【シドニー=高橋香織】欧州に殺到する難民問題に国際社会も重い腰を上げ始めた。オーストラリアのアボット首相は9日、1万2000人のシリア難民を受け入れると発表した。中東からの難民受け入れの動きは地理的に近い欧州にとどまらず、ニュージーランドやカナダ、南米にも広がるが、増え続ける数に追いつかない。国連は「世界最大の人道危機」(潘基文事務総長)への対応を求め、同問題に関する首脳級会合を30日に開催する。
豪州は当初、年間の難民受け入れ枠(現在1万3750人)内でシリア難民の数を増やすことを検討した。国際社会で役割を果たすべきだとの世論に押される形で、別枠での大幅な積み増しを決めた。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)を通じ、早ければ年内にも難民を受け入れる。定住が前提で1回限りの緊急対応としている。
豪メディアは難民の定住費用が4年間で7億豪ドル(約600億円)に上ると報じた。このほかシリア周辺のヨルダン、トルコ、レバノンに脱出した難民支援のため、国連に4400万豪ドル(約37億円)を追加拠出する。
アボット氏は「現時点で世界が約束した中では、最大の貢献の一つだ」と述べた。豪州は英国をはじめ欧州などからの移民が建国した歴史を持つ。「今日も我が国は、恐怖から逃れてきた人々が人生をやり直せる場所だ」と同氏は強調した。
さらに難民流出の根を断つため、シリア領内の過激派組織「イスラム国」(IS)に対する空爆に踏み切ると表明した。
難民の受け入れは他国にも広がりつつある。ニュージーランドが今後2年半で750人、カナダのケベック州は3650人の受け入れをそれぞれ表明した。同州は難民政策で独自性を発揮する権限を持ち、連邦政府にも協力を求める方針だ。
南米チリのムニョス外相は9日までに、100家族の受け入れを表明。AFP通信によると、ブラジルのルセフ大統領は「両手を広げて」難民を歓迎するとし、ベネズエラも2万人規模の受け入れへ準備を開始した。
各国を突き動かしたのは、トルコの海岸に漂着した3歳児の衝撃的な遺体写真の報道だ。人道問題への不十分な対応は、国内での政権批判につながりかねないとの計算が見え隠れする。難民受け入れ方針では欧州連合(EU)と一線を引く英国も、今後5年で2万人を受け入れると表明した。
ただ今年の欧州への難民申請件数は200万人に迫るとの観測もある。現時点で態度を明らかにしていない米国や日本も今後対応を迫られるのが必至だ。
国連の潘事務総長は「あらゆる手を尽くさなければならない」と各国首脳に責任ある対応を呼びかけた。今月30日にニューヨークで開く首脳級会合までに、各国がどれだけ迅速に有効策を打ち出せるかが焦点となる。
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