精神障害に関する障害年金改悪案にパブコメを!(本日9/10締切)

みわよしこ | フリーランス・ライター(科学・技術・社会保障・高等教育)

誰でも障害者にはなりえます。その時、障害年金は命綱。(写真:アフロ)

現在、障害年金の「精神の障害に係る等級判定ガイドライン(案)」に関するパブコメ募集が行われております。

締切は本日。締切時刻は不明ですが、早いと17時、遅いと23時59分まででしょう。

誰もが罹りうる「うつ病」で障害年金が実質受けられなくなるなど、内容はかなりトンデモです。

「精神障害を詐称して障害年金で優雅な生活」というような方、まれに居るには居られますが、そういう不正受給に対する対策にもなっていません。そもそも、「詐病でも本物の病気でも受けられなくなる」が詐病対策になるわけはありません。

(精神障害の詐病を続けるのは容易ではありませんし、成功したからといってメリットはなく「デメリットのみ!」に近いのですが、その問題はさておきます)

パブコメは数が命です。

「こんな改悪されたら不安で病みそう」

「自分が精神を病んで精神障害者になったときに障害年金が受給できないんだったら、年金保険料払う意欲がさらに失せるじゃないか!」

とかの一言でも、どうかお寄せください。

パブコメ提出・要綱等はこちらから。

国民年金・厚生年金保険 精神の障害に係る等級判定ガイドライン(案)」に関する意見募集について

本記事では、現在、障害年金で生活を成り立たせつつ時折仕事をしており、さらに仕事を安定させるための努力を続けている50代女性のお話を中心に、精神障害者にとっての障害年金の意味と、受給しにくくすることがどういう問題をもたらしうるのかについて述べます。

この改悪で、生活保護しかなくなる人々が、さらに増えてしまうかもしれません。

ユミさんの語りから:今までと今までの暮らし

東京都内に住むユミさん(53)は、理工系大学を卒業したあと、建築事務所で設計の仕事をしていました。20代でCADや構造計算を請け負う会社を起業し、順調な業績をあげていた時期もあります。

「ワーカホリックだった」

と、ユミさんは苦笑します。

しかし、30代でまた会社員に戻っていたときに、過労が引き金となり、双極性障害(いわゆる躁うつ病)を発症しました。就労継続が困難になったことを自覚したユミさんは、会社を辞め、預貯金を切り崩して生活しながら療養。しかし治療の効果ははかばかしくなく、2年後に精神障害者福祉手帳を取得。同時に障害厚生年金を申請しました。現在は障害厚生年金(2級)を受給しています。

その後、治療のため通っていたクリニックで出会ったタツヤさん(54)と気が合い、同居を開始しました。タツヤさんも似たような成り行きをたどり、会社員時代に精神疾患を発症。現在のタツヤさんは障害厚生年金(2級)を受給しています。

二人の障害厚生年金を合わせれば、生活保護基準をかなり上回り、まあまあ暮らしていける金額。ほどなく都営住宅にも入居できました。

二人は、症状を悪化させないように注意を払いながら続けられる仕事を、長年模索していました。障害者作業所に通っていた時期もあります。現在は、簿記二級を取得したユミさんがときどき経理の外注を、タツヤさんは精神障害者専門の極小規模の支援事業所を立ち上げて運営にあたっています。一ヶ月あたり平均で、二人あわせて一ヶ月あたり概ね3~7万円程度の収入があります。

(後記で厚生年金額を補足します)

ユミさんは

「今、二人の障害年金と、ちょっとのアルバイトのような仕事で、なんとか暮らせているけど、年金なくなったら生活保護しかなくなります」

と語ります。

「少しは働ける」といっても、生計を立てられるほどの稼ぎを安定して得られるわけではない一般的な障害者にとって、障害年金は命綱です。その命綱がなくなったら、「最後のセーフティネット」生活保護しかありません。

もしも障害年金が、2級から3級になったら?

