トーンの変化」が生じていた。「環球時報」といえば、共産党機関紙・人民日報をバックボーンに据える全国紙で、日本人が理解するところの“右傾化メディア”である。これまで国民に「反日」を刷り込む急先鋒として、扇動的な役割を果たしてきたその「環球時報」が、対日批判を和らげたのである。
3年前の2012年9月の記事と比較してみよう。尖閣諸島をめぐって日中関係の悪化が最高峰に達したあのとき、同紙社説はこう述べていた。
「我々は決心を固め、実力でこの日中間の領土問題を最終的に解決する。平和的解決は中国の最高の目標だが、このようなやり方は摩擦をもたらすだけであり、中国は十分な準備を進める必要がある。全面対決に至る可能性があるが、自信を持って不退転の決意でやりとおすのだ」
当時、社説は平和的解決を否定し、短期間のうちに国民の愛国心を焚きつけ、日本との全面対決を国民に覚悟させることに成功した。同時にそれはジリジリと日本の立場を追い詰めて行くものでもあった。
また、連日の社説は、政治、外交、経済、軍事の全方位から対日制裁を強調し、“敵国日本”を際立たせ、日本という悪者を退治することで世界の覇者に君臨しようという論法を展開させた。
当時、経済成長率は2011年の9.3%から2012年は7.76%に鈍化したとはいえ、中国では「下振れは一時的」との見方がまだまだ強く、“過剰な自信”が支配的だった。そこには明らかに「大国に成長した中国は、もはや日本から得るものはない」という驕りも垣間見えた。
ところが、今年9月4日の社説は習近平国家主席の重要演説に倣い、「平和」を強調するようなものにガラリと変化する。