社説:安保転換を問う 参院の役割

毎日新聞 2015年09月10日 02時40分

 ◇これでも採決急ぐのか

 安全保障関連法案を審議する参院平和安全法制特別委員会は、法案を採決する前提とされる中央公聴会の開催を与党などの賛成多数で決めた。政府・与党は来週の16日にも成立を図る構えだ。

 審議の内容は、採決に踏み切る状況からは依然としてほど遠い。参院は「良識と抑制の府」としての役割を果たすべきだ。

 法案を審議するほど疑問が深まる構図は変わらない。8日の参考人質疑でも、内閣法制局の長官経験者から重要な疑義が示された。

 安保関連法案のうち、他国軍への後方支援を定めた重要影響事態法案と国際平和支援法案は、戦闘作戦行動のため発進を準備する航空機への給油を可能とする。政府はこれまで「認めなかったのはニーズがなかったため」だと説明していた。

 ところが参考人として陳述した大森政輔(まさすけ)元内閣法制局長官は内閣法制局が政府の内部検討にあたり、この活動を憲法違反だと指摘していたことを明らかにした。

 1999年に周辺事態法が制定された当時、大森氏は長官だった。その際、内閣法制局側は給油活動は「典型的な武力行使との一体化事例であり、憲法上、認められない」と主張した。だが、外務省と対立したため「表面上は(米軍からの)ニーズがないからということにしたのが真相」なのだと言う。

 これも法案の根幹に関わる問題だ。ところが、政府が十分な説明もしていない段階で、特別委は中央公聴会を15日に開くという日程を決めてしまった。

 安保関連法案は14日以降、参院が受け取ってから60日以内に議決しなければ衆院は参院が否決したとみなし、再可決できる憲法の規定が適用可能となる。だが、与党は参院での採決に踏み切る構えをみせている。

 自民党の高村正彦副総裁は講演で「国民のため必要(な法律)だ。十分に理解が得られていなくても決めないといけない」と語った。国民理解は置き去りでいいとでも言うのだろうか。

 参院特別委の鴻池祥肇委員長(自民)は礒崎陽輔首相補佐官がかつて今月中旬の成立に言及した際、「参院は衆院の下部組織や官邸の下請けではない」と批判した。その通りだが、採決を急ぐようでは衆院と変わらない。

 「先の大戦で貴族院が(軍部を)止められず戦争に至った道を十分反省をしながら、参院の存在を作り上げた。衆院の拙速を戒め、合意形成に近づけるのが役割だ」。これも鴻池氏の言葉である。参院の存在意義を今こそ、示す時だ。

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