話題のミュージックアプリがリアルなダンスフロアに出現!?
さる9月18日(木)、『SOTIRED―ソータイアド―Supported by aDanza』が、東京・表参道のOMOTESANDO GALLERYにて開催された。
今回で第2回目の開催となる『SOTIRED』。この日のラインナップのキュレーションを手がけたのは、タイトルにかかげられたミュージックアプリ「aDanza(エーダンサー)」をリリースした株式会社クリーチャーズの代表取締役であり、「スーパーマリオランド」「テトリス」「MOTHER」シリーズといった数々のゲーム音楽を手がけたことでも知られるサウンドクリエイター・田中宏和。
偶然にも、そのアクトのいずれもが、幼い頃から田中の作品に接していたバックグラウンドを持つ、新進気鋭のアーティストばかり。その結果、世代を超えたクリエイターたちによるダンスミュージックの饗宴とあいなったのだった。
パーティーをキックオフしたのは、CARPAINTER(カーペインター)。あらゆるジャンルのクラブミュージックを世界へ発信するネットレーベルTREKKIE TRAXを運営し、兄弟によるダブステップユニットSEIMEI & TAIMEIでの活動でも知られる、若きトラックメーカーだ。その冒頭から、ハウスやテクノを基調としたウォーミーなサウンドを鳴らしつつ、最後にはしっかりと確実に場を温めることで、トップバッターとしての役割を全うしてくれた。
そもそもユニット名である“カーペインター”とは、かの「MOTHER2」に登場した敵役キャラクターの名前でもある。自身も「MOTHER」シリーズの大ファンと公言しており、愛聴するサントラ盤に田中のサインをもらい、ホクホク顔でゴキゲンな様子だったことはここに報告しておこう。
「小学校の頃に『MOTHER』をプレイして感動したことを覚えています。いまでもゲーム音声を、自分のDJセットのなかに組み込んだりしてますからね(笑)
自分もiPhoneで『aDanza』をプレイさせてもらいましたが、ジュークっていう低音域が不思議なリズムを持つダンスミュージックのジャンルがあるんですけど、それで3DCGキャラクターを踊らせてみたんです。画面上のカエルとパイナップルが、やたらヘンな動きをしていたのが面白かったですね(笑)
もし僕が自由にアプリを作るとしたらですか? ダンスをしている動画から、リアルタイムでオリジナルサウンドを創り出すアプリとかあったら面白いかも。それって『aDanza』とはまったく真逆の発想からのアプローチですよね(笑)」
続いてブースに登壇したのは、紅一点のフィーメイルDJ、LICAXXX(リカックス)。彼女も、前述のCARPAINTER同様に、SOUNDCLOUDを始めとするオンライン上のプラットフォームにて積極的に楽曲をアップしながら、リアルの場でも様々なジャンルのイベントに登壇する、注目の新世代アーティストのひとり。
そのたたずまいはとてもフォトジェニック。だが、そのプレイスタイルは、ガーリーなのに骨太、キュートなのにファンキーといった趣。低音のきいたマッシブなベースミュージックを、軽快かつドープにスピンしていく様は、まさにイケメン。この夜もディープなハウスやテクノを織り込みながら、フロア内を爆音のベースサウンドで華麗に包み込んでくれた。
「かつてイベントでご一緒させてもらったことが、田中さんとのご縁ですね。そもそもポケモン世代なので、ゲームボーイの『ピカチュウバージョン』は好んでやってました(笑)
『aDanza』に登場する3DCGキャラクターのなかではアルパカが大好き。いろいろな曲をバックに踊らせましたが、ドローンのようなあまり変化のない単音が多いジャンルの音楽で試したときに、とても妙なダンスをするのが、メッチャ可愛かったです(笑)
