──読売、産経が“朝日たたき”と並行して展開した販促キャンペーンに、池上さんは冷ややかですね。
はい、そうですね。一連の騒動で朝日は部数減らしましたけど、読売はそれ以上に減らしました。朝日をたたけば読者が流れると思ったら流れてこなかった。要は自分の金儲けのためだろって見透かされた。読者はますます引きますね。新聞界全体への信用が失われたってことですよ。
それに誤報という事実と、もともとの朝日の論調を一緒くたにして攻撃したのも乱暴ですよね。従軍慰安婦の「吉田証言」を長く訂正しなかったという問題と、慰安婦問題そのものとはまったく別の話ですから。
──安保法制に関する報道では完全に二極化していますね。
7月に衆議院特別委員会で採決された際、これを「強行採決」と報じた新聞と「与党単独採決」とした新聞、その夜国会前に6万人が集結した抗議デモを大きく扱った新聞と無視した新聞があるわけでしょ。各論調とは別に、あれだけの人が集まった事実は報道する価値がある。産経は、あれを安倍晋三さんに対するヘイトスピーチだって言ってますけど(笑)。
安保法制賛成の新聞は反対意見をほとんど取り上げない。そこが反対派の新聞と大きく違う点です。読売は反対の議論を載せません。そうなると、これがはたしてきちんとした報道なのかってことになる。
世論調査は誘導尋問調査になっている
読売でとりわけ驚いたのは、安保法制への賛否を問う世論調査の質問文です。「日本の平和と安全を確保し、国際社会への貢献を強化するために、(中略)こうした法律の整備に賛成か反対か」って、これ、明らかに誘導ですよね。こんな聞き方されたら、それはいいことかもって思わされるような質問の仕方です。
──世論調査については、本の中でも特に問題視されてます。
たとえば集団的自衛権を認めるか否かを調査したとき、読売は賛成か反対かだけじゃなく、「必要最小限ならいい」という選択肢を入れたんですね。必要最小限っていう言葉自体、そもそもいいことを前提としての聞き方でしょう。そりゃ何だろうと必要最小限はいいですよね。賛成・反対の間に必要最小限を置いて、賛成と足し合わせた答えが多くなるよう誘導しているんですよ。以前はまだ客観的な聞き方をしてたはずなんですけど、去年からの読売の世論調査は明らかな誘導尋問調査ですね。