二人は「働けている」といっても、精神障害によるハンデをやはり負っています。

生活の維持は、家事援助のヘルパー派遣なしには成り立ちません。

「五体満足な精神障害者に、なぜヘルパーによる家事援助が必要なのか?」

という疑問を持たれる方もおられるでしょうが、家事も含めて、「できる」「できない」が精神症状によって大きく左右されるのが精神障害です。私も、統合失調症で精神障害者福祉手帳の2級を持っており、障害基礎年金も2級と判定されていますが、その事情は同様です。

今回の改正で、ユミさんとタツヤさんが恐れているのは、

「障害厚生年金の級が2級から3級に下がるのでは」

です。二人ともそうなったら、二人会わせての収入は10万円ほど減少します。

「そうなったら生活できません」

とユミさんは言います。

今回の「改正案」の問題は?

この改正案には、大小さまざまな問題が含まれています。

ウォッチしている方々が最も懸念していることの一つは、気分障害(うつ病・躁病・躁うつ病を含む)では、年金の2級の判定に関して、入院が要件になるということです。

「『入院』が何の目安になるのか?」と私も疑問です。というのは、入院を必要とするほど状況が悪くても、諸般の事情で入院できないという場面も多々あるからです。「適切そうな病院のベッドに空きがない」とか、「幼児のいるひとり親家庭の親で、入院中の子どものケアを考えると入院できない」とか。

長年にわたり、毎日の注射等のケアを必要とする高齢猫2匹(見送りましたが)を抱えていた我が家にも、同様の状況がありました。非常に精神状態が悪いとき、「入院したい」と自分も望み、医師も「入院したほうがいいのでは」と考える場面、実はまま有ります。年間数回くらいという感じです。入院は長くても1週間が限度です。すると、そんな短期で受け入れる病院を探すのは至難の業なので、なんとか入院しないでしのぐ方向で努力するしかないのです。病院できっちり休養・治療できれば、それに越したことはないのですが。

ユミさんは

「入院していようがしていなかろうが、もともと、社会生活が困難なんです。だから精神障害者なんです。たとえば私は、働こうと思っても、冬になると精神の調子が悪くなります。外に出られなくなりますし、電車も乗れません」

と言います。

福祉の制度は、その人の日常と生活の「最悪」に合わせるのでなければ役に立ちません。そもそも「入院」の有無は、判断の目安としての有効性が極めて薄いうえに、その人の「日常」と「生活」を何ら反映しません。

「入院」だけではなく、「服薬」「通院」にも同等の問題が含まれています。

「服薬の量と種類が、なんだか非常に少ない」は、少量の薬で効く特異体質であったり、不要な医療が可能な限り避けられた上で症状のコントロールが綱渡り的にうまくやれているのかもしれません。それ自体は、むしろ良いことではないでしょうか。医薬品費用も副作用も最低限にできるのですから。でも、薬の量や種類が症状の内容や重さ軽さを反映しているということは、「皆無」ではありませんが、多くの場合には、ありません。

「年間2回しか通院しなかった」は「調子が悪くて引きこもらざるを得ず、通院できなかった」かもしれないのです。

本人をふだん見ている主治医(それにしても病院にいるところしか通常は見ていないわけですが)以外の誰かが、「客観的に」軽重や年金の必要性を判断できるわけがあるでしょうか? 「無理無理、絶対無理!」と私は思います。

年金が減ったりなくなったりするなら、働けばいい?

では、年金が減ったりなくなったりするダメージを、就労によって補うことはできるでしょうか?

前述のとおり、ユミさんもタツヤさんも、自分に可能な範囲で就労収入を得る努力は、むしろ最大限にしています。最大限でも生計が立つほどの収入にならないのは、精神障害を悪化させないこととバランスを取らざるを得ないからです。精神障害は、本人がしんどかったり苦しかったり、周囲の人々が困惑したりするものです。特にユミさんは躁転に注意する必要があります。

ユミさんは、

「私みたいに、夏は普通に動けるけど、冬になると外出もできなくなるような症状を抱えていると、お金を得る道が得られにくいんです。在宅の仕事なら冬でも出来るかと思って、簿記2級を取ったりもしたんですが、その在宅の仕事も、50代になると、なかなかありません」

と言います。年齢に加えて精神障害。仕事を探すところにもハンデがあります。

そこにタツヤさんが

「障害基礎年金2級の人の場合、月額65000円の年金額だけでは、とても暮らせません。足りない分は生活保護か、あるいは働くかということになります。働けば生活保護は不要ですけど、『働け』というのは、おかしなことです。働けないから、働くことがどうしても制限されてしまうから、働いても充分な収入につながるような仕事を安定して続けることは無理だから、精神障害者と認められ、年金の対象にもなっているわけですから」

と補足します。

障害者雇用は解決になるのか?