もし自分がアプリを作るなら、ブラウザ上でループする音楽に、さらに面白いビジュアルを加えたようなものを作ってみたいですね。もともとメディアアートを中心に、音響プログラムやビジュアルデザインを勉強していたのですが、ブラウザのように誰もが気軽に触れられるフォーマットに興味があるんです。意外と理系女子っぽいですか? ウフフ(笑)」
フロアもだいぶ“いい塩梅”になってきた頃合いに、颯爽とブースに登壇したのはSEIHO(セイホー)。この時代にあえてフィジカルリリースにこだわった大阪発のインディレーベルDAY TRIPPERを主宰。そのアクティブなステージングも注目されているトラックメイカーとして知られているが、結果から言えば、初っぱなから激アゲ。絶え間なくジャンルの細分化を続けるエレクトロニックミュージックシーンの大海原を、雄叫びを上げながら軽やかに横断していくような、その戦略的かつ直感的なプレイはこの夜も際立っていた。
本人いわく「最近はジャングルっぽい民族的なドンドコしてる感じにハマってて(笑)。今日のセットのイメージですか? そうですねぇ…大きい美術館のど真ん中にインスタレーションされたジャングルみたいな(笑)」とのことだが、その圧倒的にプリミティブでありながら、デジタルネイティブ世代特有の緻密さも併せ持った彼ならではの独自のフェティッシュなパフォーマンスを思う存分披露してくれた。
「田中さんと言えば、僕のなかでもやっぱり『MOTHER』ですね。小さい頃からコンピュータは大好きでいじってたんですけど、なぜかゲームは全然しなかったんですよ。だけど『MOTHER』は、1、2ともにハマりましたね(笑)。ゲームシナリオ特有の決められたルートを感じさせないところが大好きでした。
だから自分でアプリを作るとするなら、人間が歩いたり動いたりする偶然性の行為が、デジタルと合わさったものを作りたいですね。例えば、ココから20km歩いたとしたら、その道中いろいろなことがあるじゃないですか? よく旅や思い出が創作に反映されるとかいうけど、リアルな行動や経験から、デジタルな音楽を生み出すことができたら、相当オモロいんちゃうかなぁって思ってます(笑)。何か企画があればぜひお願いします!」
一気にフロアを熱狂させたSEIHOに続くのは、御大・田中宏和。この日はオウンユニット、CHIP TANAKA(チップタナカ)としてブースに登壇。
PCや家庭用のコンシューマゲーム機に搭載された内蔵音源チップから作りだされる音楽ジャンルをチップチューンと呼ぶが、田中いわく「ゲーム音楽っぽいサウンドを披露するときの名義がCHIP TANAKAになりますね」とのこと。
自らコンポーズしたオリジナル音源をメインにスピンするDJスタイルは、ライヴとDJがマッシュアップされたような趣で、そのセットもたたずまいも“安定の4つ打ち”。自身作曲による「ドクターマリオ」のサウンドが鳴り響くと、フロア全体が温かい拍手と歓声に包まれる。抑え気味のステージライティングのなかで、絶えず一定の沸点をキープしながらスピンしていく様は、まさに重鎮と呼ぶにふさわしい貫禄だった。
御大のプレイに続いては、いよいよ大トリ、DE DE MOUSEがブースに登壇。このイベントのトリを任されるにあたって、「今回は深夜帯のディープなセットで臨みます!」と静かな気合いを見せていたが、音を鳴らし始めると同時に、ステージ上で杯を大きく上げて、自ら乾杯宣言。あっと言う間にクラウドの熱気を急上昇させて、瞬く間にフロア全体をアップリフティングさせていく。
そのスートーリーを感じさせる叙情性溢れるサウンドスケープと、エッジの尖ったエレクトロニックなビートを融合させた世界観は、ステージ上でさらに加速。絶えずフロアを煽り続け、積極的にコミュニケーション欲求を剥き出しにすることで互いをユナイトさせながら、最後まで一気に突っ走ってくれた。
「小さい頃から田中さんが作ったゲームサウンドの熱心なファンだったので、自ずと気合いも入りましたね(笑)。『メトロイド』や『MOTHER』シリーズを始め、それぞれのゲームならではの独自の世界観を構成していた大きな要因のひとつが、田中さんのサウンドだったと思ってます。
