大研究シリーズ 他人に聞けない遺伝の秘密[前半]

2011年02月23日(水) 週刊現代

週刊現代賢者の知恵

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 先に挙げたように先天的な遺伝子異常から乳がんや大腸がんになることが分かるということは、遺伝子を見れば、自分の寿命を予想できてしまうことになる。だが、それでも早期検診、早期治療を心がけることである程度、寿命をコントロールすることはできる。

 人間ドックに力を入れている浅草クリニックの内山伸医師が言う。

「高血圧や糖尿病の症状がある方の半分以上が親や兄弟も同じ症状を抱えている。顔や体型が親子で似ているのと同じように病気が遺伝するのです。生まれつきの遺伝子異常が原因で、これらの病気になることはまれですが、遺伝性はきわめて高い。最近は個人情報だからと家族の既往歴を書かない人が増えています。しかし、家族にどんな病気の人がいるか分かれば、その病気が遺伝する可能性を疑って、他の人よりも検査を頻繁に行うなど対処ができるのです」

 遺伝子を見るだけで分かることは、これからも次々に増えていくだろう。ただし、遺伝子で定められた「運命」は自らの力で変えることも可能なのである。

2.天才は努力か、それとも 親の「才能」はどこまで遺伝するか
ノーベル化学賞の根岸英一 日本画家の千住博
外科医の南淵明宏 サッカー日本代表の李忠成ほか

根岸教授の孫も成績優秀

 前項では遺伝子により、たいていのことが分かると紹介した。この項では、個別の遺伝子を調べても分からないが、総体として親から子へ引き継がれる「遺伝」について、各ジャンルの才能の持ち主たちの証言を見ていこう。

 才能とひと口に言っても、頭の良さもあれば、芸術的センス、直感力など数多ある。最初に知性の最高峰とも言えるノーベル賞受賞者に聞いた。昨年、ノーベル化学賞を受賞した米パデュー大学・根岸英一特別教授(75歳)が語る。

「両親は私のように学問の道に進んだわけではありません。そもそも大学を出ていませんから。父は若い頃に父親を亡くしました。それで義兄を頼って満州に渡り、高等商業学校を卒業して、現地の商社に職を得たのです。本人は東京で一高(東大教養学部の前身)に入るつもりだったようですが、父親が亡くなったために断念せざるを得なくなったんですね。もともと、勉強はできたようで、満州の人とロシア語で会話していたのを覚えています。

 父は私の教育についてはまったく口を挟みませんでしたが、私が東大を受験した時、私より先に合格発表を見に行きましたから、決して教育に無関心なわけではなかったようです。若くして父親を失わなかったら、かなりのエリートコースを歩いた人だったのではないでしょうか」

 根岸氏の父親は、息子が東大に入り、研究者の道に進む姿に、自分が叶えられなかった学問への思いを重ねていたのだろう。根岸氏が父親の本来持っていた知性を指摘したように、生まれながらの能力を左右しそうな遺伝子はいくつも見つかっている。たとえば、新しい出来事に直面したら強く反応する、いわば「新しいもの好き」の遺伝子があり、この遺伝子を持っていれば、研究者に向いているかもしれない。また、アスリートを調査した結果判明した持久力や瞬発力に関係する遺伝子もある。

 こう書くと「才能なんて遺伝で決まるから、人間が平等なんてウソ」という声が聞こえてきそうだ。「トンビが鷹を産む」という諺があるが、現実にはほとんど起こり得ないのか。将来、成功するかどうかは、生まれる前から遺伝で決まっているのか?

 根岸氏の話を続けよう。

「自分で言うのもなんですが、私は子供のころから勉強は得意だったんです。教室で先生の話を聞けば、その場で理解できる能力が高かったのでしょう。でも、私の2人の娘たちを見ていても、学問的能力で似ているところはほとんどないですね。彼女たちは大学時代も特に勉強ができるとか、優等生だったとかいうことはありませんでした。多少は勉強するように私も言ったんですがね。学部も私と違い、文系ですし。

 もっとも、4人の孫のうち、男の子2人はかなり頭がいいみたいです。上の子は高校時代はオールAの優等生で、スカラシップ(奨学金)を得て、いまコロンビア大学の1年生。文系ですが、理系でもいける素質があるようです。下の子はまだ小さいですが、こちらも学業優秀です。男の子のほうに頭の良さが出る家系なのかもしれません」

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