[東京 10日] - 今月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で利上げが行われるという見方が、市場ではなお根強い。しかし、企業収益面などで米国景気は「足場がかなり悪い」上に、賃金面からのインフレ懸念はさっぱり出てきていない。しかも、中国発で世界経済が「視界不良」となっており、市場は不安定化している。
常識的に考えて、こうした中での利上げは無理筋である。それでも利上げを今月強行するようだと、国際通貨基金(IMF)や世界銀行が危惧しているように、「逆噴射」的なイベントになってしまい、世界経済を一層大きな混乱に陥れかねない。米国の金融政策正常化路線があっさり頓挫してしまうリスクもあり、9月16―17日のFOMCで利上げが行われる可能性は極めて小さいと筆者は考えている。
4日に発表された8月の米雇用統計が利上げ開始の根拠になるという声もある。だが、説得力に欠ける。内容はまちまちで、9月利上げを目指すタカ派に決め手を提供することにはならなかった。しかもこれは、8月中旬以降の中国発世界同時株安など、最近の動きをほとんど織り込んでいないデータだ。
8月の非農業部門雇用者数は予想比下振れの17.3万人増にとどまったが、6・7月分は計4.4万人分、上方修正された。しかし、上方修正のほとんど(3.9万人分)は政府の雇用(州・地方政府の教職員が中心)で、景気とは直接の関連がない。民間部門の雇用者数はほとんど上方修正されなかった。また、8月の民間部門の雇用者数は14万人増にとどまった。プラス幅は3月以来の小ささである。
さらに言えば、非農業部門雇用者数は4カ月ぶりに20万人増を下回った。月々の振れを均(なら)すため後方6カ月移動平均をとると、8月時点で20.5万人増まで鈍化している。
失業率は5.1%(前月比0.2%ポイントの改善)で、FOMC内の多数意見が完全雇用と見ている水準まで下がった。だが、長期失業関連の2つの数字(平均失業期間、失業者のうち27週以上失業している人の割合)は、いずれも悪化した。
インフレ見通しを考える上で注目度が高い民間部門の時間当たり賃金は25.09ドルで、前月から8セント増加。前月比はプラス0.3%で予想比上振れた。しかし、前年同月比は7月と同じプラス2.2%であり、過去5年ほど推移してきた穏当なレンジ内(プラス2%前後)にしっかり収まったままである。
ソーシャルトレンド