ユミさんは、近年進んでいる精神障害者雇用についても、自分の経験から有効性を疑っています。

「障害者作業所で、手芸をやっていたことがあります。好きだし、体力的にも無理する必要ありませんし。でも、週3日通うのが限度でした。1回あたり、長くても5時間程度。すると、週あたり20時間には達しないんです」

週あたり20時間とは、障害者雇用と認められる最低限の就労時間です。

もちろんユミさんが通っていたのは障害者作業所(B型)ですから、「短時間だからダメ」ということはないのですが、収入につながりません。

「工賃、そんなには出ません。さらに作品が売れたら収入になるシステムでした。売上の収入は、月500円のときも3000円のときもありました」(ユミさん)

ちなみにB型障害者作業所の工賃の平均は、1万2000円程度です。これは、B型作業所が「働く場所」であることより「居場所」であることを優先しているからです。では、「働く」を優先しているA型障害者作業所ではどうでしょうか?

「最低賃金は保障されていますが、労働時間が短いんです。1日6時間、週30時間を超えると、事業所が厚生年金を払わなくてはならないので、実質、それ以下しか働けないことになります」

月あたり概ね120時間×最低賃金。仮に最低賃金が1000円だったとしても(実際にはこれ以下)、月収12万円。生活保護基準以下になってしまいます。しかも10月からは、作業所に対する補助金が、短時間勤務に対してさらに減らされる予定。長時間働くことも厚生年金の都合で難しい上に、短時間働くことも難しくなるわけです。もちろんユミさんの場合には、A型障害者作業所で長時間働くことが、そもそも非現実的です。

「障害者雇用の『週20時間以上』の縛りをなくしてほしいです。そうすれば、障害者でも、もう少し働ける人も出てくると思います。短時間の障害者雇用も、あったらいいと思います」(ユミさん)

もしも、障害年金制度「改正」が実施されたら?

今回の障害年金制度「改正」案については、若干でも働けて収入がある精神障害者を年金の対象にしない方向性も議論されています。

大企業の正社員で年収400万円、しかも安定して勤務が続けられている人に対して、障害年金が必要かどうかは議論の余地があるところと思います。

しかし、今回の検討は「月収が8万円あれば対象外とする」内容です。8万円に障害基礎年金2級の65000円を加えて、やっと145000円。生活保護基準より少し上、程度です。月収8万円で年金を切られたら、生活保護しかなくなります。

ユミさんは不安になっています。

「働けるなら、みんな働きたいだろうと思います。今は生活保護を利用している人達も含めて。私も働きたいです。でも、働いたら年金がなくなるのなら、働く意味がなくなります」(ユミさん)

しかも53歳のユミさんは、もうすぐ定年です。

「もしも、生計が立てられるくらい働けるようになったとして、そこから先に、何があるんだろうかと思います」(ユミさん)

そんな「社会に支えられる人」には生きていてほしくないというのが、現政権や政府のホンネなんだろうかと、私もときどき思うことがあります。

「今、放心状態です。どうしたらいいんだろうか、と。今、障害年金2級の人が、障害厚生年金なら3級、障害基礎年金なら年金なしになるでしょう。すると、年金なしになった人達は、生活保護にそのまま移行するしかなくなります。厚生年金3級になった人も、他に収入の手立てがなかったら、生活保護に移行するしかなくなるだろうと思います」(ユミさん)

生活保護に移行したら、「障害者でも就労を」という動きに巻き込まれざるを得ません。もちろん、精神障害者たち本人も、就労のための努力は重ねています。でも、生活保護の就労指導には、多くの場合、本人の心身の健康を守るという観点はありません。たいていは、ただただ就労を、ただただ収入アップを、ただただ就労による生活保護への脱却を迫られるだけです。

