ところが、いざ試験運用をしてみると、悪天候時で船が大きく揺れると、頻繁にSOS信号が発せられた。遭難ではないのに出動しなければならないという煩わしい状況になり、海洋警察庁は大統領賞までもらった「世界初」のSOS自動発信機能をこっそりと切ってしまった。安全装置を十分な検証もせずに数百億ウォンかけて慌ただしく導入したのも問題だが、問題があるからと言って改善することなく厄介者扱いし、放り出したのはもっと理解に苦しむ。導入時に声高に宣伝しておきながら、装置を切る時はそんな物が存在しなかったかのようにコソコソやるとは、いったい何のための審査だったのか。このため、漁業関係者の中には、今でもこの機能が作動していると勘違いしている人もいる。トルゴレ号の船長もそうした一人だったのかもしれない。さらに、海洋警察庁はSOS自動発信機能を遮断した後も、同機能などの追加で従来の装置よりも単価が上がったV-PASSをさらに約1万台、漁船に普及させたというのだから、あきれてため息が出る。
海は荒れるものだ。だから、海上事故の責任をむやみに誰かに押し付けることはできない。今も海洋警備安全本部関係者は船員や乗客の安全のため夜も寝ずに頑張っている。だが、国民が正常に作動していると信じる韓国の安全システムの中には、SOS自動発信装置のようにこっそりとスイッチを切られたまま、その実態が明らかになっていない「穴」がどれだけ多いことか。そう考えるだけで目まいがする。