もちろん『aDanza』もプレイしましたし、自分の音源をバックにキャラクターを踊らせて喜んでます(笑)。ただ少しだけ欲を言うなら、いわゆる環境アプリとしてではなく、よりインタラクティブにユーザーになんらかの形で訴えかけてくるような機能が加わると、もっと楽しめるのかも(笑)
また、好きなアプリを個人的に作れるなら、昔のゲームのような、音源や映像に関する技術は限られているけど、アイデアやセンスを駆使することで、ユーザーそれぞれの想像力を刺激するようなものを作りたい。ゲームでもアプリでも、イマジネーションをうながす部分に魅力を感じるんです」
本イベントの実質的なオーガナイザーである田中いわく「普段から自分が“いいな”って思っていた方々に声をかけさせてもらいました」とのことだが、「お願いした全員からOKをもらえたことは、とてもラッキーだったし、一番満足していたのは、もしかしたら僕自身かも(笑)」と、何よりもキュレーター本人が楽しんでいたのが印象的だった。
「そもそも『SOTIRED』は、ポケモンを介して集まった3人(増田順一氏、岡本順哉氏、イマクニ?氏)と、“何か面白いことやろう”っていう、軽いノリで始まったイベントなんです。そのタイトルも4人で地下鉄に乗っていて、前の座席に座っていた女性のバッグに“SO TIRED(※“とても疲れた”の意)って書いてあって、「あっ、コレだ!」って思いついたのが理由ですから(笑)
『aDanza』というアプリを開発して、それをフリーでリリースしたのも、ソフトとしての利便性とか、それこそ事業としてどうこうってよりも、今回の一歩が、3年後、もしくは5年後10年後に少しでも影響を与えるようなきっかけになればいいなぁと思って始めたことなんです。
『aDanza』というアプリ自体、まだまだ拡張性があるソフトで、これからはもっと実用性というか、より具体的な目的を持ったアプリに変化していければと考えています。詳しいアイデアですか? それは秘密ということで(笑)
そもそも今回のようなイベントが開催できたのもラッキーだと思ってますし、これからもアプリを媒介にしたような、より意外性のある面白いことができれば嬉しいですよね」
ちなみに「aDanza」をタイトルに掲げた『SOTIRED』としては、今回の開催が最初で最後ということ。ちょっぴり残念な気もするが、ダンスをテーマにしたアプリのアーキテクチャー(設計思想)を、今回のようにダンスフロアというリアル空間に出現させたことは、いわゆるAR(オーグメンテッドリアリティ)と呼ばれる、拡張現実的なコンセプトに通じると言ったら言い過ぎだろうか? いずれにせよ、来たるべき第3回目の『SOTIRED』の開催が、いまから待ち遠しい限りだ。
『SOTIRED』のコアメンバー3人へのミニミニインタビューを敢行!
「ポケモン」を始めとする数多くのゲーム音楽やサウンドプログラミングを手がけるゲームクリエイターの増田順一氏、劇場版「ポケモン」シリーズのプロデューサーとして知られる岡本順哉氏、そして「ポケモン」界隈ではその名を知らない者はいない(?)、全身タイツに身を包んだ不思議な生き物イマクニ?氏の3人に直撃!
増田順一氏
「従来、僕は作曲のみで、DJ経験はなかったのですが、『SOTIRED』を始めることで、機材一式を揃えてDJデビューしたんです(笑)。今日も東京ゲームショウの授賞式を終えてかけつけましたが、タイトルの“疲れていても遊ぶ”ってのが共感できますよね(苦笑)。おかげさまで、ずっとフロアで踊らせてもらいました(笑)」
岡本順哉氏
「たまたまポケモンの仕事をしていた音楽好きの人たちが集まって始まったのが、『SOTIRED』。仕事の話もロクにせず、自分たちが楽しむことが第一なんですね(笑)。もともとテクノやハウス好きなのですが、そんなクラブミュージックでもゲームミュージックでも、ジャンルを問わずに踊って楽しめるのが『SOTIRED』の魅力ですよね」