「障害年金がなくなったり減額されたりした人は、生活保護に移行するしかないでしょう。すると、生活保護費は増えます。そこに就労指導が加わったら……みんな、具合悪くなります。病気が悪化します」(ユミさん)

もしも、ケースワーカーによる就労指導で圧迫されて精神をさらに病むことがないとしても、生活保護で暮らすことは、けっして精神障害者の精神の健康にとって「良い」ものではありません。「良くはないけど、使わないと生きられないから、利用するしかない」という性質のものです。

「今、基礎年金しかなくて、あるいは年金の受給ができないために生活保護を利用している精神障害の仲間たちは、メディアの生活保護バッシングのたびに、具合が悪くなって、外に出かけられなくなったりもしています。今回の年金制度の変更案が成立してしまったら、そういう人たちが、もっと出かけられなくなったりしそうです」

もちろん、就労への道も、さらに遠くなるわけです。

最悪のシナリオは?

一連の動きを見ていて、否応なく浮かび上がってくるように感じられるのは、

「精神障害者に、就労と生活保護の二者択一を迫る」

という方向性です。

現在は、就労による経済的自立が難しい精神障害者・生活保護以外の選択肢がない精神障害者の間に

「障害年金と若干の就労でなんとかなっている精神障害者」

たちがいて、自分たちの身体と考えを活かしたさまざまな試みで、「就労」の可能性や内容や幅を拡大してきています。

その可能性を全く無にしてしまうのが、今回の改正案であろうと、私は考えています。

この改正案が成立すれば、

「就労による経済的自立が無理なら、施設か、家族か、生活保護へ」

ということにならざるを得ません。

施設と家庭の問題は、ときおり明るみになる施設での虐待、悲惨な事件となって初めて明るみになる「精神障害のある家族を、家族で抱える」ことの困難を挙げれば充分でしょう。

就労自立ができない精神障害者は、「自己責任」で、施設と家庭と生活保護のどこかに「押し込める」。そこで、どういう思いをしようが、知ったことではない。虐待、家族間の問題の放置、生活保護での強烈な就労指導で、死んだり自殺したりしたら、対象となる人数が減る……。

いくらなんでも、政府はそこまで明確に意図はしていないだろうと思います。思いたいです。

しかし、行きつくところは、そういうことにしかなりようがないのです。

少なくとも今回の改正案には、「年金」からこぼれ落ちてしまう人々が多数生まれることや、その人々のその後の困難についての関心は、見いだせません。

少なくとも今回の改正は見送り、審議を行うメンバーに当事者を半分程度入れるなどの根本的対策の後、再度、徹底した熟議を重ねてほしいと思います。

というわけで、パブコメを!

「少なくとも、この改正を、このまま推進するのは、まずいんじゃないか?」

と感じられた皆様。

どうか、下記URLから、パブコメをお願いします。

国民年金・厚生年金保険 精神の障害に係る等級判定ガイドライン(案)」に関する意見募集について

パブコメは数が命です。

「ブラック労働や派遣の問題が改悪されているんだから、自分だっていつ、精神を病んで精神障害者になるかわからない。そのときに障害年金が受給できないんだったら、なんでワーキングプアの自分から年金保険料をふんだくるんだ!」

「ちょっと待った! もうちょっと信頼できそうなメンバーを集めて、もうちょっとマトモに議論してからにしてよ!」

などの一言でも、どうかパブコメをお送りください。

みわよしこ

フリーランス・ライター(科学・技術・社会保障・高等教育)

1963年福岡市生まれ。大学院修士課程修了後、企業内研究者を経て、2000年よりフリーランスに。当初は科学・技術を中心に活動。2005年に運動障害が発生したことから、社会保障に関心を向けはじめた(2007年に障害者手帳取得)。著書は書籍「生活保護リアル」(日本評論社、2013年)など。2014年4月より立命館大学先端総合学術研究科一貫制博士課程に編入し、生活保護制度の研究を行う。なお現在も、仕事の40%程度は科学・技術関連。

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